【ネタバレ有り】予定日はジミー・ペイジ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2007年9月に白水社から出版
予定日はジミー・ペイジの主要登場人物
マキ(まき)
ヒロイン。学習塾教材の販売会社で働いていたが妊娠を期に退職。
さんちゃん(さんちゃん)
マキの夫。会社員。
リンドウ(りんどう)
マキの主治医を務める産婦人科医。
淵野辺薫男(ふちのべしげお)
マキの元恋人。愛称は「しげピー」。
佐伯紀子(さえきのりこ)
編集プロダクション勤務。妊娠23週目。
予定日はジミー・ペイジ の簡単なあらすじ
ある日突然にマキは妊娠していることに気が付きますが、なかなかその喜びを実感することが出来ません。かつての恋人との再会や母親学級で知り合った妊婦さんとの交流を通して、少しずつ母親になることを自覚していきます。医師から告げられた予定日でもあり、ジミー・ペイジの誕生日でもあるその日がいよいよ差し迫ってくるのでした。
予定日はジミー・ペイジ の起承転結
【起】予定日はジミー・ペイジ のあらすじ①
6月10日、マキは近所の産婦人科医院で白髪の医師・リンドウから自らが妊娠していることを告げられました。
「おめでたですね」と言われてもぼんやりとしてしまい、マキには本当に目出度いことなのか分かりません。
午後8時過ぎになると、夫のさんちゃんが勤め先から帰ってきます。
夕食を済ませてからベッドに入った時に赤ん坊が出来たことを聞いたときの、さんちゃんの喜びようはひとしおです。
2日後には梅雨入り宣言が発表されたために、ますますマキは落ち込んでしまいました。
雨の降る中を自宅アパートを出て、商店街の本屋へと向かいます。
マキのお目当ては「趣味・実用」コーナーの隅っこに置いてある、有名人の誕生日を一覧表にした本です。
リンドウから教えてもらった出産予定日は、レッドツェッペリンのギタリスト・ジミー・ペイジと同じでした。
お腹の中に入っているのが天才的なミュージシャンであるような気がしてきて、マキはようやく嬉しくなってきます。
【承】予定日はジミー・ペイジ のあらすじ②
8月6日、マキとさんちゃんはふたりで過ごす最後の休暇として伊豆のホテルに1泊することにしました。
3年前に買った水着に着替えようとしましたが、今のマキにはきつすぎて入りません。
ひとりで海に向かって走り出したさんちゃんを見ていると、マキは20代の初めの頃にある男性と一緒にここへ来たことを思い出します。
当時お付き合いをしていた「しげピー」こと淵野辺薫男は、マキに子供ができたと知ったらさぞや驚くことでしょう。
会わなくなってから10数年が経ちましたが、毎年年賀状のやり取りはしているために連絡先を調べるのは簡単です。
旅行から帰ってきてたマキはトイレの中でコッソリと電話をかけて、しげピーと以前にふたりで住んでいた街の喫茶店で待ち合わせをしました。
職を転々とした末に今現在では家具を売る店で働いているというしげピーは、あの頃のままで何も変わっていません。
昼間から早くも4本のビールの小瓶を開けたしげピーと、マキはカフェオレで乾杯します。
【転】予定日はジミー・ペイジ のあらすじ③
10月2日、総合病院の会議室でプレママクラスが行われていることを知ってマキは出掛けてみました。
ひとりで所在なさげにしていたマキに話しかけてくれたのは、黒いスパッツにグレイのパーカーを着てレッドソックスのキャップを被ったやけにスタイリッシュな妊婦さんです。
佐伯紀子と名乗る彼女とは、その後保健所で行われている母親学級でも顔を合わせます。
帰り道に佐伯から誘われたのは、駅前の路地裏を抜けた先にある古めかしい造りの焼き鳥店です。
行きずりの男と一夜を共にするような無茶苦茶な生活を送っていたこと、勤務先の編集プロダクションで知り合ったライターとの間に子供を授かったこと、結婚するつもりも産むつもりもなかったこと。
自らを「落ちこぼれ妊婦」と揶揄する佐伯に対して、マキは不思議な親近感を抱いてしまいました。
ウーロン茶で鶏皮やつくねをかじっていたふたりは、無事に出産を終えた後にここでビールを思う存分に飲むことを約束します。
【結】予定日はジミー・ペイジ のあらすじ④
1月7日はマキの予定日でしたが何事もなく過ぎていき、陣痛が始まったのは2日後の1月9日のことでした。
この日はマキの父親の誕生日でしたが、余りいい思い出はありません。
生前の父は夏休みにも年末年始にも家で寝ている癖に、中途半端な時期に家族を海や山へと連れていきます。
旅先では朝からお酒を飲んでいて、挙句の果てにはキセル乗車や万引きを繰り返して幼き日のマキを困らせていました。
マキは大嫌いなままこの世を去った父が、自身の子供となって戻ってくるような不吉な予感を感じてしまいます。
入院中の着換えを詰め込んだ旅行カバンを持ってタクシーへと乗り込んだマキは、車内でも「生まれる、生まれる」と騒いでばかりです。
病院に到着したマキはリンドウの待つ診察室へと急ぎますが、背後から遠い日に死んだはずの父の声を聞きます。
振り返るとタクシー運転手が父とそっくりな笑顔で手を振っていて、マキは痛むお腹に手を当てつつ微笑み返すのでした。
予定日はジミー・ペイジ を読んだ読書感想
ある日突然の妊娠に戸惑う女性の複雑な胸の内が、リアリティー溢れるタッチから映し出されていました。
著者の角田光代自身は出産した経験がないというから驚きです。
いつまでたっても「母親になる喜び」が湧いてこない、ヒロイン・マキの本音剥き出しな独白には共感できます。
ありきたりなハッピーエンドを描くことなく、何処か読者を突き放したようなクライマックスも良かったです。
「ママ友」や「お受験」を始めとする世間一般の価値観に捉われることなく、マイペースに子育てを楽しんでいるマキの姿が思い浮かんできて微笑ましかったです。
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