「影踏み」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|横山秀夫

「影踏み」横山秀夫

【ネタバレ有り】影踏み のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:横山秀夫 2003年11月に祥伝社から出版

影踏みの主要登場人物

真壁修一(まかべしゅういち)
主人公。 大学中退後に忍び込みのプロになる。愛称「ノビカベ」。

真壁啓二(まかべけいじ)
修一の双子の弟。 享年19歳。

稲村葉子(いなむらようこ)
スナック「ムンク」のママ。

安西久子(あんざいひさこ)
修一の元恋人。 保育士。

久能次朗(くのうじろう)
文房具店の経営者。 双子の兄・新一郎がいる。

影踏み の簡単なあらすじ

順風満帆だったはずの真壁修一の人生は、母親が起こした一家心中事件によって一変しました。頭の中では死んだはずの弟・啓二の声が聞こえてきて、修一は彼と会話をしながら空き巣を繰り返すようになります。「ノビカベ」の異名を持つほどに荒稼ぎをしてきた修一でしたが32歳の時に逮捕されて、言い渡されたのは2年の実刑判決です。出所した修一はかつて愛したひとりの女性と再会を果たすことによって、過去の事件とも向き合っていくのでした。

影踏み の起承転結

【起】影踏み のあらすじ①

脳裏に焼き付く弟の声

真壁修一は県立高校の教頭を務める父親と、 中学校教諭の母親によって厳格に育てられました。

高校時代には空手部に在籍して稽古に励みつつ、学業の方も成績優秀で名門のA大学法学部に現役で合格した後に司法試験を目指します。

当時は浪人中だった修一の双子の弟・啓二が、空き巣を重ねて警察から追われる身となったのが転落のきっかけです。

我が子の行く末に悲観的となった母は啓二を道連れに無理心中をするために、 衝動的に自宅に火を放ちました。

妻と息子を助け出そうとした父も炎に巻き込まれてしまい、ただ独り修一だけが生き残ります。

自暴自棄になった修一は傷害事件を起こした末に大学を退学処分となり、以後は定職に就くことはありません。

火事で亡くなったはずの啓二の声が修一の頭の中で鳴り響くようになったのは、修一が深夜寝静まった民家を狙って現金を盗み出す「ノビ」と呼ばれる裏家業に手を染めた時からでした。

厳しい取り調べにも決して口を割らない強かさから、 何時しか修一は「ノビカベ」と刑事たちから恐れられていきます。

そんな修一が年貢の納め時を向かえたのが32歳の時で、場所は関東の地方都市・雁谷市内の住宅街です。

貿易会社に勤務する稲村道夫の家に侵入しましたが、妻・葉子の通報によって駆け付けた雁谷署員に逮捕されました。

2年間の服役を経て出所した修一でしたが、あの日の夜に葉子がライターを握りしめて放火をしようとしていた光景は忘れることが出来ません。

【承】影踏み のあらすじ②

人間の欲望を呑み込む炎

作業賞与金を受け取り刑務所の高塀を出た修一は、さっそく雁谷市大石町にある稲村宅の現状を探りました。

空き巣未遂があってから半年もしないうちに、 稲村道夫は友人の保証人になって土地と家屋を裁判所に差し押さえられてしまいます。

更には勤め先からもリストラされて、アルコールとギャンブルに溺れていく体たらくです。

当時は関西系の進出組員の愛人になっていた葉子は、 交際相手に唆されて夫に保険金をかけて焼き殺そうとしていました。

たまたま決行当日に、修一が盗みに入ったために犯行を諦めた次第です。

その後道夫に離婚届けを突きつけた葉子は、雁谷本町のウエスト通りにある小さなスナック「ムンク」を独りで切り盛りしていました。

午後11時過ぎにウエスト通りの一角に足を踏み入れた修一は、雑居ビルの2階に店を構えるムンクの扉を押し開きます。葉子は美しい顔立ちながらも、夜の仕事と男たちに振り回された末に疲れ果てた様子です。

