著者:恩田陸 1994年12月に祥伝社から出版
不安な童話の主要登場人物
古橋万由子(ふるはしまゆこ)
ヒロイン。R大学で3人の教授の秘書をかけもちする。勘が鋭く人には見えないものが見える。
高槻倫子(たかつきのりこ)
25年前に謎の死を遂げた画家。 才能豊かだが嫉妬深い。
高槻秒(たかつきびょう)
倫子の息子。大手電器会社の技術者。
矢作英之進(やはぎえいのしん)
実業家。 才能ある芸術家を経済的に支援する。
伊東澪子(いとうみおこ)
画廊の経営者。 お金にがめつい。
不安な童話 の簡単なあらすじ
画家だった高槻倫子の死の真相を探るために、息子の秒が協力を求めたのは展覧会で知り合った不思議な女性・古橋万由子です。
倫子が遺した4枚の絵をゆかりの人たちに渡していくうちに、秒は自分が母を殺害したことを確信します。
4人のうちのひとりに危害を加えてしまった秒は自殺を考えますが、万由子の説得によって思い止まるのでした。
不安な童話 の起承転結
【起】不安な童話 のあらすじ①
幼い頃に両親を亡くした古橋万由子は、6歳年上の姉と暮らしながら大学教授の秘書をしていました。
ある時に渋谷の繁華街の古いテナントビルで開催されていた、没後25年たった画家・高槻倫子の遺作展を見に行きます。
万由子が突然に「ハサミ」と叫び声をあげて倒れたのは、会場に展示されていた白雪姫の童話をモチーフにした1枚の絵に立った時です。
会場の控室で休んでから何とか自力で自宅に帰ってきた万由子を、次の日になって高槻倫子の息子・秒が訪ねてきました。
25年前に茨城県の大洗海岸で倫子が何者かに殺害された時に、当事まだ6歳だった秒もすぐ側にいましたが一時的なパニック状態になっていて犯人の顔を覚えていません。
倫子が死ぬ直前にいつか必ず戻ってくると言い残していたこと、亡くなって1年後に万由子が生まれていること、倫子は首をハサミで刺されていて万由子の首にもアザがあること。
自分が有名な画家の生まれ変わりだという話には半信半疑ながらも、万由子は秒とふたりで高槻倫子の死の真相を探り始めます。
【承】不安な童話 のあらすじ②
高槻倫子の展覧会の最終日、ビルに仕掛けられたタイマー付きの簡単な発火装置によって火事が発生しました。
燃え盛るビルの中に臆することもなく飛び込んで、秒は4枚の絵を無傷のままで運び出しています。
「犬を連れた女」は伊東澪子に、「曇り空」は矢作英之進に、「黄昏」は十和田景子に、「晩夏」は手塚正明に。
展覧会の準備をしていた時に秒は母親の遺言書を発見していて、4枚の絵を指定の人物に譲り渡すつもりです。
リストの最初にある伊東澪子は画廊を経営していて、デビュー当事の倫子の絵を展示していたこともありました。
訪ねてきた秒と万由子を快く迎えてくれましたが、渡された絵のタイトルをひと目見た瞬間に澪子は突如として不快感を露にします。
「犬を連れた女」とは、生まれつき重度の味覚障がいを抱えている澪子への当てつけです。
絵を突き返してふたりを画廊から追い出した澪子ですが、それからしばらくして行方が分からなくなり連絡が取れません。
【転】不安な童話 のあらすじ③
リストの2番目に名前があった矢作英之進は鉄道やホテルを傘下に抱える実業家で、美術品に対する造詣も深くコレクターとしても名を馳せています。
若き日の倫子の作品の評価と値段が一気に上がったのは、英之進の目に止まって若国際博覧会のポスターを作ったからです。
もともとはオーディオ機器の音響技師だという英之進と電器メーカーのエンジニアである秒はたちまち意気投合し、「曇り空」というタイトルの絵も懐かしそうに受け取ってもらえました。
3番目に載っていた十和田景子は倫子の高校時代のクラスメートでしたが、危険が迫っていると万由子に電話をかけてきた直後に襲撃を受けます。
緊急病院に搬送されて生命に別条はありませんが、勤め先の閑静な住宅街にある高校で被害に遭ったために犯人の目撃者はいません。
リストの最後の人物・手塚正明は大洗で喫茶店を経営していて、お店のすぐ側にある高槻家の別荘の管理人も務めています。
別荘を訪れた秒と万由子を待ち受けていたのは、25年前の事件の真相を知る手塚と英之進です。
【結】不安な童話 のあらすじ④
万由子が展覧会で見て倒れたのは白雪姫をもとにした絵で、嫉妬心のあまりに自分の子供を殺害しようとする妃のお話です。
秒の本当の父親は英之進で、養育権と認知を争って精神的に参っていた倫子はあの日我が子の首に手をかけてしまいます。
倫子が毎朝バラを活ける時に使っていたハサミを持っていた秒が、身を守るために母親の首に突き立てたというのが真相です。
英之進は4枚の絵を秒に見せないために展覧会の会場に火をつけて、手塚は英之進を脅そうとした伊東澪子の画廊に強面の男たちを送り付けて。
みんなが秒を守ろうとしていましたが、ただひとつの誤算は十和田景子と会った時にほとんどの記憶がよみがえってしまったことです。
母の体にハサミを刺すシーンを繰り返し夢に見るようになった秒は、十和田の口を封じた後で自分も死を選ぶつもりでした。
秒は自分の記憶を少しずつ取り戻していただけで、万由子の中に前世の記憶が眠っていた訳ではありません。
それでも自分の中に倫子は戻ってきたという万由子の言葉を信じて、秒は母の遺作を画集としてまとめることを決意するのでした。
不安な童話 を読んだ読書感想
白雪姫を題材にしたメルヘンチックな絵の中に、作者が込めた恐るべき怨念が少しずつ明らかになっていく展開がスリリングです。
25年前に周りの人たちを振り回しながらこの世を去っていった高槻倫子と、今をマイペースに生きる古橋万由子とのコントラストが際立っていました。
倫子の息子・秒が過去にこだわっているのに対して、未来だけを見つめて自分が信じた道を歩んでいく万由子の生き方にも共感できます。
6歳の少年が巻き込まれた事件の残酷な真相には胸が痛みますが、すべてを受け入れて小さな一歩を踏み出していくようなラストが秀逸です。
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