【ネタバレ有り】風に舞いあがるビニールシート のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森絵都 2006年5月に文藝春秋から出版
風に舞いあがるビニールシートの主要登場人物
工藤里佳(くどう りか)
外資の投資銀行のディーラーからUNHCRの一般職員に転職。上司のエドと恋人関係になり結婚するも離婚。勝気で打算的な性格。
エドワード・ウェイン(えどわーど・うぇいん)
UNHCRの専門職員で、フィールド活動に命を燃やしている。里香に結婚をせがまれ同意するが、結婚してからも危険なフィールド活動を続ける。
リンダ(りんだ)
アフリカ系アメリカ人の里佳の上司。
寺島真治 (てらしま しんじ)
大手通信社の国際部記者。アフガン問題を担当。取材の対応を通して、里佳に核心を迫る。
ソワイラ(そわいら)
アフガンで暴漢に襲われそうなところをエドに助けられる。
風に舞いあがるビニールシート の簡単なあらすじ
外資の投資銀行のディーラーからUNHCRの一般職員に転職を果たした里佳は、上司のエドとひょんなことから恋愛関係に発展し、結婚に至ります。幸せに浸る間もなく、パートナーのエドは、危険がともなうフィールドの地へ活動拠点を移し、二人は離れ離れに。愛するがゆえにエドに戻ってきて欲しい里佳でしたが、エドはフィールド活動に命を燃やし、里佳の希望を聞き入れません。そして決定的な事件が起こってしまいます。
風に舞いあがるビニールシート の起承転結
【起】風に舞いあがるビニールシート のあらすじ①
外資の投資銀行のディーラーからUNHCRの一般職員に転職を果たした里佳は、現状に満足していました。
ディーラーとして活躍していた頃は鼻もちならないほどの年俸を保証されていたとはいえ、激務でこの先仕事を続ければ体を壊すことは目に見えていた中、たまたま見つけたUNHCR現地の一般職員募集の記事。
国際公務員というネームバリューも申し分なく、日本的な上下関係のしがらみに辟易していた里佳にとって、欧米的で風通しの良い職場は魅力的でした。
流暢な英語でそつなく受け答えする里佳でしたが、面接官の中に意地悪な質問を投げかけてくる落ち着きのない男性職員がいました。
それがエドです。
難民問題に興味があったわけではなく、たまたま空いていたポストがUNHCR現地の一般職員だったことを見透かしているエドは、里佳に挑発的な質問をしてきます。
ぼろを出さないように慎重に言葉を選びながら受け答えをした里佳に、面接の最後、エドが『この後一杯どうかな?』と誘います。
転職理由として、日本的な上下関係のしがらみが不満だったと答えた里佳にとって、この質問は予想外。
しどろもどろになった里佳を面白がってから、エドはそれまでのにやにや笑いを消し、『誘われて困るなら、はっきりノーと言えばいい。
職場環境は相互の意思と努力で築いていくものだ。
少なくとも僕は明日、まだ存在しない君のデスクに仕事を山を作ったりしないさ』と言い放ちます。
エドの横やりで失敗したかに思われた面接でしたが、里佳は無事合格し、UNHCRの一般職員として働き始めます。
【承】風に舞いあがるビニールシート のあらすじ②
里佳が期待していた通り、UNHCRは風通しの良い職場でした。
十三名のスタッフは管理職の専門職員が四名、彼らを補佐する一般職員が九名在籍し、専門職員は個室が与えられ、少なからず待遇の違いはあるものの、あまり隔たりは感じさせません。
意地悪な質問をしたエドは専門職員でした。
数年前までスーダン、リベリア、ジブチ等の現場を渡り歩いてきたエドは、フィールド活動に命を燃やしており、東京オフィスに籍を置く今も、常にフィールドのことで頭がいっぱいという風情で、凶報が流れては悲痛な叫びをあげています。
ある日、残業で残っていた里佳はエドのオフィス前を通りかかった時に、部屋から狂おしい雄たけびを聞き、エドと目が合ってしまいます。
その場を立ち去りたかった里佳でしたが、エドの悲痛な顔を見て足を止めます。
