著者:伊坂幸太郎 2003年4月22日に新潮社から出版
重力ピエロの主要登場人物
泉水(いずみ)
本作の主人公であり語り手。春の兄で、遺伝子関連の会社「ジーン・コーポレーション」に勤めている。
春(はる)
泉水の2歳違いの弟だが、血は繋がっていない。市内に描かれるグラフィティアートという名の落書きを消す作業を仕事としている。
父(ちち)
泉水と春の父親だが、春とは血が繋がっていない。現在癌を患って入院中。
母(はは)
泉水と春の実の母親。すでに他界している。
葛城(かつらぎ)
泉水の勤める会社に遺伝子検査を依頼した謎の男。売春斡旋をしている。
重力ピエロ の簡単なあらすじ
泉水と春は、仲の良い兄弟ですが血が繋がっていません。
なぜなら、春は母親がレイプされてできたときの子供だから。
そんな2人が住む街・仙台で連続放火事件が発生します。
そして、泉水の会社までもがその標的となってしまいました。
この連続放火にはある一定の法則があります。
それは、放火被害に遭った現場の近くには、必ずグラフィティアートが描かれているというもの。
この法則に気付いたのは、グラフィティアートの除去作業を生業としている春でした。
そして、謎を解明すべく兄弟で動き出します。
しかし、謎が明かされたその先には…兄弟にとって衝撃の事実が待ち受けているのでした。
重力ピエロ の起承転結
【起】重力ピエロ のあらすじ①
泉水と春は2歳違いの兄弟ですが、春は母親がレイプされたときにできた子供であったため、血は繋がっていませんでした。
そんな泉水と春の住む仙台市内で連続放火事件が発生します。
ある日、弟の春が兄・泉水に「次に狙われるのはジーン・コーポレーションだ」と忠告してきました。
そして、それが現実となります。
火事は幸いにも大事には至りませんでしたが、泉水は春が何故そう考えたのかが気になり尋ねると…。
春は、「連続放火現場の近くには、必ずグラフィティアートがある」と答えます。
春の仕事は、街中に描かれたグラフィティアートを消すこと。
仕事をする中で、その法則に気付いたというのです。
現場近くに描かれているというそのグラフィックアートは横文字。
そして、これまでの文字を全てを繋げると「God can talk Ants goto America 280 century」となるといいます。
果たして、この文字が意味することとは?現時点では2人にその意味を見つけることはできません。
そして、2人はそのことを癌で入院中の父親に伝えます。
それからしばらくして…。
泉水は、郷田順子と名乗る謎の美人に声を掛けられます。
泉水にとっては初見となる人物でしたが、順子はどうも泉水のことを知っている様子。
そして、春のことも知っているようでした。
日本文化会館管理団体の人間だという順子は、春の様子がおかしいとしきりに泉水に伝えてくるのですが…。
【承】重力ピエロ のあらすじ②
泉水は、「あの犯人がこの街に戻ってきた」という噂を耳にします。
その犯人とは、かつてこの地でおきた連続レイプ事件の犯人のことで、事件の被害者の1人が泉水と春の母でした。
つまり、弟・春はこの時にできた子供ということ。
レイプ犯が、春の実の父親になるのです。
噂によると、犯人の名は葛城といい売春の斡旋をしているということでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・泉水と春の父親(春にとっては育ての父)は、現在ガンを患い入院中です。
ある日、泉水と春が2人揃っては病院へ見舞いに行った際、放火事件とグラフィティアートの関連性を父親に話します。
そして、その中に遺伝子らしき暗号を発見。
すると、父親が2人に「次の現場には「ago」という文字が描かれる」と断言しました。
その言葉を信じた2人は予想をつけて現場一帯を捜索。
しかし、この時は予想が外れて別の建物が狙われてしましました。
すると、その現場で泉水は郷田順子の姿を見かけます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・泉水は、葛城の身辺を探るため探偵・黒澤に調査を依頼します。
そして、葛城に「DNAを調べることで将来かかるであろう病気が判明する」と持ち掛けて興味を誘い、葛城のマンションに潜入してDNAを入手。
泉水は、「もしかしたら、この人物があの事件の犯人なのか…そして、春の父親なのか…」と、友人に頼んでそのDNAを解析してもらうのでした。
その後、葛城のマンションを出た泉水は、そこで順子と遭遇。
