【ネタバレ有り】夜行 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:森見登美彦 2016年10月に小学館から出版
夜行の主要登場人物
大橋(おおはし)
主人公。京都の大学を卒業後に都内で就職。
長谷川(はせがわ)
大橋と同じ大学に通う2年生。10年前に失踪して現在は行方不明。
中井(なかい)
大橋の先輩。英会話スクールのリーダー。
岸田道生(きしだみちお)
銅版画家。イギリスの画家に弟子入りして帰国後は京都市内で活動。
武田(たけだ)
大橋の後輩。大学を出た後は出版社に勤務する。
夜行 の簡単なあらすじ
大学生の頃に英会話スクールに入っていた大橋は特に仲が良かった6人で、鞍馬山の火祭りを観光しに行きます。長谷川という2年生が失踪して、それ以来大橋も京都の仲間たちと付き合いはありません。10年ぶりに再会することになった5人は、この10年間で銅版画家・岸田道生が描いた不思議な絵と関わり合って生きてきたのでした。
夜行 の起承転結
【起】夜行 のあらすじ①
京都の大学に通い始めて2年目に入った大橋は、大学生や研究者が集まる英会話スクールに入会しました。
外国人の先生がひとりで、数人の生徒を受け持っていて1時間ほど教えます。
場所は出町柳駅から百万遍通りの交差点へ向かう道を、細いわき道に折れた奥にある木造の一軒家です。
メンバーの中でも中心的な存在だったのが大学院生の中井で、面倒見が良い人柄でいろいろな人を食事や旅行に誘っていました。
秋になると6人で叡山電車に乗って、鞍馬山の火祭りを見物に出かけます。
大橋と同じ2年生の長谷川が姿を消したのは、その日の夜のことです。
当時の新聞には女子大生の失踪事件として小さな記事が掲載されて、関係者によって懸命の捜索活動が行われましたが何ひとつ手掛かりは見つかりません。
大橋は大学を卒業した後に東京で就職をしてからはすっかり京都に足が遠のき、英会話スクールの仲間と再会を果たしたのは長谷川が消えてから10年の時が流れた頃のことです。
【承】夜行 のあらすじ②
10年ぶりに集まったのは大橋と中井、大橋の1年後輩に当たる武田と彼と同い年の藤村、最年長者の田辺の5人です。
一足先に京都駅に到着した大橋は、待ち合わせまでには時間があったので繁華街を散策することにしました。
高倉通に面した画廊で長谷川に似た女性を目撃したために、「岸田道生個展」と書かれた店内に入ってみます。
大橋が心を奪われたのは、「夜行」というタイトルの銅版画です。
画廊の経営者の話では作者は7年前に亡くなっていて、「夜行」は「尾道」「奥飛騨」「青森」「天竜峡」と日本全国を巡り全部で48作品にもなる連作でした。
夜になって貴船川沿いの宿で10年ぶりの再会を喜び合ううちに、大橋は昼間に見た岸田道生の作品について話をします。
他の4人もこの10年間で岸田の絵を見ているようですが、それぞれ場所は異なるようです。
中井は尾道で、武田は奥飛騨で、藤村は津軽で、田辺は天竜峡で。
4人は皆「夜行」に描かれたものと同じ風景を見るという、不思議な体験をしていました。
【転】夜行 のあらすじ③
話に夢中になっていた5人がようやく宿を出て叡山電車に乗る頃には、鞍馬山の祭りは終わりかけていました。
杉木立を駆け抜けていく電車を見ていた大橋が思い出したのは、昼に画廊経営者から聞いた「夜行」と対をなす岸田道生の幻の銅版のことです。
永遠の夜を描いたのが「夜行」なら「曙光」はただ1度の朝を描いたものですが、誰もその絵を見たものはいません。
気が付くと大橋は他の4人と逸れてしまったために、中井の携帯電話に連絡をしてみます。
河原町三条のホテルのバーで中井と合流した大橋は、およそ信じられない話を聞かされました。
10年前の火祭りの会場で失踪してしまったのは大橋で、中井や長谷川は一晩中見物客の行列の中を探し回りますが見つかりません。
翌日には警察に連絡して大橋の家族が京都へやってきて、新聞にはひとりの大学生の失踪を告げる小さな記事が載っただけです。
全ての鍵は岸田道生の絵の中にあると確信して、ふたりは高倉通の画廊へ向かいます。
【結】夜行 のあらすじ④
夜遅くに無理をいってギャラリーを開けてもらいましたが、昼にはあったはずの「夜行」が見当たりません。
代わりに展示されているのは幻の作品であるはずの「曙光」で、作者の岸田道生も賀茂川の土手の近くに自宅兼アトリエを構えて生きていました。
タクシーで中井と大橋が岸田の家を訪ねると、妻の長谷川に出迎えられます。
大学を卒業した後に京都市内で国語教師として働いていて、岸田とは5年前に結婚したとのことです。
岸田夫婦との対面によって、大橋は「夜行」と「曙光」が表裏一体をなしていることに気が付きました。
「夜行」を描いた世界では長谷川は失踪して岸田は若くして亡くなった画家、「曙光」を描いた世界では失踪したのが大橋で岸田と長谷川は夫婦。
夜明けの光とともに大橋はふたりにわかれを告げて、中井と一緒に「夜行」の世界に帰ることを決意します。
二度と会うことはないであろう長谷川のことを思い、大橋は涙を流しながら朝の光が射し込む賀茂川の土手を歩くのでした。
夜行 を読んだ読書感想
ストーリーの舞台となる京都市内の風景が、季節の移り変わりとともに描かれていて味わい深かったです。
鞍馬山や賀茂川などの有名な観光スポットばかりではなく、出町柳から百万遍通りまで何気ない路地裏や街角までが目の前に思い浮かんできます。
10年前に火祭りのさなかに突如として消え失せた、長谷川の姿もミステリアスでした。
久しぶりの仲間たちとの再会を喜んでいた、主人公の大橋に降りかかる不可思議な一夜の体験も忘れがたいです。
学生時代のかけがえのない思い出とともに、やがては日常の生活へと帰っていくようなクライマックスも感動的でした。
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