著者:荻原浩 2008年4月に朝日新聞出版から出版
愛しの座敷わらしの主要登場人物
高橋晃一(たかはしこういち)
主人公。食品メーカーの課長。後先を考えずに行動するタイプ。
高橋史子(たかはしふみこ)
晃一の妻。 専業主婦。都会で育ったため田舎が苦手。
高橋梓美(たかはしあずみ)
晃一の娘。中学2年生。空気を読み過ぎる性格。
高橋智也(たかはしともや)
梓美の弟。 小学4年生。ぜんそくの持病がある。
高橋澄代(たかはしすみよ)
晃一の母。 夫を亡くしてから落ち込みがち。
愛しの座敷わらし の簡単なあらすじ
都会で暮らしていた高橋晃一たち5人家族の引っ越し先は、座敷わらしが住み着く不思議な一軒家です。
新天地での生活にそれぞれが生きがいや喜びを見出だしていく中で、この地に伝わる座敷わらしの残酷な秘密を知ります。
晃一の栄転によって一家はふたたび東京へと舞い戻りますが、座敷わらしもこっそりと後から付いてくるのでした。
愛しの座敷わらし の起承転結
【起】愛しの座敷わらし のあらすじ①
東京に本社を置く食品会社の商品開発セレクションで課長を務めていた高橋晃一が、地方の支店へ異動となったのは47歳の時です。
出世をあきらめた晃一はこれからはサービス残業もせずに付き合い酒も断って、まっすぐ一軒家に帰って家族と食卓を囲むことを決めました。
妻の史子は東京で生れ育って他の場所で暮らしたことがないために、田舎に住むことには抵抗があります。
長女の梓美は今の中学校でほとんど話し相手がいなくなってしまったために、転校先で新しい友だちを作るつもりです。
長男の智也は空気のきれいな土地に引っ越した途端にぜんそくが治ったために、地元のサッカーチームに加入しました。
晃一の母・澄代は東京のマンション暮らしが続いて軽い高齢者うつにかかっていたために、豊かな自然に囲まれた環境に変わって調子が回復していきます。
5人の新居は築103年にもなる2階建ての古民家で、広々とした裏庭に立つ大きな木の根本にあるのは小さな祠です。
【承】愛しの座敷わらし のあらすじ②
夏休みに入ってひとりで裏庭で遊んでいた智也は、祠の中から着物を着たおかっぱ頭の男の子が出てくるのを目撃しました。
名前を訪ねてもどこから来たのか聞いても何もしゃべらないために、自転車のかごに乗せて近所の原っぱまで遊びに連れていきます。
この土地に来て最初に智也が仲良くなったのは、サッカーチームで活躍している菊地桂という名前の女の子です。
いつの間にやらかごの中から消えていた着物の男の子のことを聞いてみると、桂は祖母から聞いた座敷わらしについて教えてくれました。
次の日からは座敷わらしは家の中に入り込んでくるようになりましたが、晃一や史子に梓美には見えません。
智也と同じように座敷わらしが見えるのは澄代だけでしたが、他の3人には信じてもらえないだろうから当分はふたりだけの秘密にしておくつもりです。
桂の大伯母・千葉はるも大昔に座敷わらしを見たそうで、97歳になる今現在でも健在だという彼女に話を聞きに行きます。
【転】愛しの座敷わらし のあらすじ③
はるの話ではこの辺りには100年ほど前に生まれてきたばかりの赤ちゃんを間引きする風習があって、座敷わらしはその時に絶たれた命の生まれ変わりだと教えてくれました。
ようやく智也や澄代の話を信じ始めた晃一は写真に収めようとカメラを抱えて家の中をうろうろするようになりましたが、その日から座敷わらしは出てきません。
澄代が言うにはお盆のあいだはご先祖さまの霊に遠慮して出てこないか、自分の生まれた家に戻っているからだそうです。
そんな最中に晃一が本社にいた頃に企画した試作品「豆腐デザート」が社運をかけて売り出されることになり、ふたたび東京に戻ることが決まります。
せっかく地区サッカーでのフォワード出場が見えてきた智也や、転校した中学校で吹奏楽部に入るのを楽しみにしていた梓美は不満がありそうです。
晃一が単身赴任をするという選択肢もありましたが、最終的には澄代の「家族なんだから、一緒にいましょう。」
という言葉にみんなが納得しました。
【結】愛しの座敷わらし のあらすじ④
東京への引っ越し当日の朝、智也は祠の前にたくさんのお菓子やおもちゃを置いて座敷わらしにわかれを告げました。
見送りにきた桂とはこれからもお互いに別の場所でサッカーを続けて、10年後にはJリーグのスタジアムで再会することを約束します。
梓美がクラスメートから受け取った寄せ書きには横断幕ほどの大きさがあって、真ん中に書いてある似顔絵は座敷わらしそっくりです。
今度の学校では梓美は「引かれる」ことや「すべる」ことを恐れることはなく、空気を読むつもりもありません。
高速道路を車で走って東京へと向かう高橋一家は、出口付近で見つけたファミレスに休憩のために立ち寄ります。
テーブルまで案内してきたウェイターは水の入ったコップを6個置いていきましたが、晃一、史子、梓美、智也、澄代と5人しか座っていません。
座敷わらしがギュっと握り返してくるような気がしたために、智也は空いている隣の席の方へにそっと手を伸ばしてみるのでした。
愛しの座敷わらし を読んだ読書感想
無機質な東京のマンションで味気ない日々を過ごしていた5人が、美しい田園風景と穏やかに流れていく時間の中で生き生きとしていく様子がほほえましいです。
トランプハウスのような屋根に家の中にはいろりまである、ノスタルジックな一軒家のたたずまいが思い浮かんできました。
人間関係に思い悩んでいた長女・梓美が新しい学校で成長していく姿や、座敷わらしとお友だちになってしまう長男の智也にも心温まります。
一見するとほのぼのとしたストーリー展開の中にも、座敷わらしに隠されている負の一面にも光が当てられていて考えさせられました。
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