【ネタバレ有り】王とサーカス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:米澤穂信 2015年7月に東京創元社から出版
王とサーカスの主要登場人物
大刀洗万智(たちあらいまち)
主人公。フリージャーナリストとして、海外旅行特集の仕事を受けネパールへ取材に向かう。
サガル(さがる)
ネパール人の少年。日本語を話すことができ、観光客相手に商売をしている。
八津田源信(やつだげんしん)
万智と同じ宿に泊まる日本人で破戒僧。仏像の中に大麻を隠して密輸している。
ラジェスワル・プラダン(らじぇすわる・ぷらだん)
ネパール国軍准尉。万智と話した翌日遺体で発見される。インドのスパイであるという噂や大麻密売に関わっていたという噂がある。
ロバート・フォックスウェル(ろばーと・ふぉっくすうぇる)
万智と同じ宿に泊まるアメリカ人大学生。休学して東洋の国を回っている。
王とサーカス の簡単なあらすじ
フリージャーナリストの大刀洗万智は、仕事の事前取材の為にネパールへとやって来ます。そこで皇太子である王子による王族虐殺事件が発生し、ネパールは国が大混乱に陥ります。そんな中、万智は日本からの指示でネパールに残り事件の取材を行いますが、話を聞いた軍人が変死体で発見されスクープのチャンスを掴みますが、万智は一旦思い留まり記事にするかどうかで迷います。
王とサーカス の起承転結
【起】王とサーカス のあらすじ①
大刀洗万智は以前新聞記者として働いていましたが、同僚の死をきっかけに自分を見つめ直し、退社してフリージャーナリストとなります。
知り合いからアジア旅行の特集記事の依頼をもらい、先行取材の為にネパールへとやってきます。
朝、宿で朝食を取ろうとロビーへ行っても何も無く困っているとロバートというアメリカ人大学生が声を掛けてきて朝食を取るのに良い店を知っているから共に行こうと誘ってくれます。
財布を取りに戻ったロバートを待っていると、子供が土産物を売りに来て意外にも日本語で話しかけてきます。
これから朝食だと答えると子供はすぐに引き下がりますが、ロバートと共に朝食後宿に戻ってくると再び子供が話しかけてきて、万智の名前を尋ねます。
子供はサガルと名乗り、オススメの品を探してくるといって駆け出していきます。
昼前にサガルと会うと大刀洗という名字に合うようにククリを探してきたと言い、万智はサガルの熱意に負けてこれを購入します。
万智は宿に戻ると仏僧風の男性が日本人でサガルに日本語や太刀の意味を教えたのだろうと推測して日本語で話しかけます。
予想通り男性は八津田と名乗る日本人で、昼食場所として天ぷら屋を紹介してもらいます。
八津田は店主の吉田と親しく、日本からの荷物も預かってもらっているようでした。
宿に戻るとサガルに中に入らないように忠告されます。
中には軍人風の男がおり、サガルによるとラジェスワル准尉と言ってインドのスパイだし軍人は横暴なので近づかない方が良いらしいです。
仕方なくサガルにガイドをしてもらい街を散策します。
サガルの身の上話を聞くと、父はおらず5歳年上の兄を亡くしており自身もお金を稼がないと暮らしが成り立たないそうです。
夜中に目を覚ますと、ニュースでネパール王宮で皇太子が王と王妃を殺したという大事件が発生していたことを知ります。
【承】王とサーカス のあらすじ②
翌朝、万智は日本の編集者に連絡を取り取材をするので月刊誌に載せるページを確保して欲しいと交渉します。
取材許可が下りると、宿の女主人に頼んで事件を詳しく知っていそうな軍人ラジェスワル准尉を紹介してもらいます。
ラジェスワルからの返答を待つ間、サガルにネパール語通訳をしてもらいながら街で取材をします。
真相が分からず政府もなかなか情報を出さない為、住民は怒りと悲しみからかなり混乱していました。
様々な憶測が飛び交い、王宮前では民衆と警官隊が睨み合いになります。
生き残ったギャネンドラ摂政は自動小銃の暴発が原因だと発表し、更なる混乱を招きます。
宿ではロバートが国を出ようとしていましたが、バスも飛行機も一杯で困っていました。
ロバートは自分にはチーフが付いているから問題無いと強がりますが、事件については離れた所で見る分には楽しめるが近くにいると危険すぎると言い怯ていました。
万智は自分もこの事件をスクープ出来れば名前が売れて数年間は仕事の不安は無くなる為、現地の人が嘆き悲しんでいる酷い事件を娯楽のように感じていたのではないかと自問自答します。
ラジェスワルと会うとまず用件を聞かれ、王の死については何も答える気は無いと言われます。
ラジェスワルは例え話しても日本人を喜ばせる為の記事にしかならず、万智はいわばサーカスの座長で記事はサーカスの演し物だと指摘します。
特に日本語で書かれる記事など日本人しか読まず、ネパール軍の恥を晒すような話をすることはラジェスワルにとっては何のメリットもありません。
万智は何も言えずに引き下がり、自身の仕事について思い悩むこととなります。
【転】王とサーカス のあらすじ③
万智が王宮へ取材に行くと、民衆と警官隊の衝突が起き、催涙弾と警棒で警官隊が攻撃してきます。
万智も必死で逃げ辿り着いた空き地には死体がありました。
