【ネタバレ有り】さよならの儀式 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:宮部みゆき 2019年7月に河出書房新社から出版
さよならの儀式の見どころ!
・主人公「俺」と顧客である「娘」との心理的対立
・ロボットが人間の代わりを務める世界
・愛情を知らない「俺」のロボットに対する複雑な心情
・「娘」とロボット・ハーマンの種族を超えた愛情
さよならの儀式の主要登場人物
「さよならの儀式」
俺(おれ)
主人公。ロボット技師を務めている。元孤児。
娘(むすめ)
野口奉公会という孤児院の職員。元孤児。
ハーマン(はーまん)
一般家庭向けロボット。かなり古いモデルで老朽化しているため、回収された。
「母の法律」
二葉(ふたば)
マザーズ法により、過去の記憶を失って養父母に育てられる。
一美(かずみ)
二葉の姉。二葉と同じように養父母に引き取られた。猫好き。
「戦闘員」
達三(たつぞう)
散歩が日課の老人。視野狭窄を患っている。
箭内少年(やない少年)
建築士の父の死後、親戚のマンションで暮らしている。
さよならの儀式 の簡単なあらすじ
掲題「さよならの儀式」家庭用ロボットが普及した未来の日本が舞台です。主人公「俺」はロボットの廃棄手続きを担当する窓口担当として勤務しています。ある日、窓口にひとりの娘がやってきます。彼女が廃棄をするのは、かなり旧式のロボット、ハーマンでした。「俺」はロボットに感情移入することには否定的ですが、彼女は新しいロボットにもハーマンの記憶やデータを移行してほしいと懇願します。根負けした「俺」は廃棄処理を待つハーマンの姿を彼女に見せますが、その場で、彼女とハーマンは人間とロボットの関係を越えたコミュニケーションを「俺」に見せつけるのでした。
さよならの儀式 の短編あらすじ
①さよならの儀式 のあらすじ
舞台は、家庭用ロボットが普及した未来の日本です。
主人公「俺」は、ロボット技師ですが、現在はロボットの廃棄手続きの窓口担当として勤務しています。
この窓口には、ロボットをやむを得ぬ事情で手放した人々がやってくるので、密かに「カウンセリング・コーナー」と呼ばれています。
ある日、この窓口にひとりの娘がやってきます。
この娘は、野口奉公会という孤児院で育ち、そのまま職員として働いています。
彼女が手放したのは、ハーマンというロボットでした。
「俺」がそのロボットを調べると、ハーマンは驚くほど古い機種でした。
今までに何回か不具合を起こし、聞き取り機能もうまく作動しませんが、奉公会の職員はそれを報告せず、ずっとハーマンと一緒に暮らしていたのです。
娘は、ロボットのハーマンに深い愛情を持っていて、どうか新しく迎え入れるロボットに、ハーマンのデータを移行してほしいと頼み込みます。
「俺」は、ハーマンがあまりにも旧式であるため、その手続きができるかどうかわからないと彼女に伝えますが、彼女は納得してくれません。
娘は、自分は孤児院育ちであり、自分に愛情を注いでくれたのはハーマンだった、私はハーマンに育てられたのだと強い口調で「俺」に語り掛けます。
「俺」は、人間がロボットに愛情を注ぎすぎることに対して、嫌悪感を持っていました。
しかし、どうしても興奮の収まらぬ娘を前にして、「俺」は廃棄物として一旦回収されていったハーマンを娘に見せてやることにしました。
それは、職員間の中ではタブー視されていることでした。
捨てられゆく自分のロボットを見ても、後悔と悲しみがつのるだけだからです。
ハーマンは廃棄を待つ部屋に、他のロボットと一緒に詰め込まれていました。
廃棄を待つロボットたちは、充電を使い切るまで、立ったり座ったり、手を動かしたりと、単純運動を続けています。
娘は大量にいるロボットたちの中から、ハーマンを見つけ出しました。
娘はハーマンに声をかけますが、ハーマンはうなだれたまま反応を示しません。
娘はハーマンに対して声をかけ続けます。
すると、「俺」の目の前で驚くことが起こったのです。
ハーマンはゆっくりと娘を見ました。
そしてそれどころか、娘と手話で会話を始めたのです。
しばらく手話を続けた娘は次第にうなだれます。
ハーマンは手話で、娘に「私を死なせてください」と言ったのです。
