著者:綾辻行人 1988年2月に講談社から出版
水車館の殺人の主要登場人物
藤沼一成(ふじぬまいっせい)
幻視者と言われた画家。故人。
藤沼紀一(ふじぬまきいち)
一成の一人息子。事故で手足と顔に傷を負い、仮面を被って水車館に陰住している。
藤沼由里絵(ふじぬまゆりえ)
紀一の幼な妻。塔の部屋で幽閉のような生活をしている。
正木慎吾(まさきしんご)
紀一の友人。一年前、水車館に居候していた。
島田潔(しまだきよし)
招かれざる客。好奇心旺盛で人懐っこい男。
水車館の殺人 の簡単なあらすじ
幻視者と謳われた幻想画家・藤沼一成の一人息子である藤沼紀一は、事故で手足と顔に大けがを負い、父の莫大な遺産で建てた「水車館」と呼ばれる館に引きこもっています。
仮面で顔を隠した彼のもとには、一年に一度だけ父の絵を見に客が訪れます。
一年前の来客の日、二人の人間が死に、一人が行方不明となる事件が起きていました。
そして一年後の現在、いつもの客たちとは別に、島田という男が水車館を訪れます。
彼は一年前の事件に疑問を持っていました。
島田に言われるまま一年前の事件を検証していきますが、真実は明らかになりません。
その夜、新たに殺人が起こり、最後に島田によって全ての謎が解明されます。
水車館の殺人 の起承転結
【起】水車館の殺人 のあらすじ①
物語は現在(一九八六年)と過去(一九八五年)の描写が交互に行われます。
山間に建つ古城風の奇妙な館、水車館の主人はゴムの仮面で顔を隠しています。
藤沼紀一は十三年前に交通事故で顔に酷い傷を負い、それ以来水車館と呼ばれるこの館にひきこもって暮らしているのです。
人嫌いな主人の身近にいるのは美しい幼な妻と厳格な執事、家政婦くらいなものです。
ただし一年に一度だけ、画家であった父の命日である九月二十八日に、父の遺した絵を見たいという四人の来客を受け入れています。
一九八五年には家政婦が事故で死に、当時居候していた男が殺され、客の一人が行方不明となる事件がありました。
そして一年後の一九八六年の九月二十八日、三人に減った彼らの再訪を待っていると、島田という男が水車館を訪れます。
島田は昨年行方不明となり殺人犯と目されている古川の友人で、彼の代わりに集まりに参加することになりました。
続いて外科医の三田村、教授の森、美術商の大石らが到着し、今年も四人の客人が水車館に集まりました。
【承】水車館の殺人 のあらすじ②
一年前と同じように天気が崩れ始め、「この家を出ていけ」という脅迫状を受けた水車館の主人は胸騒ぎを覚えます。
全員が集まった三時のお茶の席で島田は昨年の様子を尋ねます。
一年前の悲劇は、主人と妻の由里絵が四人の客人を出迎えていた時、家政婦が塔から墜落したことから始まりました。
島田は状況の不自然さを挙げ、家政婦は事故死ではなく殺されたのではないか、だとしたらその時アリバイのあった古川は犯人ではありえないと主張します。
各人が一年前のことを思い出し、状況を確認しますが、殺人だったという証拠も、事故だったという証拠も見つけ出すことはできませんでした。
一年前、経済的に困窮していた古川は浮かない様子でした。
彼が惹かれている藤沼一成の絵の高価さと、わが身の困窮を比べてのことだったのではないかと想像されました。
そのこともあって、廊下に飾られていた絵が一枚なくなり古川が忽然と姿を消したとき、皆が絵を盗んで逃げたのではないかと考えたのでした。
【転】水車館の殺人 のあらすじ③
古川が二階の彼の部屋から降りてくるには三田村と森がいる階段前のホールを必ず通るはずなのに、彼らは古川を見ていませんでした。
二階に隠れられるような場所はなく、窓もすべて内側から施錠されていました。
そもそも窓はせいぜい人の頭が通るかどうかという大きさしかありません。
警察は古川が三田村と森の目をすり抜けて階下へ降り、絵を盗んで逃げたのだと結論付けましたが、彼らは絶対にそんな見落としはしていないと言います。
島田は古川の「消失」について、二階に何か秘密の通路があるのではないかと考えます。
水車館を建築した中村青司は自分の作る館にしばしばそうした抜け道やからくりを仕込んでいたからです。
そのことを念頭に再度二階を隅々まで調べますが、何も見つかりませんでした。
一時の停電の後その場は解散となりましたが、夜に由里絵が悲鳴をあげます。
駆けつけてみると新しく雇った家政婦が絞殺されており、さらに由里絵の部屋では、三田村が撲殺されていました。
【結】水車館の殺人 のあらすじ④
一年前に発見された遺体は焼却炉で焼かれており、遺体が紀一の友人で居候の正木だと断定されたのは切断されて残っていた左手の薬指からでした。
館の主人は由里絵を呼び出します。
由里絵は主人に隠れて三田村と関係を持とうとしていました。
脅迫状の送り主も由里絵だったことがわかります。
そして島田により、事件の真相が解明されます。
一年前と現在の全ての事件の犯人は正木でした。
古川が二階から消えたのは、正木が殺して解体し、窓から投げ落としたからでした。
正木は古川の遺体を焼却炉で処分するときに自分の薬指を切り落として、自分が死んだように見せかけたのです。
さらに館の主人である藤沼紀一を殺し、仮面を被って一年間主人に成りすましていました。
停電の時に薬指がないことを三田村に気づかれたために三田村を殺し、それを見てしまった家政婦までも殺したのでした。
正木にとって気がかりだったのは、一年前に藤沼紀一の死体が消え失せたことでした。
紀一の死体は幻の絵画と共に、地下の隠し部屋に眠っていたのでした。
水車館の殺人 を読んだ読書感想
綾辻行人の代表作である、館シリーズの2作目です。
過去と現在が平行して描かれるという独特の手法で、その仕掛けに読み終わってすぐにもう一度読みたくなりました。
古城のような奇妙な館、仮面で顔を隠した主人、幽囚の美少女、厳格な執事、奇妙な客人たちとどこか非現実的な、魅力的なモチーフが確かな筆力で描かれています。
推理の論調はロジカルですが、全体的に陰鬱な、幻想的な雰囲気が流れています。
「十角館の殺人」からの登場人物である島田潔が探偵として活躍していて、ここから続いていくシリーズの形をつくる作品でもあります。
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