稲村の家に空き巣が押し入った事件は新聞の地方紙にも載りましたが、彼女は修一のことを覚えていません。

修一が「真壁」と名乗ると、2年前に暗闇でライターの火を挟んで対峙した時の記憶が甦ったようです。

修一は葉子のブラウスを引き裂いてマッチを1本擦り、燃えさしを葉子の顔先に近づけます。

生きたま焼かれる苦しみを存分に思い知らせた修一は、 作業賞与金の封筒から取り出した3万円を洋服代としてカウンターに叩きつけて店を後にしました。

【転】影踏み のあらすじ③

ふたりの生者とひとりの死者との三角関係

雁谷本町から県央線に乗った修一は、3つ目の下三郷駅で降りました。

暗がりの路地裏を進んでいくと、2階建てのアパート「福寿荘」が見えてきます。

錆の浮いた鉄階段を上った先の左端が、安西久子が独り暮らしをしている1Kの部屋です。

真壁兄弟が初めて久子と言葉を交わしたのは小学5年生の時に転校した先の雁谷小学校で、17歳の時から2年間に渡って修一と啓二は彼女を奪い合っていました。

全く同じ顔、同じ声、同じような学校の成績。

久子を巡って繰り広げられた争いは、自らが単なる双子の片割れではなく唯一無二の存在であること証明するための闘いだったのかもしれません。

時が流れて34歳になった修一と久子に対して、今でも啓二だけが19歳のままです。

啓二は頭の中から、修一が泥棒から足を洗って久子と真っ当に生きていくことをお願いします。

そのためには自らが「消える」ことを宣言して、 それ以降修一には啓二の声が聞こえてきません。

そんなある日、今度は久子が修一の滞在先の簡易旅館「いたみ」を訪ねてきました。

3ヶ月ほど前に母親からの頼みを断りきれなかった久子は、下三郷で文具店を営む久能次朗と見合いをします。 ハンサムで親から財産を受け継いだ裕福な男性でしたが、唯一気掛かりなのは無職で金遣いが荒い兄の新一郎の存在です。

奇しくも久能兄弟は修一たちのように一卵性双生児で、 初対面では見分けがつきません。

近頃では弟とそっくりな顔を利用して、 新一郎は久子に付き纏っていました。

【結】影踏み のあらすじ④

声が消えて影だけが残る

自宅アパートまで押し掛けてくるようになった新一郎から逃れるために、久子はいたみに部屋を借りることにしました。

次の日には原因不明の火災が発生して、ふたりはいたみを焼け出されてしまいます。

久子を安全な隠れ家に預けた後で修一は単身下三郷の久能文具店まで乗り込みましたが、人の良さそうな次朗が居るだけで放火犯であろう新一郎の姿はありません。

新一郎が独りで暮らしているアパートはもぬけの殻となっていて、排水溝からは異様な悪臭が漂っていました。

夜遅くになると久能文具店は厳重に戸締まりがされますが、「ノビカベ」の異名を持つ修一の力を持ってすればドライバー1本で浸入可能です。

寝込みを襲撃されてドライバーの切っ先を押し当てられた「自称」次朗は、修一に全てを自白します。 文具店を土地ごと売り払って大金を手にした後で久子と結婚するために本物の次朗を殺害したこと、切断した遺体は自分のアパートの排水溝に流したこと、これからは新一郎ではなく次朗として生きるつもりだったこと。

二度と久子に近づかないことを誓わせて、 修一はその場を立ち去ります。

久子のもとへ自転車に乗って走り出した修一が、久しぶりに聞いたのは啓二の声です。

15年前の火事は無理心中ではなく自殺で、啓二は自らの意志で母と運命を共にしたことを初めて告白します。

秘密を話した啓二は最期の別れを兄に告げて、アスファルトにはどこまでも修一の跡をついてくる淡い影が伸びているのでした。

影踏み を読んだ読書感想

一見すると横山秀夫らしい正統派の推理小説かと思いながら読み進めていくうちに、意外な展開になって騙されてしまいました。

主人公の真壁修一が火事で焼け死んだはずの弟・啓二と頭の中で会話するシーンは、SFのような設定でありサイコスリラーのような味わいがあります。

一流大学の法学部に通って司法試験を目指す検事志望者ながらも、空き巣へと転落していった修一の過去は痛切です。

その一方では裏社会に生きる犯罪者でありながらも、義理人情を重んじて自らの信念を貫く一匹狼の生きざまには胸を打たれます。

夫を焼き殺そうとした稲村葉子には暴力的な振る舞いを見せつつ、愛する安西久子の危機には身体を張って駆けつける二面性も魅力的でした。

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