【ネタバレ有り】不倫は家庭の常備薬 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:田辺聖子 1989年7月に講談社から出版
不倫は家庭の常備薬の主要登場人物
安西(あんざい)
四十歳の誕生日を目前に控えた専業主婦。いつもむっつりしてデリカシーの無い夫との生活に飽き飽きしている。「浪花史跡めぐりの会」で知り合った志賀に食事に誘われ、過ちが起こることを密かに期待しつつ夜の京都で一晩共にする。
志賀(しが)
「浪花史跡めぐりの会」に参加していた六十代の既婚男性。一人で会に参加していた安西が気になり食事に誘う。女性を褒めることが得意な紳士。
夫(おっと)
安西の夫。四十代で仕事に忙しい。家ではいつも不機嫌で、妻にも子供にも関心は薄い。
不倫は家庭の常備薬 の簡単なあらすじ
四十歳の誕生日を目前に控えた専業主婦の安西は、「浪花史跡めぐりの会」で知り合った六十代の紳士・志賀に食事に誘われ、夫が出張の夜、密かな期待を胸に秘め、京都に繰り出します。一人息子は中学生で反抗期の真っ最中で、夫は妻にも息子にも関心はなく、張り合いのない毎日を送っている安西は、志賀と過ごす楽しいひとときにどんどん胸が高鳴っていきますが……。
不倫は家庭の常備薬 の起承転結
【起】不倫は家庭の常備薬 のあらすじ①
安西は、サラリーマンの夫と中学二年生の息子を持つ専業主婦です。
夫が、安西が外に働きに出るのを嫌うので、結婚してからずっと家庭に留まり、家族の身の回りの世話をしてきました。
夫は頭の固いタイプで、三十歳を過ぎた時から、安西をおばさん扱いし、三十代後半に入ると、『四十女が』などとデリカシーのない言葉でなじります。
『あんたかて、四十三やないの』と言い返すと、『男はかまへんねん。
男の四十代は男ざかりじゃ。
しやけどオナゴは三十すぎたら、みな、オバンじゃ』などとぶつけてきます。
安西の自慢のボブスタイルも、夫から言わせれば、ヒネた女子高生みたいなおかっぱ頭で、入念なカットを維持するための努力も台無しというところ。
結婚して十六、七年も一緒にいると、家にいる間はいつも不機嫌で、冗談は滅多に言わず、妻にも子供にも関心うすく、褒めることなど皆無で、安西は、女に不倫願望を抱かせる原因は、夫が妻を褒めないことにあると思うようになっています。
【承】不倫は家庭の常備薬 のあらすじ②
夫のご機嫌とりに飽き飽きしている安西は、文化教室の一つ「浪花史跡めぐりの会」で六十代の紳士・志賀と知り合いになります。
志賀は妻帯者でありながら、ひとりで会に参加していました。
人当たりがよく、柔和な雰囲気の志賀を安西は好ましく思っていたところ、食事に誘われます。
晩夏の京の夜風を楽しみながらの過ごすひとときは、想像するだけで安西を有頂天にさせました。
由緒ある料亭ではかえって世間の目を惹いて目立つ恐れがあるから、シティホテルの方がよろしいでしょうという志賀の言葉に、もしや志賀にも不倫願望があるのではないかと安西はドキッとします。
それとなく、夫に、男性が女性を食事に誘うのに、下心はあると思うか尋ねてみると、下心があるに決まっている。
ソレ目的以外ないと断言されます。
卑語を用いてぞんざいに断言する夫に、安西は、気の合う人同士がただおしゃべりしたり、ぶらぶらっと歩くだけの心の問題ではないかと反論しますが、夫は身もふたもないことを返すばかり。
誰それに誘われたのかと嫉妬深い疑いをみせ、終いには『オマエみたいなオバンを誘うやつはおらんと思うが、よう聞け、男とメシ食う、ちゅうことは、即、男に股開くことや。
そのつもりでおらな、あかん。
』と、夢の無い、品の無い言葉を連発して、いよいよ安西を呆れさせます。