するとその時、単純運動を起こしていたロボットがエラーを起こしブザーが鳴り、他の職員たちがやってきました。
職員たちは、娘に廃棄前ロボットを見せた「俺」のことを咎め、娘は別の職員に連れ出されていきました。
一人になった「俺」は、自分とロボットについて考え始めます。
「俺」も娘と同じく孤児で、救護施設を転々として育ちました。
そのため、人から愛情を注がれたり、必要とされることがありませんでした。
せめて、人から必要とされるロボットを作る仕事に就こうとロボット技師になりましたが、自分の作ったロボットだけが愛情を与えられ、自分の存在は誰の目にも止まらないことに深い孤独を感じていました。
「俺」はもはや自分がロボットになりたいと強く願うようになります。
しかし、どうしてもロボットにはなれず、人から必要ともされないのだと思うと、激しく泣き叫びたい衝動を感じます。
それは、「俺」の気持ちとは反対にあまりにも人間らしい気持ちなのでした。
②母の法律のあらすじ
主人公・二葉は孤児でしたが、4歳の時に養父母に引き取ってもらいました。
彼らはファーストクラスの養父母認定を受けていて、二葉の他にも兄の翔と姉の一美も引き取っています。
誰一人血のつながりはありませんが、家族は幸せでした。
しかし、二葉が高校生のころ、養母が病で亡くなります。
この社会では、「マザー法」という法律があり、養父母の離婚や死別で、どちらかが単身者になった場合は、未成年の養子はグランドホームという施設に戻らなければなりません。
「マザー法」は厳格に定められていて、この法律のおかげでたくさんの孤児が温かい家庭を手に入れることができましたが、その反面、窮屈な一面もありました。
二葉と一美は未成年だったので、グランドホームに戻りましたが、養母を失った悲しみは癒えません。
そんな時、死んだと聞かされていた養父の両親が生きていて、今は単身になった父と一緒に暮らしているという話を耳にします。
養父の両親は良い人でしたが、自分の息子が血のつながらない養子を三人も育てているということに嫌悪感を持っており、二葉たちが一緒に暮らしていた時は疎遠になっていたのです。
二葉は、自分たちの存在のせいで、養父は実の両親と対立していたことを知り、ショックを受けます。
そんな時、一美の友人の家に子猫が生まれ、引き取られる前にその子猫を見に行くことになりました。
友人宅に行くと、ちょうど子猫の引き取りを検討している親子もやってきたところでした。
なんとなくその親子に感じの悪さを覚える二葉でしたが、帰りがけにその親子の母親から声をかけられます。
母親によると、自分は二葉の実の母親を知っているというのです。
二葉の実の母親は現在死刑囚で、二葉に会いたがっていると。
二葉はマザー法により、孤児になった時点で幼い記憶を消されています。
なので、母親のことは全く覚えていませんが、母親と会うべきか否か迷い始めます。
その姿を心配した一美は二葉に何があったのかを問い詰め、二葉は彼女に一切を話します。
すると一美は二葉に、実の母親に会わないかと持ち掛けます。
一美は法律関係の進路を考えていて、そのつてを辿れば死刑囚のヒアリングを傍聴することはできると。
悩んだ二葉ですが、意を決して母親のヒアリングに参加することを決意します。
そしてヒアリングの日。
一美と二葉が遅れて会場のホールに入ろうとすると、母親は目ざとく二人を見つけます。
そして「私の娘が会いに来た」とヒアリングの途中で騒ぎ出しますが、その目は実の娘の二葉ではなく、一美を見ていたのです。
二葉は隠し持っていた実の母への期待を裏切られて絶望し、この死刑囚は自分の母親じゃない、養母しか母と認めない、とパニックに陥り、世界が暗転します。
③戦闘員 のあらすじ
達三は散歩が日課の老人です。
ある日、達三が散歩をしていると、通りかかったマンションの駐輪場の防犯カメラをバットで叩きつける少年に出会います。
達三は驚いて少年に「何をしている」と怒鳴りつけます。
少年は脱兎のごとく逃げ出しますが、達三は防犯カメラを叩きつけていた少年が恐怖の表情を浮かべていたことが気にかかります。
翌日、達三が同じマンションの前を通ると、防犯カメラの位置が移動していました。
それは、バットで叩けないような高さで、達三はまるで防犯カメラが危害が加えられない場所まで逃げ出したようだ、という感想を持ちます。
