著者:中山七里 2019年9月に新潮社から出版
死にゆく者の祈りの主要登場人物
高輪顕真(たかなわけんしん)
本作の主人公 友人を想い真実を明らかにしようとする僧侶
関根要一(せきねよういち)
顕真の友人 死刑囚
文屋刑事(ふみや)
当時の取調記録係
富山直彦警部補
当時の取調主任
黒島竜司
関根要一の息子
死にゆく者の祈り の簡単なあらすじ
僧侶の高輪顕真は、東京拘置所に教誨師として派遣され、講話をしている時に囚人である大学時代の同期である関根要一と出会います。
関根は自分の容姿を嗤われた事に腹を立てカップル二人を殺害し、死刑判決を受けていました。
顕真には大学時代、山岳サークルで登山していた際、関根に命を救われた過去があります。
顕真は関根の人間性から関根の犯した事件に違和感を持ち、再捜査にのりだします。
調べるうちに二人を刺したのは昔に別れた女性が産んだ関根の息子であり、関根が息子を庇っていることが判明。
そして死刑執行の当日に、殺された男に恨みを持っていた当時の担当刑事がとどめをさしたと供述し、死刑執行延期、再審請求となるのでした。
死にゆく者の祈り の起承転結
【起】死にゆく者の祈り のあらすじ①
顕真の大学時代の友人である関根要一は5年前に自分の鼻の痣をすれ違いざまに嗤った見ず知らずのカップル、兎丸雅司と塚原美園を衝動的に惨殺し、翌日に自首し緊急逮捕されていました。
警察が被告人の自宅を家宅捜査し、凶器とみられる登山ナイフと多量の血液の付着したワイシャツを押収し、鑑定の結果、登山ナイフとワイシャツに付着していた血液は被害者二名の血液型とDNA型いずれも一致していたのです。
しかし、取り調べから公判に至るまで一貫して殺意の不在を主張し、反省の弁もなく良心の呵責や改悛の情が見られないとして死刑判決となります。
判決後、関根が控訴せずに一審判決を受け入れたことや大学時代の関根の人間性との違いに違和感を持った顕真は、当時の検察官、弁護士に会い真実を探っていくのでした。
そのさなか、関根への教誨初日を迎え顕真は関根へ疑問をぶつけるが上手くかわされてしまいます。
そこで、事件の担当刑事であった富山刑事から話をきこうとするも相手にされず追い返されそうになり、当時の記録係だった文屋刑事に関根との関係を打ち明けました。
【承】死にゆく者の祈り のあらすじ②
顕真と関根は大学時代に山岳サークルに所属しており、大学三年の秋に剱岳登山を計画し顕真の恋人である樋野亜沙美と三人でパーティーを組んで登頂をめざしていました。
関根はいかなる時も冷静さを失わず、その判断力の高さから主導権を握り二人をリードする立場でした。
登山途中で天候が悪化し、突風に吹き飛ばされ亜沙美は意識不明になり顕真は左足を負傷してしまいます。
顕真は関根に一人で下山し救助を呼ぶように言うが、それでは間に合わず二人とも死んでしまうと考えた関根は亜沙美を右に抱え、左で顕真を支えながら見事下山し、病院へ救急搬送された二人の命は救われたのです。
この話を聞いた文屋刑事は抱いていた大学時代の関根と死刑囚の関根との印象の違いに困惑し、取り調べの際の矛盾や疑問を口にします。
さらに使われた凶器は関根が普段使わないようなナイフであったことなど不自然な事実が浮かび上がってきたのです。
そして冤罪の可能性を疑い、顕真と共に再捜査に取り掛かりました。
【転】死にゆく者の祈り のあらすじ③
被害者の家族や同僚に改めて話を聞いていくうちに、塚原美園や兎丸雅司の同僚の話から黒島竜司という第三者の存在が浮上してきます。
黒島竜司が拘留中の関根に接見していることも分かり、二人は黒島竜司について調べをすすめていきます。
そして、黒島竜司に接触し彼が関根の昔別れた女性が産んだ息子だということをつきとめます。
黒島竜司は元恋人塚原美園の新恋人である兎丸雅司の存在を知り、復縁を迫ろうとつきまとう過程で、事件日に公園で自分の悪口を言い合っている二人を目撃し腹を立て刺して逃げたのです。
しかし、自分が刺した後も二人はまだ生きていた事、翌日に自分ではない誰かが二人を殺したと警察に自首したことを知りどんな人物か知るために会いに行った事、その人物が父親で自分を庇いとどめをさしたであろうことを知ったと顕真に打ち明けます。
しかし、母親と自分を捨てた恨みから父親が勝手にしていることだと気にも留めなかったのです。
そして、二人を自分が刺したと認めた黒島竜司は警察に出頭します。
【結】死にゆく者の祈り のあらすじ④
顕真は関根に黒島竜司が関根の息子であること、関根が息子を庇い死刑を受け入れていることを話すが関根はこの事実を認めたものの立場を変えることを望まないのでした。
そして、ついに関根の死刑執行が言い渡されます。
教誨師である顕真は死刑執行時立ち会わなければならず、はたして友人の死刑を前に平常心でいられるか自問自答します。
死刑執行日、顕真は最後の教誨時に関根と二人教誨室にバリケートを作り閉じこもりますが刑務官達に突入されてしまいます。
諦めかけたその時、文屋が真犯人を挙げたと乗り込んできました。
真犯人は文屋の上司で事件当時、関根の取調主任の富山直彦警部補でした。
富山は昔の交際相手を薬物中毒にされて交通事故で亡くしており、交際相手に薬を売った疑いのある兎丸雅司に殺意を抱いていたのでした。
富山は事件の日尾行していた二人が何者かに刺され瀕死の状態であることを好機にし、兎丸雅司を殺害、目撃者である塚原美園も口封じのため殺害したと供述したのです。
黒島竜司が二人を刺した傷は致命傷にはならず、黒島が凶器のナイフを放置して公園から逃げ出すと、これも二人を追っていた富山が同じナイフでとどめを刺し、その後に関根が二人の死体を発見したという経緯であることが明らかになり、無事関根要一の死刑執行延期、再審請求となったのです。
死にゆく者の祈り を読んだ読書感想
自分の命の恩人である友人のために僧侶でありながら、私情に走り周囲に無茶な要求をしてまで真実を知ろうとした顕真、自分の関わった事件が冤罪だったのではないかと思い、組織に背いてまで刑事である信念を貫き通した文屋刑事。
協力しあい真犯人にたどりつき冤罪を防いだ主人公と文屋刑事の執念に心を打たれました。
死刑執行日の顕真の教誨師としてあるまじき行為には驚かされ、刑務官達が突入してきた時はこのまま死刑になってしまうのかとドキドキはらはらさせられ、大どんでん返しの展開には興奮させられました。
物語が終わった後も、これから関根と竜司の関係がどのように変わっていくのか、顕真が教誨師として精進し奮闘していく物語を想像することが楽しみになる作品でした。
最近、看護師の冤罪が立証されたニュースもあり、小説のストーリーだけでなく現実でも冤罪がありえることを再認識させられ、とても怖いことだなと痛感しています。
もしも、私にこのような不幸が訪れた時に自分の無実を疑わない友人や家族がいてくれる事、真実を追求する信念を持った刑事がいる事を願います。
そのためにも、私自身がしっかりした生き方をしていこうと改めて思いました。
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