「君の隣に」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|本多孝好

君の隣に

著者:本多孝好 2015年6月に講談社から出版

君の隣にの主要登場人物

早瀬俊(はやせしゅん)
主人公。留年を繰り返す大学3年生。横浜・関内に事務所を構えるピーチドロップスというデリヘル店のオーナー。愛情を知らずに育つが、渚と出会い救われる。

進藤渚・レイカ(しんどうなぎさ・れいか)
翼の母。ピーチドロップスの前身であるレモンドロップスのオーナー。時にレイカとして自ら接客を行った。笑顔を絶やさない太陽のような人。

進藤翼(しんどうつばさ)
渚の娘。小学四年生の夏に母が失踪。その後元町商店街にあるアパートで早瀬俊と二人で暮らす。

ジャン・江(じゃん)
不法滞在中国人。渚に救われた過去があり、運転手兼ボディガードとして渚のもとで働く。

ルイ(るい)
レモンドロップス時代からデリヘル嬢として勤務。俊・ジャン同様に渚の言葉に救われた人物。ピーチドロップスの後身オレンジドロップスの代表となる。

君の隣に の簡単なあらすじ

早瀬俊は親に捨てられ愛情を知らずに施設で育ちました。

デリヘル店を経営していた渚に、俊は金銭を奪う目的で近づきました。

ところが渚と接し生まれて初めて愛情に触れ、渚に心酔してしまいます。

ある夏、渚は突然姿を消しました。

俊は同じく渚に救われた過去を持つジャン、ルイと渚を捜します。

そして彼らは渚と接触のあった連続殺人犯に辿り着きます。

渚の行方を詰問するも居場所を聞き出せないまま殺めてしまいました。

その後ジャン・ルイは渚の件にけじめをつけ新たな生活を始めますが、俊だけが希望を捨てきれず渚に囚われ続けます。

しかしその二年後、翼の手引きにより渚のかけた“黒い魔法”の真相が明らかになり俊は渚と再会します。

君の隣に の起承転結

【起】君の隣に のあらすじ①

渚の失踪

Scene1アヤメの物語で、主人公の早瀬俊が大学に通いながらデリヘル店オーナーを務める姿が描かれます。

また、小学五、六年生の女の子とアパート暮らししている描写があり、何らかの事情を抱えている事が窺えます。

Scene2では吉田というピーチドロップスの上顧客の物語を通じて、ピーチドロップスの前身レモンドロップスの存在、レイカというキャストについて言及する人物(坂巻)が登場します。

Scene3では小学校教諭の星野が進藤翼という女子生徒に既視感を覚え、以前利用したレモンドロップスのレイカの娘であることに気が付きます。

星野は自身のある行為に対する後悔から再びレイカに会いたいとピーチドロップスに架電します。

しかし、ホテルで待機する星野の前に表れたのはジャンとルイでした。

星野がジャンとルイに襲われ解放されるまでの過程で、翼の母・渚はレモンドロップスのオーナーであった事、レイカの名でキャストとして接客もした事、星野を接客したあとに失踪してしまった事が明かされます。

