【ネタバレ有り】曾根崎心中 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2012年1月にリトルモアから出版
曾根崎心中の主要登場人物
初(はつ)
遊女。幼い頃に貧困を理由に売られ、島原へ連れていかれる。火傷を負い、堂島新地へ都落ち。以来、新地で客を取るようになり、そこで徳兵衛と出会い恋に落ちる。
徳兵衛(とくべえ)
幼い頃に継母に売られ、醤油問屋の丁稚として働く。初めて訪れた遊郭で初と出会う。金に困り、九平次から金を盗ろうとしたとして追われる身になる。
島(しま)
新地で初が仕えていた姐さん。気立てがよく人気者で気まぐれなところもあるが優しい性格。呉服屋の若旦那と内密に契りを交わすも、子を孕み、やがて病に伏せ、古郷にかえされる。
加島屋(かしまや)
初の身請け話を持ち掛けている。初より二十は年上のご老体。
九平次(くへいじ)
油屋主人の息子。年の近い徳兵衛は兄のように慕っていたが、金をだまし盗られたと主張し、徳兵衛を窮地に追い込む。
曾根崎心中 の簡単なあらすじ
八つのときに貧しさを理由に売られた初は、遊郭・島原へ連れてこられます。天神の禿になった初でしたが、太ももに火傷を負わされ、堂島新地へ都落ち。しかし、意外にも新地は島原のように殺伐とした雰囲気はなく、数段居心地の良い場所でした。客をとるようになってからは辛いことも増えましたが、それでも平穏な日々を送る初。そんなある日、一人の客との出会いで、それまでの初の世界は一変します。出会ってすぐに恋に落ちた初と徳兵衛。しかし過酷な現実が二人を待っていました……。
曾根崎心中 の起承転結
【起】曾根崎心中 のあらすじ①
八つのときに貧しさを理由に売られた初は、遊郭・島原へ連れてこられます。
天神の禿になった初でしたが、太ももに火傷を負わされ、堂島新地へ都落ち。
今でも太ももにははっきりと火傷の痕が残っています。
堂島新地の天満屋は島原の店よりだいぶ小さく、太夫も天神もおらず抱えている女は二、三人でしたが、島原の殺伐とした雰囲気はなく、女たちはお喋りをし、火鉢を囲んで菓子を食べたり、格段居心地の良い場所でした。
成長し、客をとるようになると大変なことも多くなりましたが、物心つく前から家を出され、家族の顔もぼんやりとしか思い出せない初にとって、天満屋の主人と女将が親代わりみたいなものでした。
今日は、乗客の加島屋が観音様巡りに外へ連れ出してくれる日です。
久しぶりの外出に初は浮足立ちます。
三十三か所寺をまわれば願いが叶うと信じている初の足取りは軽く、熱心に拝んでは次の寺を目指します。
道中、意中のあの人の姿を探しますが、見つけられません。
徳兵衛というその男は久しく初のところへ通っていません。
契りを交わしたからといって、時間が経つと不安で仕方ありません。
店の外で何をしているか初には知る由もないからです。
【承】曾根崎心中 のあらすじ②
初にとって天満屋が居心地が良かったのは、島という姐さんがいたのも理由の一つです。
気立てが良く人気者で、気まぐれなところもあるのですが、大概は優しい女で、初のことをかわいがってくれました。
客がいない夜は初を抱きしめて眠ってくれ、母親にもそんなことされた記憶がない初にとって、それは夢見心地でした。
ほかにも客あしらいから銀勘定まで島は教え、そして一番大事なのは新地から出ることだと何度も初に言いました。
ここを出られるのなら手段は選ばないとも。
客を人だと思ってはいけないと言い、男なんて好きになるものではないと熱心に言い含めていた島がある日から変わっていきました。
うっとりとしたり、熱心に観音様巡りをしたり、恋について語ったり。
幼い初は、男なんて好きになるもんじゃないの?と島に聞きます。
すると島は初をぎゅっと抱きしめて『そう言うてたあては、あんたと変わらへんくらいおぼこやったんやねえ。
』と言って笑いました。
そして、火傷は本当に好きな相手にしか見せてはいけないと真剣な顔で言います。
正直、その時の初は誰かに傷を見せるなんてとんでもないと思いましたが、気圧されるほど美しい島を前に、うなずくしかありませんでした。
しかし、大好きだった島はもう天満屋にはいません。
子を孕み、床に臥せ古郷にかえされてしまったからです。
島が誓った相手の呉服屋の若旦那は、島が病気になると、それまでの熱心さが嘘のように、他の女のもとへ通い出しました。
