「ひらいて」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|綿矢りさ

「ひらいて」綿矢りさ

【ネタバレ有り】ひらいて のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:綿矢りさ 2012年7月に新潮社から出版

ひらいての主要登場人物

木村愛(きむらあい)
ヒロイン。地元の大学への推薦入学を目指している高校3年生。

西村たとえ(にしむらたとえ)
愛の同級生。志望校は東京の有名大学。

美雪(みゆき)
たとえの彼女。糖尿病の持病がある。

多田(ただ)
愛と同じ予備校に通う受験生。

ミカ(みか)
愛の友人。

ひらいて の簡単なあらすじ

木村愛はクラスメートの西村たとえのことが前々から気になっていて、遂には深夜に学校に忍び込んで彼の手紙を盗み出してしまいます。手紙の中に書かれていたのは、病弱な女子生徒として有名な美雪の名前です。愛はたとえのことをもっと深く知りたい余りに、美雪への嫉妬心と嫌悪感を押し殺しながらも彼女に近づいていくのでした。

ひらいて の起承転結

【起】ひらいて のあらすじ①

深夜の教室で彼の秘密を盗み出す

木村愛が西村たとえのことを初めて意識したのは、2年前の雨の中で行われた体育祭のパレードの時でした。

どこか変わった響きを持つ下の名前と、瞳の奥で凝縮された哀しみを忘れることが出来ません。

高校3年生になって再びたとえと一緒のクラスになった愛は、授業中でも休み時間のあいだも彼のことばかり見つめています。

雨の降る放課後に担任の先生から言いつけられた掃除当番をこなしていた愛は、たとえが白い便箋のようなものを机の中に入れるところを目撃しました。

学校が終わると予備校に通い、その後には受講生の仲間たちとファーストフードでたむろするのが愛のこのところの日課です。

悪友の多田やミカと学校に忍び込むことになった愛は、日中にたとえが読んでいた手紙の束から1通を抜き取ります。

家に帰って読んでみると、手紙の差出人は恋人らしき美雪という名前の女の子でした。

愛が知っている美雪は、1年生の時のクラスメートだったあの子しか思いつきません。

【承】ひらいて のあらすじ②

好きな人とのために憎い相手と交わすキス

美雪は糖尿病と闘病しながら高校に通学しているために、1日3回のインシュリン投与を欠かすことが出来ません。

昼食の時間に教室内でペン型の注射器を取り出して、自らの腕に当てる彼女の姿を級友たちは遠巻きに眺めていました。

3年生になった今ではクラスも違ってすっかり忘れていましたが、たとえとの事実関係を探るために美雪に接近してみます。

たとえとは中学2年生の頃からのお付き合いであること、教育ママである彼の母親にばれるのが心配なためにお互いに学校では喋らないようにしていること、たとえが東京でも最難関レベルの大学を目指して受験勉強していること。

すっかり愛のことを信頼するようになった美雪は、たとえとの交際も開けっ広げです。

美雪の自宅にまで招待された時にふたりがまだキスもしていないことを聞かされた愛は、生理的な嫌悪感を覚えながらも彼女の唇を奪いました。

自分で招いた事態ですが、愛はたとえの恋人を盗ったような罪悪感を感じてしまいます。

【転】ひらいて のあらすじ③

抑圧的な父から逃げるために東京へ

文化祭の実行委員を押し付けられてしまった愛でしたが、夜遅くまでたとえと一緒に作業が出来るのでまんざらでもありません。

夕方過ぎになると不平不満を並べ立ててみんなが帰り始める中でも、たとえだけはひとりで残ってくれます。

ふたりっきりになった時に思い切って彼への想いを告白しますが、消え入りそうな声で「ごめん」と呟くだけです。

文化祭が無事に終わった後に美雪からメールで呼び出された愛は、たとえが東京の大学に受かったことを知ります。

美雪は高校卒業後にたとえとで東京へ行く計画を打ち明けますが、ふたりの手紙を度々盗み見ている愛にとっては周知の事実でした。

たとえの上京が決まってから、彼の家は日に日に荒れているようです。

美幸とふたりで西村家を訪れて薄笑いを浮かべているたとえの父親と対面した愛は、用心深い彼がなぜ恋人との手紙を家に持ち帰らなかったのか理解します。

息子の部屋や机を荒らしても、何とも思わない父が家に居たからなのでしょう。

【結】ひらいて のあらすじ④

愛の心も木の芽もきっと開く

年が明けてからは私立大学の受験シーズンに突入したために、教室内には徐々に空席が目立つようになり授業も形だけになっていました。

愛はこれまで仲の良かった友達や、自分のことをしきりに心配している教師の言葉が聞き取れなくなっていきます。

家に帰ると母親は聖書を読んでばかりでしたが、愛は神様を信じるつもりも頼りにするつもりもありません。

愛が学校で脱走騒ぎを起こしてしまったのは、クラス全員で卒業式に使う千羽鶴を折っていたホームルーム活動の時です。

商店街を通り過ぎて最寄り駅に着くとポケットに入っていた小銭で切符を購入しましたが、どこの駅の何という町へ行くのかまでは決めていません。

平日の午後という時間帯だけあって、車内には野球帽を被った男の子とうたた寝をしている彼の母親が座っているだけです。

愛は車窓から流れていく麻木色に萌える木々の芽を眺めながら、少年に聞こえるくらいの小さな声で「ひらいて」と呟くのでした。

ひらいて を読んだ読書感想

意中の相手に怯むことなく胸に秘めた自分の気持ちをぶつけていく、ヒロイン・木村愛の一途さが可愛らしかったです。

教室の中では目立たないながらも、何処か悲しげな光を瞳に宿した男子生徒の西村たとえも魅力的なキャラクターでした。

決して関わることがなかったはずのふたりの運命を繋いでいく、美雪の存在にも忘れがたいものがあります。

思春期にありがちな他者への過剰な思い入れが、無意識のうちに他の誰かを傷つけてしまう展開が痛切です。

愛がひとり当て所なく電車に揺られているラストには、青春時代の美しさばかりではなく残酷さを感じました。

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