「出口のない海」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|横山秀夫

「出口のない海」

【ネタバレ有り】出口のない海 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:横山秀夫 2004年8月に講談社から出版

出口のない海の主要登場人物

並木浩二(なみきこうじ)
主人公。甲子園に出場した後にA大の野球部に入部。 ポジションはピッチャー。

剛原力(ごうはらちから)
中学時代は柔道部。 A大で野球を始めてポジションはキャッチャー。

鳴海美奈子(なるみみなこ)
並木の妹のクラスメート。

北勝也(きたかつや)
長野県出身。 A大の陸上部員。

香織(かおり)
美奈子の孫。 新宿の喫茶店「ボレロ」の店員。

出口のない海 の簡単なあらすじ

甲子園で活躍した並木浩二でしたが、進学した先は野球が弱いことで有名なA大学です。肘の故障や激しさを増していく戦争に悩まされながらも、チームメイトとともに汗を流しつつ自分だけの魔球を投げる練習をしています。一人また一人と部員たちが兵隊に取られていく中で、ついには並木も野球を諦めて海軍入りを志願するのでした。

出口のない海 の起承転結

【起】出口のない海 のあらすじ①

チームメイトとの決別と未完成の魔球

並木浩二は甲子園の優勝投手でありながら、 大学リーグで万年最下位のA大学の野球部に入ったことで有名でした。

豪速球が持ち味のピッチャーでしたが、右ひじを故障してからは魔球の開発に取り組んでいます。

時代は太平洋戦争に突入したばかりで、野球は敵国のスポーツだけに余り良いイメージはありません。

おまけに大学生は20歳を過ぎても徴兵が免除されていたために、睨まれてばかりです。

そんな中で入学以来ずっと一緒にバッテリーを組んできた剛原力が、 突如として陸軍の候補生になると言い出しました。

他のメンバーも次々と志願して戦地へ向かう中で、並木は壮行試合を思いつきます。

対戦相手は部員たちが行き付けにしていた新宿の喫茶店、 「ボレロ」のマスターが集めた素人集団です。

寄せ集めの9人と弱小野球部は、 最後の青空の下で思う存分に野球を楽しみました。

並木はサヨナラホームランを打たれて負け投手となったために、必ずグラウンドに帰って魔球を完成させることを誓います。

【承】出口のない海 のあらすじ②

わかれのボレロと死を呼ぶ◎

1943年の12月、明日にも軍隊へ入営という夜に並木はブラウスにスカートを身に着けたひとりの女学生とボレロで会っていました。

彼女の名前は鳴海美奈子で、並木の4歳年下の妹と同じ女学校に通っています。

美奈子が持ってきた袋から取り出したのは、 白い布に赤い糸でひと針ずつ縫い玉を作った千人針と呼ばれている「お守り」です。

若い頃にスペインに滞在していたというマスターは、若い恋人たちのために蓄音機で舞踏曲の「ボレロ」を流してくれました。

翌朝に高円寺の実家の前で近所の人たちによって出征兵士として送り出された並木は、心の中で美奈子との再会を願いなから旅立ちます。

兵科予備学生の試験にパスしていた並木の配属先は、海の中に潜む敵の潜水艦を探して攻撃する専門技術を学ぶ対潜学校です。

学生たちは上官から1枚の紙を手渡されて配られて、録に説明もないまま重大な選択を迫られます。

近頃海軍で開発された新型兵器に乗って戦闘に参加したい者は◎、希望しない者は自分の名前を書く。

多くの仲間たちと同じように、並木も◎を書き込みました。

【転】出口のない海 のあらすじ③

出口のない海に消えた青年

新型兵器は回天と名付けられた、 爆薬を満載した魚雷に人間が乗り込んで敵船の横腹めがけて突っ込む特攻兵器です。

回天で出撃する兵隊の中には、 A大の陸上部に所属していた北勝也もいました。

1940年の東京オリンピックの候補選手になるほどの俊足でしたが、戦争のあおりでオリンピックの中止が決まったすぐ後に徴兵されたようです。

北は中尉で少尉の並木からすると上官に当たりますが、同じ大学のよしみで腹を割って何でも話せます。

明日には出現という夜に、海辺に誘われた並木は北に自らの思いを打ち明けました。

日本はもう負けたほうがいい、自分は回天を伝えるために死ぬ。

目の前には水平線が開けていましたが、今の並木にとっては二度と陸地を踏むことを許されない出口のない海です。

次の日に潜水艦から発進した並木の回天は行方不明となり、終戦後に瀬戸内海に面した光基地の砂浜で発見されます。

機内で発見された並木の遺体の手には、「魔球完成」と書き込まれた野球ボールが握りしめられていました。

【結】出口のない海 のあらすじ④

50年の時を駆ける魔球

北が回天に乗り込む直前に、日本は連合軍に無条件降伏をしました。

回天隊は解散され、北は故郷の長野県に戻って実家の農業を継ぎます。

毎日畑仕事に汗を流しながらも、マラソンのトレーニングは欠かしません。

北がA大の剛原と再会したのは70代になった頃で、場所は新宿の小さな映画館です。

すっかり老人となったふたりは、今でも場所を変えて営業を続けているボレロへ行ってみることにしました。

調理場にはエプロンを装着したセーラー服の少女がいて、その顔には北も剛原も見覚えがあります。

並木がA大の野球部寮に連れてきたこともある、 鳴海美奈子の孫・香織です。

美奈子は戦死した並木のことを忘れることができなかったために、ずいぶん遅くになって結婚しました。

夫が理解ある人で、美奈子にこの店をプレゼントしてくれます。

美奈子に生き写しの香織は、祖母の初恋の人について興味津々です。

剛原と北は、魔球を投げると宣言した若き日の並木のすがすがしい笑顔のことを語り始めるのでした。

出口のない海 を読んだ読書感想

第二次世界大戦と軍国主義が吹き荒れる中でも、つかの間の青春と野球を楽しむ主人公の並木浩二の姿が胸に焼き付きました。

並木の女房役を務めながらも、徴兵免除の後ろめたさを感じている剛原力の複雑な思いも伝わってきます。

1940年の東京オリンピックを目指していたはずの北勝也が駆け抜けていく、数奇な道のりも忘れがたいです。

未来への希望に満ちあふれていた若者たちの生命を、一瞬にして奪い去ってしまう回天の非人間性には胸が痛みます。

今の時代の豊かさと平和が、無名の兵士たちの犠牲の上に築き上げられていることを考えさせられました。

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