恋をして発光するくらい眩しく美しかった島はだんだんと輝きを失い、最期はボロボロになって初の前からいなくなってしまったのでした。
【転】曾根崎心中 のあらすじ③
島をそばで見ていた初は自分は恋などするものか、と思いました。
しかし、そんな決意も虚しく、島のように烈しい恋に落ちました。
醤油問屋の丁稚をしている徳兵衛を一目見て、それまでの男とは違うと思いました。
初めて心も体も昂り、これが恋なのかと悟った初は、その日から徳兵衛のことしか考えられなくなりました。
しかし徳兵衛は金がなく、なかなか初のもとへ通ってこれません。
初は徳兵衛が来てくれるのを、他の男に抱かれながら待っている他ありませんでした。
観音様巡りを終え、茶屋で休憩している初のもとへ、偶然徳兵衛が通りかかります。
久しぶりの再会に喜んだのも束の間、徳兵衛は浮かない顔で、困ったことになったと初に告げます。
事情を聞くと、醤油屋の主人に見合いを勧められ、徳兵衛が断ると、主人は徳兵衛の継母にニ貫の銀を渡し、徳兵衛を説得するよう頼んだと言います。
徳兵衛に愛情がない継母は銀を頂戴し、勝手に縁談話を進めてしまったといいます。
怒った徳兵衛は醤油屋の主人に猛抗議。
すると、恩を仇で返したと主人は徳兵衛に絶縁を言い放ち、銀二貫も返上しろと言います。
心に決めた初との結婚のためならと、継母に詰め取り返した徳兵衛でしたが、友人で兄のように慕う九平次から銀に困っていると相談され、その二貫を貸してしまったと言うのです。
しかし、約束の期日を過ぎても九平次から何の音沙汰もなく途方に暮れている、という話でした。
借用書と判子まであると初に見せる徳兵衛の前に、九平次があらわれます。
したたかに酔ってご機嫌な九平次に銀を返せと食って掛かる徳兵衛。
なんのことだととぼける九平次に、借用書もちゃんとあると、先ほどの紙を九平次に叩きつけますが、これは、徳兵衛の字ではないかと言い返されてしまいます。
偽判までして、俺から金をだまし盗るつもりかと逆にのされてしまう徳兵衛。
初はなすすべなく、その場を後にします。
【結】曾根崎心中 のあらすじ④
徳兵衛の話では、九平次は銀を借りる時、手を怪我していた為自分が代筆したという話でした。
しかし、こうなっては完全に徳兵衛が不利な状況です。
このままでは、偽判容疑で徳兵衛は罰せられるか、そうでなくても返す銀はないので、醤油問屋の主人に顔向けもできません。
初は必死になって打開策を考えますが、いい案は思い浮かびません。
新地でも徳兵衛の噂でもちきりでした。
女たちが噂に興じる中、ひっそりと徳兵衛が初の前に姿を見せます。
ボロボロになった徳兵衛を軒下に匿った矢先、九平次たちがやって来ます。
盗人で甲斐性なしの徳兵衛はきっと泣き言を言って女のもとへ来るはずだとニヤニヤしながら腰を下ろします。
腹の虫が収まらない初は、九平次に向かって啖呵を切ります。
そして初は、徳兵衛と心中することを思いつきます。
近々自分は加島屋に身請けされてしまい、徳兵衛とは会えなくなってしまいます。
無一文で働き口もない徳兵衛が、初を身請けするのは到底不可能です。
初の心を徳兵衛も受け入れます。
その夜、こっそり抜け出し、曾根崎の森へ駆け出す二人。
これからは二人ずっとあの世で一緒にいられると思うと、怖いものなどありません。
覚悟を決めようとした初の胸にちらりと疑念が生じます。
果たして、何が本当だったのだろう。
九平次の主張が正しかったとしたら……。
よく考えたら、自分は徳兵衛という男の本性を知らないのではないか。
しかし、そんな疑いさえどうでもよくなります。
剃刀も持ち震えている徳兵衛の手をしっかり握り、初は力をこめます。
子供が泣いている声がすると思ったら、それは子供のように泣きじゃくる徳兵衛でした。
微笑み返す初。
やがてあたりは静まりかえり、初の目には何も映らず、何も聞こえなくなります。
曾根崎心中 を読んだ読書感想
近松門左衛門原作を現代風に書き直しした本作。
初の一人語りによる軽快な方言で展開されていきます。
初が見ていた世界、生きていた世界の美しく残酷なことよ。
テンポよく物語が進んでいき、結末がわかっていてもはらはらどきどきします。
妄信的に徳兵衛を愛し、心中まで誓った初の最期の疑念。
遊女の悲恋だけでは終わらせないのが、角田光代さんです。
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