達三の散歩コースには公園があり、その公園では半分ホームレスのような老婆がいつも座っていました。
老婆は家族と折り合いが悪いため、家はあるものの寝るときしか帰らず、それ以外の時間は公園の屋根のある場所に座っています。
達三がその公園に立ち寄ると、老婆の頭上の屋根にも防犯カメラが設置されていました。
老婆に聞いても誰がつけたのかわからないと言います。
そしてしばらくすると、老婆は急死します。
家族によると、いきなり頭痛を訴えての即死だったようです。
他にも、あるマンションで防犯カメラの設置をやめてほしいと騒いだ住人が同じような症状で亡くなったり、防犯カメラの近くで車の事故が起こったりと、防犯カメラにまつわる事件や事故が多発するようになります。
そして、達三の家にもつけた覚えのない防犯カメラが現れます。
もっとも、事件を起こす防犯カメラは消えたり現れたりするようです。
不審な事件がたくさん起こりますが、達三は散歩をやめませんでした。
ある日、達三は散歩の途中で以前防犯カメラをバットで叩いていた少年・箭内に出会います。
箭内の話によると、箭内の父も防犯カメラの出現によって死んだ一人でした。
箭内はもうこれ以上だれも死なないように、死の防犯カメラを破壊しようとしていたのです。
その話を聞いて達三は、自分も防犯カメラとの闘いに参加しようと気色ばみます。
今までは散歩しか趣味のなかった達三ですが、死んだ人々の仇を討つという生きがいを見つけて覚醒したのです。
④わたしとワタシ のあらすじ
四十代・独身の「わたし」はある日タイムスリップした高校生時代の「ワタシ」に出会います。
「ワタシ」によると、自動販売機で見覚えのない缶コーヒーを買うと未来に来てしまったそうです。
「わたし」はとても驚きますが、どうみても「ワタシ」のそばかすだらけの顔は自分のもので、お気に入りの小説『あたしが小悪魔だったころ』とよく似た設定ということもあり、次第に「ワタシ」の存在を受け入れていきます。
二人はスターバックスに行って、どうしてタイムスリップが起こったかを相談しますが、特に変えたい未来も過去もありません。
「ワタシ」は将来の自分が独身で冴えないおばさんになっていることにとてもショックを受けますが、なんだかんだで楽しそうです。
「わたし」は今までの失恋から学んだ教訓を「ワタシ」に伝えたりと有意義な時間を過ごしますが、そろそろ「ワタシ」を過去に帰そうと思い、自動販売機に向かいます。
自動販売機には、一本だけ、過去に販売されていた甘いコーヒー飲料が売っていました。
それを購入すると、「ワタシ」は過去に消えてしまいました。
「わたし」は変な経験をしたものだと思いつつも日常に戻っていきます。
しばらくしたある日。
「わたし」は自動販売機に見慣れない飲料水が売られているのを発見します。
それはおそらくコーヒー飲料ですが、見たことのない文字が印字されていたのです。
これもまた、未来にタイムスリップするコーヒー飲料なのだとすると、未来の日本は使われる文字からして変わってしまうのでしょうか。
不安になる「わたし」ですが、面倒事を避けたいタイプなのでその場からそそくさと逃げ出すのでした。
さよならの儀式 を読んだ読書感想
どの作品も「未来」がモチーフになっています。
宮部みゆきと言えば、サスペンスや時代物といった印象を持っていたのですが、本作は全編通してSFの要素が散りばめられていて、まさに新境地でした。
世界観は少し小川洋子に通じるものがあります。
特に「母の法律」などで顕著なのですが、ラストにしっかりとした結末を持ってこずに、余韻を与えて終わり、というものがありました。
読み手としては放り出されたような気持ちになるのですが、その余韻も楽しめるほどの余裕をもって読みたいものです。
どれも、サクサクと読みやすい内容ではあったのですが、「自分らしさ」や「家族の在り方」といった、普遍的かつ答えのない問いが根底にあります。
その問いを近未来の日本で考える、という挑戦的な一冊なのですが、一遍一遍は短いので気軽に楽しめるかと思います。
コメント
途中から東野圭吾の希望の糸の話に変わってませんか?
申し訳ございません、入稿作業でミスが発生してました。こちら修正しました。コメントありがとうございます。