「お嬢さん」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|三島由紀夫

お嬢さん 三島由紀夫

著者:三島由紀夫 1960年11月に講談社から出版

お嬢さんの主要登場人物

藤沢かすみ(ふじさわかすみ)
ヒロイン。大学生。学校の勉強にも結婚にも期待していない。

藤沢一太郎(ふじさわいちたろう)
かすみの父。技師から電気会社の重役にまで上り詰める。アメリカ式のマイホーム主義に憧れる。

沢井景一(さわいけいいち)
一太郎の部下。 職場では真面目でも私生活は派手。

藤沢秋子(ふじさわあきこ)
かすみの義理の姉。 社交的で夫婦仲もいい。

浅子(あさこ)
ブティック店員。 情熱的な性格だが他人のことは冷静に見える。

お嬢さん の簡単なあらすじ

藤沢かすみは父親の一太郎が開いたホームパーティーで、異性関係の派手な沢井景一という男性と出会いました。

特にしつこく付きまとっている浅子という女性を遠ざけるために、かすみは景一と結婚します。

結婚後にかすみは景一と義理の姉・秋子との関係を疑い始めますが、浅子のアドバイスで乗りきり第一子を授かるのでした。

お嬢さん の起承転結

【起】お嬢さん のあらすじ①

 

プラットホームで見た訳あり男女とアメリカ式ホームパーティー

女子大学生の藤沢かすみは正月が明けてすぐに試験を控えているために、学校でも1番に仲のよい千恵子と一緒にジャズ喫茶で勉強していました。

銀座に寄り道をしてふたりで東京駅の構内を通って帰る途中で、湘南電車から着物を着た女性と青年が言い争いながら降りてきます。

青年の方は千恵子の又いとこ・沢井景一で、かすみの父親・一太郎が業務部長を務めている大海電気の秘書課の社員です。

試験が終わった後で一太郎は自宅へ社内の独身男性たちを招いてダンス・パーティーを開くと言い出し、かすみも大学の女友だちを連れてくるように命じられました。

当日になって先陣を切ったのはかすみの兄・正道とその妻の秋子でしたが、他の招待客は照れくさがってなかなか躍り出しません。

かすみは景一からダンスに誘われますが丁重にお断りしつつ、先日に東京駅で目撃した光景をこっそりと耳打ちします。

誤解を解きたいという景一が待ち合わせ場所に指定してきたのは、渋谷駅前の迷路のような飲食街の奥にある喫茶店の2階です。

【承】お嬢さん のあらすじ②

 

幸せな新婚家庭に忍び寄る影

ナイトクラブで大立ち回りをやらかしたり芸者とふたりで熱海まで駆け落ちしたりと、景一の学生時代の武勇伝は尽きません。

東京駅でもめてた女性はその時の芸者で、かすみは景一の話の面白さにすっかり引き込まれてしまいました。

銀座の洋服屋の女性店員・浅子にも付きまとわれていて、「結婚してくれなければ死ぬ」とまで脅されていることを沢井は打ち明けてきます。

浅子にあきらめを付けさせる1番のいい方法としてかすみが提案したのは、自分と結婚することです。

娘の交際相手に対しては一太郎は徹底的に調べ上げていましたが、景一の実家は九州地方の士族出身で結婚資金の心配もなく家柄も申し分はありません。

すべてはトントン拍子に進んでいきかすみは学校を中退して、成城学園前の実家から大田区大森のアパートへ引っ越して新婚生活をスタートさせました。

浅子がふたりの新居を訪ねてきたのは結婚式が終わって3カ月ほど過ぎた12月の初旬で、ひとりでいたかすみは彼女を家の中に招き入れてしまいます。

【転】お嬢さん のあらすじ③

 

膨れ上がる疑惑にかすみの反撃開始

景一が帰宅した途端にパニックになった浅子は、バルコニーから飛び降りようとしますが何とか取り押さえました。

落ち着きを取り戻した浅子はアパートを出ていきましたが、しばらくの間はかすみは自殺者を報じる新聞の三面記事が気になって堪りません。

さらには一太郎が帝国ホテルの新館を借りきって主宰したクリスマス・パーティーの夜、景一と秋子が親しげにしているのを見てしまいます。

年が明けて実家に親戚一同が集まった時にもふたりは親密な様子で、かすみの疑惑は膨れ上がっていくばかりです。

かすみは若い男性野用のスポーツ・シャツやネクタイを買っておいて、わざと目に付きやすい場所に隠しておくことを思いつきました。

もしも景一がかすみの部屋の中で見慣れない男物の衣類を発見したならば、嫉妬心に耐えられなくなるでしょう。

三が日が終わったばかりの銀座で1軒開いていたのは「エル・ドラドオ」というお店で、中から出てきたのは上品なスーツを粋に着こなして笑顔で接客する浅子です。

【結】お嬢さん のあらすじ④

 

かつての恋敵からのエール

景一への未練をすっぱりと振り切った浅子は、建築技師と恋愛してもうすぐに結婚すると嬉しそうです。

この前のおわびに店を抜け出して並木通りの喫茶店でコーヒーをおごってもらった上に、個人的なお悩み相談にも乗ってくれました。

かすみのことを「困ったお嬢さん」と評する浅子は、すべてが妄想だと断言してアドバイスを送ります。

景一の顔にはかすみの写真が貼り付いているようなもので浮気なんか出来ない、秋子も潔白で今後も大切な味方だから疑ってはいけない。

みずほがエル・ドラドオで買った趣味の悪い男物のシャツは「傷もの」として、何事もなかったかのように返品処理をしてくれました。

2月の雪の夜、一太郎は壁にかけた大きなカレンダーを幸福そうに眺めています。

妻の話では最初のお産は予定日よりも遅れるそうで、ハッキリとした日付けを予測するのは難しいそうです。

9月の下旬あたりに赤鉛筆で丸を付けて、「かすみの子供このころ誕生」と書き込むのでした。

お嬢さん を読んだ読書感想

若い男女の駆け引きには今と変わらない新鮮味があって、半世紀以上前の1960年に執筆された小説とは思えません。

世田谷区成城学園前の閑静な街並みで生まれ育った、主人公・藤沢かすみはまさに箱入り娘と言えるでしょう。

大学の勉強にもいまいち身が入らずに、これといった将来への希望も見当たらないモラトリアムな性格が焦れったいです。

偶然にも東京駅のホームで見かけたプレイボーイ・沢井景一に、並々ならぬ好奇心を注いでしまう一面もあって魅力的でした。

世間知らずなお嬢さんを新婚直後の危機から救いだす、意外な助っ人にも驚かされます。

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