安西は、夫が出張で留守の日を狙って、夜の京都に出向きます。
【転】不倫は家庭の常備薬 のあらすじ③
ディナーは安西にとって久しぶりの心躍るひとときでした。
胸元が開いた衿の刳れたジョーゼットの黒いドレスに、自慢の漆黒ストレートボブが良く映え、奥底からみなぎる自信がより安西を輝かしいものにしています。
志賀さんは、そんな安西に、『男連中が、みな、安西さんを見てまっせ。
おたく、お綺麗なよって目立ちますねん……』と饒舌に褒めちぎるので、ますます気分が良くなります。
同じ空間には、男女のペアが数組いますが、自分たちのようにお喋りに花が咲いたテーブルもあれば、言葉なく静かなテーブルもあります。
安西は心の中で、沈滞しているペアはきっと夫婦ものだろうと考えていました。
新婚夫婦ならいざ知らず、結婚して時間が経った夫婦にそれほどの話題があるとも思えません。
よく喋っているのは恋人か、不倫カップルに違いないと、自分を振り返ってつくづくそう思うのです。
デザートを食べ終え、食後のコーヒーも飲み干した二人。
安西は、志賀から部屋をとっていると誘われるのではないかと、期待と不安が入り混じった気持ちで待っています。
そして志賀は、予想通り、まだ話したりないと、はにかんだような顔で言い、『階下に……』と言いかけます。
志賀の言葉を待つ安西。
志賀は『階下にバーがあるんですが』と安西を誘います。
【結】不倫は家庭の常備薬 のあらすじ④
バーに移動し、安西はブランデーの水割り、志賀はウィスキーの炭酸割を注文し、酔いがまわりはじめたのを自覚しつつ、お喋りに興じます。
安西は、夫には決して口に出さない卑語を、志賀の前でなら冗談の延長で言うことができます。
大人の言葉遊びを楽しみつつ、女についての真理をああだこうだと論じます。
女性は、アレがついてる限り、一生食いっぱぐれないというのが安西の発見した真理で、それに志賀も賛同します。
大いに盛り上がり、いよいよ志賀からの誘いがくるかと期待した安西でしたが、志賀はしれっと『出ますか、そろそろ』と言うではありませんか。
今夜は久しぶりにたくさんしゃべれて、とても楽しかったとご満悦な様子の志賀に、安西は拍子抜けしてしまいます。
思わず、安西は今夜は泊まる覚悟をしてきたと告白します。
志賀は、自分もそれを夢見ているが、実際にびくびくするのは疲れてしまうので、これくらいがよろしいのだと悪びれずに言います。
明日、四十歳の誕生日を迎える安西は、三十代最後の日に、不倫というものをしてみたかったのだと打ち明けます。
三十代と四十代の境を気にしている安西に対し、志賀は、いよいよ女ざかりでいいですねえと貫禄ある反応を示し、『晩夏の京の夜風を楽しみまへんか』と誘います。
阪急河原町をぶらぶら連れ立って歩きながら、志賀は、不倫なんて家庭の常備薬みたいなもので、アリナミンなんてのと同じだと言います。
言葉でする不倫の方がよっぽど上等だと話す志賀に、安西は笑ってしまいます。
二人で阪急電車に乗り、乗り換えで別れ、帰路に着いた安西は、四十歳の誕生日がそれほどイヤではなくなっています。
不倫は家庭の常備薬 を読んだ読書感想
男女の恋を書かせたら天下一品の田辺聖子先生による、不倫にまつわる短編集です。
今回は、四十歳の誕生日を目前に控え、不倫願望を持つ専業主婦の一晩を描いた『フリンは家庭の常備薬』をご紹介しました。
女がどのように不倫に傾いていくかが丁寧に書かれていて、夫のねちっこい言動や不躾な態度がまあリアル。
妻の安西が魅力的な分、旦那の株が下がりに下がる、中年夫婦の生々しさが詰まった作品になっています。
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