「杜子春」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|芥川龍之介

「杜子春」

【ネタバレ有り】杜子春 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:芥川龍之介 2014年10月に青空文庫PODから出版

杜子春の主要登場人物

杜子春(とししゅん)
主人公。洛陽在住。資産家の息子で現在は無職。

鉄冠子(てつかんし)
峨眉山に住んでいる仙人。

西王母(せいおうぼ)
女神。仙人として認められた者に免状を手渡す。

杜子春 の簡単なあらすじ

裕福な家庭で跡取りとして大事に育てられた杜子春でしたが、自堕落な生活を送り続けた今では家も財産もありません。途方に暮れていた杜子春の目の前に突如として現れたのは、不思議な仙術を自由自在に使いこなすひとりの老人です。彼に弟子入りをして次から次へと降りかかってくる試練を乗り越えていきますが、年老いた両親を目にして重大な決断を迫られることになるのでした。

杜子春 の起承転結

【起】杜子春 のあらすじ①

杜子春の激しい浮き沈み

唐の洛陽で暮らしている杜子春はかつては裕福な家庭の跡取りでしたが、今現在は無一物となり都の西外れにある門の下にぼんやりと立ち尽くしていました。

気が付くと側には見知らぬ年老いた男性の姿があり、彼のアドバイスに従って杜子春は自分の影の頭に当たる場所を掘り返します。

地面の下から出てきたのは金銀財宝の山で、杜子春はたちまち洛陽でも1・2を争うほどの大金持ちとなって人気者です。

大きな家を建てて上等なお酒や豪華な食べ物を遠方から取り寄せていると、この話を聞き付けた知り合いが入れ代わり立ち代わり遊びにやって来ました。

朝早くから夜遅くにまで飲めや歌えやの豪遊を続けていましたので1〜2年くらいすると財産はすっかり底を突いてしまい、取り巻き連中も以前のようには近づいてきません。

どこからともなく現れて自分の影の胸に当たる場所を掘り返せと助言してくれたのは例の老人で、その姿はあの頃のままです。

またしても黄金を手に入れた杜子春は都の有名人に返り咲きましたが、強欲な知人たちに集られて3年ほどしか財力は持ちません。

【承】杜子春 のあらすじ②

3度目の巡り合いと試練の開始

誰からも泊めてもらえる場所もなくたった1杯の水も恵んでもらえないために、いつかのように西の門の下へと向かいます。

西の門の下で老人との3度目の対面を果たすことになった杜子春でしたが、これまでのように地面を掘って金を手にするつもりはありません。

金持ちになった時には調子よく媚へつらい、貧乏になった途端に手のひらを返したかのように冷たくなって優しい顔ひとつも見せない。

そんな世の中の浅ましい裏の顔を幾度となく目の当たりにしてきた杜子春は、人間の存在そのものにすっかり嫌気が差してしまいました。

老人の正体が極めて道徳の高い仙人・鉄冠子であることを前々から見破っていた杜子春は、彼に弟子入りを志願します。

鉄冠子から不思議な仙術を教わるためには、洛陽から遠く離れた峨眉山の奥深くで彼から与えられる幾多の厳しい試練に励まなければなりません。

道ばたに落ちてあった何の変哲もない青竹の欠片を、鉄冠子は口の中で呪文を唱えて空飛ぶ馬に変えてしまいます。

【転】杜子春 のあらすじ③

次々と襲い掛かる魔物たちと沈黙を貫く杜子春

ふたりが乗った馬は都の明かりや無数の山々を遥か下方に見下ろしながら、猛スピードで突き進んでいきました。

夜が更ける頃にようやく杜子春と鉄冠子がたどり着いたのは、断崖絶壁に囲まれている巨大な一枚岩のてっぺんです。

西王母と呼ばれている仙人たちの女神に会いに行く予定が入っていたために、鉄冠子は杜子春のことをたったひとりでこの寂しげな場所に置き去りにして消えて居なくなってしまいます。

彼が戻ってくるまでには見たこともないような魔物が杜子春をたぶらかしに襲いかかってきますが、何が起きようともたったひと言でも口を開いてはなりません。

目を輝かせて牙を剥いた凶暴な虎、赤い舌に白い胴体のグロテスクな蛇、ごう音を響かせて鳴り響く稲妻、滝のように打ち付ける激しい雨。

何とか堪えながら岩の上に杜子春がへばりついていると、次に現れたのは真っ黒な着物を身にまとって巨大な金色の冠を被ったエンマ大王です。

強情に返事をしないで押し黙っていると、エンマ大王は杜子春の父と母を連れてきました。

【結】杜子春 のあらすじ④

破られた沈黙と杜子春が選んだ生き方

エンマ大王はたくさんの鬼たちを呼び寄せて、杜子春の両親を鉄の鞭で遠慮なく打ちのめしました。

例え自分たちがどんなにつらい目に遭おうとも杜子春さえ幸せになればそれでいい、言いたくないことは言わなくても良い。

母親の自己犠牲に満ちた言葉を聞いた杜子春は涙を堪えきれなくなり、思わず「お母さん」と大きな叫び声を上げます。

自分の声で目が覚めた杜子春が見たものは、夕日を浴びて何事もなかったかのようにたたずむ洛陽の西の門です。

鉄冠子からは仙人として失格の判定を告げられてしまいましたが、不思議と杜子春の胸の内には悔しさはありません。

都会で大金と権力にまみれることなく、人跡の途絶えた山の奥で仙人にもなることなく。

思い悩んだ末に杜子春が導き出した答えは、この先何があろうとも人間らしい正直な生き方を貫き通すことです。

杜子春の旅立ちを祝うために、鉄冠子は泰山の麓にある桃の花と畑に囲まれている小さな一軒家をプレゼントするのでした。

杜子春 を読んだ読書感想

たくさんの人で賑わう唐の都・洛陽の街中で、ひとりでポツンと立ち尽くす主人公・杜子春の後ろ姿がわびし気でした。

調子がいい時は愛想もたっぷりにすり寄ってきて、お金が無くなった途端に手のひらを返したかのように去っていく。

そんな世知辛く人情の薄い世の中にすっかり愛想が尽きてしまい、仙人になりたいと思い付くのは今の時代に生きる起業家や投資家でも同じなのかもしれません。

すべて捨てて杜子春が弟子入りをした仙人が魔法で青竹を空飛ぶ乗り物に変えてしまうシーンには、西洋のファンタジーにもつながるイメージがあって面白かったです。

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