事情を聞くと新人スタッフが難民用に手配した主食の豆に誤りがあったようで、怒りに震えています。
たかだか豆と思い、エドの言葉を流し気味で聞く里佳でしたが、ある思い付きが閃きます。
後日、エドに主食を豆腐に変えたレポートを提出した里佳。
その緻密なデータに大笑いしたエドは、その夜報酬のかわりにごちそうすると里佳を食事に誘います。
【転】風に舞いあがるビニールシート のあらすじ③
それまでの里佳は職場恋愛は必ず女性側が損をするという理由から避けていました。
わりをくうのはご免だと思ってきた里佳でしたが、その夜、気が付いたら一糸まとわぬ姿でエドと抱き合っていました。
こんなはずではないと頭の片隅では思っているものの、体は言うことをききません。
終わった後、二人はお互いの相性の良さに感嘆の溜息を漏らすほどでした。
打算的な里佳は、結婚に持ち込めば、不利な社内恋愛も一発逆転できるという浅はかな理由で、エドに結婚をせがみます。
別れるか結婚かの選択を迫られ、エドは結婚することを選び、これで何もかも手に入ったと喜ぶ里佳でしたが、エドが再びフィールドに出向くようになると、不安が募るようになります。
紛争地帯で生活するエドの身に、いつ何が起きるかと気が気でなりません。
一人、東京でエドを待つ里佳は次第に疲弊していきます。
年に数日しかない休みは必ず里佳の待つ家に戻ってくるエドに、里佳はフィールドから離れ、安全な地で活動して欲しいと頼みます。
しかし、エドは聞き入れません。
逆に里佳に、里佳自身もフィールドに出て想いを共有して欲しいと提案します。
話は平行線のまま、お互い歩み寄ることはなく、エドは短い休みを終えて、フィールドへ戻って行くのでした。
【結】風に舞いあがるビニールシート のあらすじ④
里佳とエドは会えば、お互いの要求をぶつけるようになります。
とは言っても、夫婦の時間をわずかしか共有できない二人は、喧嘩することもままなりません。
結婚七年目を迎え、二週間という長い休みをもらったエドに、里佳は初めて子供が欲しいことを打ち明けます。
里佳の告白に固まるエド。
そして地球上にはもう十分すぎるほどの人間がいて、救いきれない命がたくさんあることを里佳に訴えます。
決定的に決裂した二人は離婚する結論に達しました。
愛していながら別れを決めた二人でしたが、夫婦でなくなっても大切な存在には変わりないと誓います。
後日、フィールドに戻ったエドの訃報が里佳のもとへ届きます。
悲しみに暮れる日々でなんとか堪えながら仕事をしている中、寺島という記者からイラク戦時下のアフガン難民についての取材を申し込まれます。
淡々と取材に答える里佳でしたが、エドの死について話題が及ぶ事態に。
どうやら寺島はエドの元妻であることに勘づいているようでした。
冷静さを装いながら取材を打ち切ろうとした里佳に、寺島はエドの最期を伝えます。
暴漢に襲われそうになった少女を守る為、身を挺して庇ったこと。
エドが庇った少女の名前はソワイラと言って、将来国際機関で働くの夢だということ。
里佳は緊張の糸がきれ、突っ伏して泣き崩れます。
その取材後、上司のリンダに呼び出された里佳は、フィールド行きを打診されます。
そして悲しみに暮れていては何も進まないと諭されます。
エドを奪ったフィールドを敵のように思っていたことを里佳はリンダに打ち明けますが、それまで頑なに拒否してきたフィールド行き決心するのでした。
風に舞いあがるビニールシート を読んだ読書感想
第135回直木賞受賞した本作。
表題作はじめ他5編の短編が収録されています。
勝気で打算的だった里佳が、エドと結婚して少しづつ消耗していく様が読んでいて苦しくなっていきます。
愛しているからこそ、相手をつなぎとめておきたい里佳と、里佳を愛していながらも使命をまっとうしたいエドの行き違い、そして関係の終焉。
離婚してから迎えるエドの死。
辛い現実の中で、難民の少女・ソワイラの夢が眩しくて、涙せずには読めない本作、おすすめです。
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