泉水は、そこで順子に「放火事件現場で順子を見かけたこと、そしてなぜここにいるのか」と問うと、順子はこう答えます。
「放火があったあの建物から逃げ出す男を目撃した。
そして、追跡したらこのマンションに着いた。」
のだ…と。
【転】重力ピエロ のあらすじ③
謎の女性・郷田順子。
順子が所属するという日本文化会館管理団体は存在しませんでした。
最初こそ正体不明の順子でしたが、泉水はこのときすでに郷田順子の正体が分かっていました。
彼女は、「かつての春のストーカー」だった人物。
整形手術で顔を変えてはいたものの、その仕草は変わっていなかったことから、泉水は彼女の正体に気付くことができたのです。
春へのストーカー行為は一時中断したものの、また戻ってきた順子。
結局のところ、順子の春への想いは叶わず…でしたが、それはそれですでに満足している様子。
ただ、春の様子がおかしいと気づいた順子は、春をこのままにしておくことができずにいたのです。
そしてあるとき、「春の部屋にいるから来て欲しい」…そう順子から泉水に電話がきます。
春のいない間に勝手に春の部屋へ侵入した順子。
不法侵入ということになりますが、まずはそのことは置いといて。
泉水は、順子のいる春の部屋へと駆け付けます。
すると、そこには連続放火現場を印した地図があるのでした。
【結】重力ピエロ のあらすじ④
泉水のもとに「新たなグラフィティアートを発見した」との春から電話がきたため、2人は放火現場へと向かいます。
2人で張り込み中、春が泉水に水を勧めると…飲んだ泉水は意識朦朧状態に…。
そして、泉水が気付くとそこには春の姿はなく、代わりに順子がいて、意識を取り戻した泉水に対して「実は、これまでの放火は春が犯人である」と告げるのでした。
春の身辺を探るうちに犯人が春だということを知ったこと。
春に口止めされていたこと。
泉水に興味を持たせるためグラフィティアートの暗号に遺伝子を取り入れたことなど、順子の口からこれまでの真実が語られます。
そして、春が今いるであろう場所へと向かいます。
泉水が予想した場所…それは小学校の校庭。
辺り一面濃い霧で覆われていたため、その場所に春の姿を確認することができません。
しかし、しばらくするとその中から春の声と、もう1人…葛城の声が聞こえてきました。
春は葛城に…葛城は春に、これまでの真実とそれぞれの思いを口にします。
そうする中で葛城は、罪の意識など全くないように…それどころかまるで春を挑発するかのように「自分が春の父親であること」「泉水と春の母親をレイプしたこと」など事実を認めました。
すると、「自分の父親は今入院しているあの人であること」「赤の他人のお前が父親面するな」といった春の声が聞こえ…。
それに続くかのように、誰かが何かを殴ったかのような音が響き渡るのでした。
その音が何だったのかわかりません。
ただ、その後、葛城が泉水と春の前に生きて姿を現すようなことはなく、通り魔事件として警察が捜査をすることになりました。
後日、春は自ら自分の罪を明かし自首しようとするも泉水がそれを止めてこの件はうやむやに。
入院中の父親は手術をするもすでに手遅れで、その後亡くなってしまうのでした。
火葬場にて…。
泉水と春は、火葬場の煙突から出る煙を見ながら2人仲良くお酒を酌み交わすのでした。
重力ピエロ を読んだ読書感想
冒頭からの「春は強姦魔の子ども」ということからも推測されるように、全体的に重めな内容のため、読むときは少々覚悟が必要な作品と思われます。
ただ、「出口のない苦しみしかない」というような作品ではないのでご安心を。
内容自体は非常に面白く(特に終盤)、謎が深まるにつれてどんどん惹きこまれていってしまう作品でした。
一見、ミステリー作品かと思いきや、そこには兄弟・家族愛、そして復讐劇という要素までもが織り込まれていてちょっと贅沢な気分にもなれましたね。
ただ、なんかかんや言っても春に関しては結局のところ切ないな…と。
自分の忌まわしい出生を知っている春。
それを胸に秘めずっと生きてきた春の苦しみは計り知れません。
愛情深い家族の元に生まれて幸せではあったはずですが、それでもやっぱり事実を知っていればそこからは逃げられない…。
そんな葛藤の中で生きる春が導き出した結論は、結局こうであった…というのが非常に切ないものでした。
作中にははっきり書かれていませんが、葛城は恐らく死んだのでしょう。
春が殺したのです。
でも、それでいいと思うのです。
あとは、警察に捕まらなければいい。
読者の1人として、これからも今まで通りの日常を歩み続けて欲しいなと切に願うのです。
コメント