【ネタバレ有り】ハーメルンの誘拐魔 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:中山七里 2016年1月に角川書店から出版
ハーメルンの誘拐魔の主要登場人物
犬養隼人(いぬかいはやと)
警視庁の刑事で、鋭い観察眼を持った敏腕刑事。娘が腎臓病で入院中である。
月島綾子(つきしまあやこ)
娘が子宮頸がん予防ワクチンの副反応被害に遭い、今回その娘が誘拐されてしまう。
槇野亜美(まきのあみ)
産婦人科協会会長でありワクチン推進派の槇野の娘で、女子高生。今回第二の誘拐事件の被害者。
村本医師(むらもといし)
ワクチン被害に遭った少女たちのケアをしてくれている心優しい医師。
ハーメルンの誘拐魔 の簡単なあらすじ
一人10億、総額70億円の身代金が要求された集団誘拐事件が発生します。
被害者は子宮頸がん防止ワクチンの被害者だけかと思いきや、ワクチン推進派の産婦人科協会会長の娘も含まれていることから、犯人の目的が読めなくなります。
冷静沈着な警部補犬養が捜査に加わり、事件の解明に乗り出します。
読みやすい作風かつ大どんでん返しで読者を魅了する中山七里さんによる社会派サスペンスとなっています。
ハーメルンの誘拐魔 の起承転結
【起】ハーメルンの誘拐魔 のあらすじ①
15歳の少女、月島香苗は、母親とともに親子で多くの人が行きかう街中をショッピングをしていました。
しかし、彼らが普通の親子と違った点は、香苗が車椅子に乗っていたこと、そして彼女が何を話しかけても反応を示さない記憶障害であったということでした。
母綾子があるお店で買い物をするために、車椅子を店の近くにとめてほんの少しだけ娘から目を離していました。
車椅子で店内に入ることができそうにない時は、いつもこうして親子はしていました。
いつもと同じように買い物を素早く終え、娘のいるであろう場所に目をやると、そこには車椅子に乗った我が子の姿が見えません。
決して一人では移動することすらできない重度な障害を香苗は抱えているので、母は近辺を必死で探します。
それでも見つからず、ついに交番を訪れ一緒になって探してもらうのですが、結局見当たらず、「ハーメルンの笛吹き男」のカードだけが現場に残され、何者かによって誘拐されてしまうのでした。
警視庁ではベテラン刑事の犬養が珍しく女性刑事とバディを組み、捜査に乗り出します。
月島家は母子家庭で香苗の介護費用もかかるため非常に慎ましい生活が送られていました。
その家庭事情を垣間見た犬養は、「今回の誘拐事件が金銭目的でなされたのではないのでは」と推察します。
犬養には腎臓病で入院している娘がおり、捜査の合間にたまたま寄った際、娘から香苗の母がブログをしていることを教えてもらいます。
香苗は子宮頸がん予防ワクチンを接種してから副反応で記憶障害が起き、その日々が母の手によって詳細に綴られていました。
【承】ハーメルンの誘拐魔 のあらすじ②
捜査が難航している中、次なる事件が発生します。
高校生の槇野亜美が友人との下校途中に、落としてしまったスマホを探しに帰り道に寄っていた神社に引き返します。
待てど暮らせど戻ってこない彼女を探しに行くと、そこには亜美の姿がなく、香苗の時に置かれていた「ハーメルンの笛吹き男」のカードが一枚残されているだけでした。
今回の被害者は、日本産婦人科協会の会長かつ子宮頸がん予防ワクチンを推奨していた槇野の娘であったことから、犬養たちは一連の鍵は「子宮頸がん予防ワクチン」にあるのではないかと睨みます。
しかしながら、誘拐された少女たちが、一人はワクチンの被害者で、もう一人はワクチンの加害者という立場にあることから、犯人の犯行動機がわからず捜査が暗礁に乗り上げてしまいます。
犬養は、娘の入院先で産婦人科医をしている女医に、このワクチンに対する国・製薬会社・関わる産婦人科医たちの利害関係を参考までに教えてもらいます。
