この世のメドレー(町田康)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

この世のメドレー

【ネタバレ有り】この世のメドレー のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:町田康 2012年7月に毎日新聞社から出版

この世のメドレーの主要登場人物

余(よ)
温泉町・田宮に住む小説家。

袂拾郎(たもとじゅうろう)
余の後輩。

竹内信二(たけうちしんじ)
大阪の大手ガス会社から内定を貰いながら辞退して、沖縄で民宿の従業員になる。

この世のメドレー の簡単なあらすじ

人生に絶望し1度は死を覚悟した余でしたが、絶海の孤島での不思議な体験を通して「超然」と生きることを決意します。田宮の自宅に帰ってから数日後、今度は後輩の袂拾郎と共に沖縄への珍道中が繰り広げられるのでした。

この世のメドレー の起承転結

【起】この世のメドレー のあらすじ①

突如として南の楽園へ

売れない作家として細々と執筆活動を続けていた余は、ある時に全てを放り出して絶海の孤島へと旅立ちました。

生きることに対して絶望に暮れていた余は、その場所でありとあらゆる欲望から解き放たれていき「超然」を手に入れることに成功します。帰ってきてからは相も変わらず平凡な日々を送っていましたが、ある日のお昼頃に年下の友人である袂拾郎が自宅を訪ねてきました。食事をご馳走になりにきた袂君の口車に乗せられて散財をさせられた余は、後輩に懐の大きなところを見せようと旅行を提案します。希望先を「沖縄」と即答した袂君に対して引っ込みがつかなくなってしまった余は、着の身着のままでチケットを購入して成田空港を旅立っていくのでした。

【承】この世のメドレー のあらすじ②

目的地には着いたけれど

那覇空港に降り立ったものの特に行く当てのない余と袂君は、とりあえずレンタカーを借りて腹ごしらえをすることにしました。

シンプルな国産車に乗り込んで殺風景な国道沿いを走行しているうちに、辺りはすっかり宵闇に包まれていきます。

ようやく前方に発見したぼんやりと光る看板には「平安」と書かれていて、どうやらタイ料理のレストランのようです。

手作りのメニューと美味しいお酒にすっかり満足なふたりでしたが、早めに今夜の宿泊先を探さなければなりません。

店主の美しき女性といつの間にか仲良くなっていた袂君は、彼女の友達が経営する海辺の民宿を紹介してもらいます。

宿を訪れた余たちを出迎えた従業員は、大阪から沖縄へと流れ着いた奇妙な男性です。

【転】この世のメドレー のあらすじ③

竹内の数奇な運命

竹内信二は大阪府に生まれて、中学生の頃からロックンロールに熱中していました。

大学在学中もバンドを組んでプロデビューにまで漕ぎ付けた矢先、大阪の有名なガス会社から内定を頂きます。

ミュージシャンに挑戦してみるか、将来のことを考えて堅実なサラリーマンへの道のりを歩むか。

悩み抜いた竹内は就職先を蹴って夢を追いかけますが、バンドはあえなく解散してその後は鳴かず飛ばずです。

40歳を過ぎて貯金も尽き欠けていた竹内はこの宿に辿り着き、スタッフとして拾われます。

竹内と意気投合した余と袂は、宿の中にあったドラムやベースを気の向くままにかき鳴らします。

思いの外呼吸の合った演奏で勢いづいた一向は、無謀にもライブハウスに出演するのでした。

【結】この世のメドレー のあらすじ④

聴衆の冷たさと楽屋裏の地元の温かさ

那覇の国際通りから少し奥に入ったライブハウスで行われた余たちの生演奏は、散々な結果に終わりました。

本番前にメンバーたちに襲いかかる緊張感は並大抵のものではなく、観客たちの反応も冷然たるものです。敗北感で打ちのめされて楽屋に引っ込んだ余たちを、地元の先輩ミュージシャンたちは温かく迎えてくれます。

ライブの終わりにはみんなで連れ立って民謡酒場へと向かい、呑めや歌えやの大騒ぎとなりました。

翌朝は泡盛のせいで二日酔いで苦しみながらも、余と袂君は空港で搭乗手続きを済ませて帰路に着きます。

宿泊代から往復の飛行機チケットに果てはお土産の購入代金まで袂君は要求しますが、超然者たる余は金銭を惜しむことはないのでした。

この世のメドレー を読んだ読書感想

著者自身を投影したかのような冴えない主人公が、1週間連続でチキンラーメンを食べているオープニングから笑わされました。

突然の侵入者であつかましい若者の袂君との、ユーモアたっぷりな掛け合いも楽しかったです。夏目漱石の名作「我輩は猫である」に登場する苦沙弥と、迷亭さんや寒月くんを始めとする数多くの珍客たちとの間で繰り広げられる他愛もない会話を思い浮かべてしまいました。はるか遠く沖縄で出会った竹内信二とすっかり意気投合した主人公たちが、ロックバンドを結成して那覇市内のライブハウスで演奏する予測不可能な展開にも驚かされます。

一見すると投げやりなラストの中にも、次回作「生の肯定」への伏線も張り巡らされていて心憎いです。

コメント