【承】君の隣に のあらすじ②

渚の捜索

Scene4は警察官を定年退職した満村の物語です。

満村は生活安全課に勤務していた頃の後輩から全国のデリヘル嬢失踪事件について情報を集め、早瀬俊に情報を売っていました。

満村が後輩を介して情報を得ている事が、現役警察官の遠野に知れ二人は面会する事になりました。

しかし遠野は情報漏えいを指摘しようとした訳ではありませんでした。

満村は遠野との会話の中で、俊が生活安全課を訪れた時の事を思い出していました。

一昨年の夏、俊は進藤翼を連れて渚の捜索願を提出しました。

その後日、横浜でデリヘル嬢が二人失踪している事を調べあげてきた俊は、渚の失踪の事件性を満村に訴えました。

渚の他に失踪した二人の女性には外見的共通性がある、1人の人間、犯人が彼女たちを選択したのだと、俊は訴えました。

しかしながら、警察は渚の捜索をしようとはしませんでした。

奇しくも満村は遠野と会話を交わすにつれて、当時の俊の主張の正当性を感じ始めました。

警察は事件の蓋然性の問題で捜査しなかったのではなく、デリヘルで働く女性を軽んじていたのだと満村は気が付くのでした。

【転】君の隣に のあらすじ③

デリヘル嬢連続殺人犯、坂巻に辿り着く

Scene5は全国でデリヘル嬢だけを狙った連続殺人犯、坂巻の物語です。

小田原で失踪したデリヘル嬢が最後に接客した相手の携帯番号が、ピーチドロップスでも利用された携帯番号であった事から、俊達はその携帯番号の持ち主を突き止めました。

俊達は坂巻を拷問し、渚の居場所を問います。

坂巻は八人ものデリヘル嬢を殺害しており、レモンドロップスでレイカ(渚)に接触していました。

けれど、坂巻の犯行は選択的なもので、坂巻は渚を殺害していませんでした。

坂巻はレイカ(渚)を殺していない、死体がどこにあるか知らないと答えますが、俊達は半信半疑でした。

それ以上聞き出す事はできず、坂巻の望むままに翼は坂巻を殺めてしまいます。

 渚の失踪以来、渚を思い翼の傍で生活していた三人ですが、坂巻の殺害を機にジャン、ルイの二人は渚の失踪に区切りをつけ新しい生活を始めました。

渚への情愛が二人以上に強い俊は、ただ一人渚が生きているという希望を捨てきれずに翼と二人暮らしを続けます。

 

【結】君の隣に のあらすじ④

すべては渚のかけた“黒い魔法”

Scene6翼の同級生、豊の物語で渚の失踪の真相が明かされます。

中学二年生になった夏のある晩、豊は翼に呼び出されます。

小学五年生に上がって以降、二人で話す機会がなくなり以前ほど親しい間柄でなくなっていいた為豊は戸惑いました。

翼は理由を説明する事なく、一日恋人を演じてほしいと言います。

豊にとって翼は特別な存在であり“一日限定”を否定したかったものの、豊は願いを受け入れるのでした。

恋人を演じる豊を翼はルイ、ジャンに引き合わせ、ここまでがテストと告げました。

この後に会わせる“お母さん”が本番だと言います。

豊は本番を迎える前に事情を説明してほしい、でなければお母さんに恋人だと信じて貰える自信がないと翼に伝えます。

翼は話しました。

翼が小学四年生の時に母が数年で死ぬ病に罹った事、母が残されたお金で今後生き抜く術を翼に教えようとした事、幼い渚はそれを受け入れられず拒否してしまった事を。

そうして母は翼を守ってくれるだろう三人(俊、ジャン、ルイ)の時間を止める事にしたと言います。

三人の中に渚への深い情愛がある事を前提とした“黒い魔法”。

死別したのでは弔い悼む事で気持ちの整理がついてしまう、であれば突然姿を消し三人の胸の内に留まり続けよう、その面影が消えない限り三人は翼を守ってくれると、渚は考えたのでした。

俊が連続殺人犯を見つけ出してしまい、渚の意に反してジャン、ルイの中で渚は亡き人となり埋葬され止まっていた時間は動き出しました。

ここまで話すと翼は豊を母のいる病室へと連れていきます。

成長し恋人もいる、もう一人でも生きていける、俊に会って渚の“黒い魔法”から解放してあげて欲しいと母に訴える為でした。

豊が恋人でない事は、翼の俊に対する思いから母にばれてしまいます。

それでも翼は好きな人が離れていってもその傷を癒せるほどに自分は成長したと母に告げ、俊と渚を引きわせるのでした。

君の隣に を読んだ読書感想

本多孝好の連作短編集です。

各章が一つの物語として完結しています。

主人公の早瀬俊が愛する人にかけられた“黒い魔法”に翻弄される物語が、Scene1からScene6の各章の主人公の物語を読み進める事で見えてきます。

作品紹介文に目を通し大切な人の失踪をめぐるミステリーだと単純に解釈して読み始めると、密度の高い内容に驚かされました。

文字の量に対して非常に読み応えのある作品です。

各Sceneの主人公一人ひとりの物語が魅力的で、特にScene1からScene5の主人公達には、誰しもどこか共感できる人間の心理が垣間見えます。

Scene1の主人公アヤメは、交際相手(修哉)を自殺に追いやったと大学で非難を浴びていました。

物語はアヤメが俊の経営するピーチドロップスにスカウトされ、俊に好意を持ち、勝手に仕込んだGPSで彼の家まで押しかけ、翼に追い返されるというたった数日の出来事です。

アヤメは俊に心惹かれながら、様々なシーンで死んでしまった修哉との付き合いを思い出します。

そのアヤメの思考、回想シーンで描写される修哉の言動は、大人でも子供でもない大学生の心の繊細さ、危うさが読み取れます。

故意に修哉を追い詰めた訳ではないアヤメ、アヤメという特異な女の子を愛してしまった不器用な修哉、切ない余韻が残る物語でした。

 謎解きに当たるScene6は翼に思いを寄せる豊の恋物語で、俊が追い続けた渚の失踪について真相が明かされます。

その章で翼の口から渚の人間像についてこのように語られます。

その人の良いところだけを見つめ続け、誰でも等しく愛してしまうから“誰か”を愛する事ができない。

この言葉に人を愛するとはどういう事なのか改めて考えさせられました。

全てを読み終えた後には濃密な霧のような感傷の情に包まれる作品でした。

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