そうすることで、「この誘拐で得をするのは誰なのか」という観点から考えを巡らせ続けます。
そして、ついにワクチンの被害に遭い車椅子生活を余儀なくされている少女たち5名が集団でハーメルンの笛吹き男によって誘拐される事件が発生します。
犯人は、1人あたり10億の総額70億の身代金を製薬会社と日本産婦人科協会に要求し、テレビ局や新聞社にも要求内容が送られてきました。
【転】ハーメルンの誘拐魔 のあらすじ③
身代金の受け渡し場所として指定されたのは、なんとあろうことか大阪の街中でした。
しかもその日は、日曜日ということもあり観光客でごった返し、さらに運の悪いことに大相撲春場所の優勝パレードが行われており、70億の行方と接触してくるであろう犯人の動向を捜査員たちは目を皿のようにして必死で追い続けなくてはならなくなりました。
70億をいくつものアタッシュケースに分割し、犯人の指示に従って時間どおりに運ばなければならないのですが、いくら分割しているとは言え、大金が入れられたケースは非常に重く、捜査員たちの体力と気力をどんどん奪っていきます。
それでも、犬養たちは被害者たちの命を救いたいという警官として、また人としてのプライドで気力を振り絞って、犯人の指示通り運搬し続けるのでした。
そして、最期に犯人から出された指示は橋の下にケースを投げることだったのです。
大阪は水の街と言われており、犯人はあらかじめ用意していた船で70億をまんまと回収し、姿を消してしまうのでした。
冷静さを取り戻した犬養は考えます。
「ここまで警察が翻弄されるということは、こちらの動きが犯人はサイドに筒抜けだったのではないか」「犯人は誘拐の被害者遺族ではないか」「しかも犯人は複数犯なのでは」と推察していきます。
【結】ハーメルンの誘拐魔 のあらすじ④
今回の誘拐事件には、やはり第一の被害者の母である月島綾子が主治医の村本医師を巻き込む形で、その他のワクチン被害者の家族を説得し計画したものでした。
7名中6名のワクチン被害者の少女たちと70億の身代金は無事に取り返すことができたのですが、村本医師が槇野亜美を人質に逃走します。
彼の要求はただ一つ、「厚生労働省と製薬会社、産婦人科協会からの謝罪」でした。
それがなければ亜美を殺すとまで言ってきたのです。
しかし、犬養は捜査の段階で村本医師と接触しており、彼の人柄から最後のこの事件の首謀者は亜美であると感じます。
根気強く説得し、村本医師と亜美は確保されます。
そして、押し寄せるマスコミの前で、亜美は自分がなぜこのような大それた狂言誘拐を起こしたのかを語り出します。
動機は、父親で産婦人科協会会長の槇野はワクチンの副反応の危険性を把握しており、娘である自分には接種させなかったことを告発したかったからでした。
この国を、そして父のしている行為を正しい道へ修正したいがために少女は必死に考え、事件を起こしたのです。
許されないとはわかっているものの、犯罪に手を染めずにはいられない悲しい正義感だったのでした。
ハーメルンの誘拐魔 を読んだ読書感想
前回の「切り裂きジャックの告白」に続き、犬養シリーズは、社会派な作品であると思います。
実際に薬害問題は後を絶たないのが現状です。
ただ新薬の開発は人の命を救いたい一心で作られたものであり、薬害は時間が経ってから表れることもあるため、非常にデリケートで難しい問題だと改めて考えさせられました。
作者である中山七里さんご自身も娘さんがこの子宮頸がんワクチンの被害に遭われたそうで、作品に対する情熱は強かったとおっしゃっていました。
前作もそうですが、親が子を想う無償の愛の描き方が本当に巧く、毎回胸が締め付けられます。
加えて、今作は子が親の道を正すためにとった行為の辛さ、切なさはあったものの、「正義」とは何かを考えさせられた作品でもありました。
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