死体にはINFORMERと傷で文字が書かれており、警察がやって来て顔が見えるように動かされるとラジェスワル准尉だと確認出来ました。
万智は宿に戻るとラジェスワルが殺されたのは自分と会ったことが原因ではないかと考えます。
隣室のロバートは怯えて部屋に閉じこもっており、万智も命の危険に晒される可能性があると考え取材続行するか悩みますが、記者になった理由を思い返し自分の知りたいという気持ちに従うことにします。
しかし心には迷いがあり、ロビーで茶を飲んでいた八津田に迷いを見抜かれ、仏教の話を用いて説教をしてもらいます。
話が一段落した時、警察がやって来て万智は連行されます。
警察はラジェスワルと会っていたことを掴んでおり、容疑者として万智を取り調べます。
しかし銃の残渣反応は出ず、宿の主人チャメリとインド人のシュクマルが万智の帰った時間ロビーにいたため一応のアリバイもありすぐに解放されます。
宿に戻り日本に電話してラジェスワルの遺体を記事に載せるかを相談します。
王宮での事件に関連している証拠が見つかればという条件付きとなり、ラジェスワルの死の原因を調べるという目的が定まると万智は迷いが無くなります。
八津田に無事を報告すると今度は逆に相談を受けます。
八津田は荷運びを頼んでいた吉田が大麻を吸って寝込んでしまい、日本に運べなくなったため万智が帰る時に持って行ってくれないかと頼みます。
宿にチャンドラとバランという警官がやって来て万智の護衛をすると言われます。
警官と共にラジェスワルの死因を探り不審な点について検討をしていくと、万智には殺害場所として思い当たる場所がありました。
【結】王とサーカス のあらすじ④
ラジェスワルとの待ち合わせ場所であった廃ビルへ行くと、何か引きずったような跡があり、辿っていくと大きな血溜まりがありました。
現場には銃が落ちており警官がチーフという名前で口径も同じだと言います。
警官にラジェスワルについて尋ねると、大麻密売の疑いがあったと教えてくれます。
万智は宿に戻りロバートに銃の写真を確認してもらいます。
ロバートは自分の銃が殺人に使われたと知ると激しく後悔し、犯人として思い当たる客室係のゴビンを探します。
しかしチャメリに聞くとゴビンは金を盗んで逃げたようです。
万智は記事を書き上げ翌朝日本へFAXを送っていると、ロバートが大使館へ向かって出て行き、シュクマルもインドへ帰っていきます。
最後に八津田が現れ、万智はゴビンの安否を尋ねます。
八津田は誤魔化そうとしますが、万智は犯行を行えたのは八津田しかいないことを説明し、八津田とラジェスワルは大麻密売の相棒だったと指摘します。
八津田はゴビンは金を渡して逃がしたと言い、ようやく犯行を認めます。
八津田は万智が昨夜のうちに八津田の犯行に気づいていながらゴビンを無視して自分の仕事をしており、冷たい人間だと指摘して逃げていきます。
万智が空き地で佇んでいるとサガルが現れどんな記事を書いたのか聞いてきます。
ラジェスワルのことは書かなかったと知るとサガルはあれ程お膳立てしたのにと怒ります。
ラジェスワルの死体を空き地に運び密告者と彫ったのはサガルであり、万智に誤報記事を書かせようとしたのでした。
記者のせいで貧困にあえぐ子供が増えサガルの兄のように命を落とす子供いるため、サガルは記者全てを憎んでいました。
サガルは万智を睨み、早く街から出て行けと言い残し去って行きます。
万智はネパールで記者生命の危機に陥ったものの、帰国後もフリーの記者として仕事を続け、時おりラジェスワルの写真を見てはこれを誤報しなかった事に誇りを感じています。
王とサーカス を読んだ読書感想
本作はミステリー三冠に輝いた作品であり、ネパールというあまり日本人には馴染みの無い国を舞台としています。
また、作中で起こる王宮での王族虐殺事件は実際に起きた事件であり、未だに真相が解明されていない謎の事件でもあります。
皇太子が王族の集まる晩餐会で銃を用いてほぼ皆殺しにして自殺するというのも前代未聞の大事件ですが、皇太子の叔父とその家族だけが生き残るという何とも怪しい点があります。
しかし証拠も無く軍と政府が皇太子に罪を着せて有耶無耶にした為、誰も調べる事が出来ずに真相解明されませんでした。
このような事件が起きた国にたまたま居合わせたのであれば記者として当然スクープを狙いますが、ネパール国民からすると殺到する記者は金の亡者にしか見えないのも分かります。
ネパールの為を思ってとか、真実を伝えるためとか建前はいくらでもありますが、結局記者は自分の名声を高め金を得る為に記事を書くのであって書かれる側が面白いはずがありません。
それをラジェスワルから指摘されると万智は何も言い返せないと言うのも仕方ない事だと思います。
思い悩む万智が自分なりの記者としてのあり方に気づいていくものの、サガルのような子供にとってはどんな記者も憎しみの対象でしかないという何とも言えない結末でした。
米澤穂信さんのさよなら妖精という作品が本作の前身となっており、万智の高校生時代に経験した友人の死が記者となるきっかけになっています。
本作の中でもそのことを示唆する記述がいくつかありますので、さよなら妖精を読んでみると更に楽しめると思います。
コメント