【ネタバレ有り】キッドナップ・ツアー のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 1998年11月に理論社から出版
キッドナップ・ツアーの主要登場人物
ハル(はる)
ヒロイン。小学5年生で現在は母親とふたり暮らし。
タカシ(たかし)
ハルの父。2ヶ月前に失踪する。
キョウコ(きょうこ)
ハルの母。
佐々木(ささき)
タカシの学生時代の後輩。
のりちゃん(のりちゃん)
佐々木の妻。タカシの元カノ。
キッドナップ・ツアー の簡単なあらすじ
夏休み期間に入って家で独り退屈していたハルの前に、2ヶ月前に突如として行方を眩ませた父親のタカシが現れて「誘拐」を宣言します。海辺での海水浴から山奥での宿坊体験と、ふたりは気の向くままに旅を続けていきます。普段からお金に困っているタカシの資金が尽きた時に、父と娘の忘れがたい時間も終わりを告げることになるのでした。
キッドナップ・ツアー の起承転結
【起】キッドナップ・ツアー のあらすじ①
せっかくの夏休みに入ったというのに、小学5年生のハルにはこれといったお出かけの予定がありません。
いつものようにリビングで寝転がってテレビを見ていたハルは、コンビニでアイスクリームを買いに行くために家を出ました。並木道の住宅街で自動車の運転席から声をかけてきたのは、久しぶりに顔を見る父親のタカシです。誘われるままにタカシが運転する車に乗り込んで、一緒にお昼ご飯を食べるためにファミリーレストランへ向かいます。
タカシが突如として家に帰って来なくなったのは、約2ヵ月ほど前になる梅雨のある日のことです。
母親のキョウコは相変わらず仕事に追われているようで、ハルの日常にも特に大きな影響はありません。
頼んだ料理が運ばれてくる間にタカシは席を立って、妻に電話をかけて「ハルを誘拐した」と告げます。タカシの誘拐ごっこに付き合わされることになったハルは、食事が終わると小さな駅で電車に乗り換えて海辺の民宿に泊まることになりました。
【承】キッドナップ・ツアー のあらすじ②
降りた駅でハルはタカシに水着を買ってもらい、宿で借りてきたビーチサンダルを履いて海岸沿いを目指しました。
タカシは昼間からビールを飲み過ぎたためか、パラソルの下でサングラスをかけたまま眠りこけています。
ハルがキョウコと受話器越しに話をしたのは、海水浴の後でタカシが露天風呂やサウナに入りに行った時です。フロントの脇に設置されている公衆電話から自宅の番号を押しましたが、母が恋しくなった訳でもなく今いる場所をばらすつもりもありません。
矢継ぎ早に質問を繰り返すキョウコに対して、ハルは「心配しないでよ」とだけ返答しておいて電話を切りました。真夏の海を存分に満喫したハルとタカシの次の目的地は、人気のない山のてっぺんにひっそりと佇む小さなお寺です。険しい山道を登ってようやく境内までたどり着くと、当たり一帯はすっかり真っ暗闇に包まれています。
引き戸についているインターホンを押すと、中からは腰の曲がったおばあさんが出て来ました。
【転】キッドナップ・ツアー のあらすじ③
元々ここは檀家を抱える寺であり旅人を泊める宿坊でもありましたが、2年前に宿泊施設としての役割は終えていました。
険しい道のりを越えてきた親子を気の毒に思ったおばあさんは、当時と同じく1泊500円の格安料金でおにぎりとお新香に味噌汁までご馳走してくれます。3年ほど前までは雑誌に掲載されたこともあり観光客が押し寄せていたこの場所も、幽霊が出るという悪い噂が流れて以前の賑わいは見る影もありません。午後9時過ぎにタカシから肝試しに誘われたハルは、都会では決して見ることが出来ない蛍を体験して大感激です。長旅を続けていたハルは、驚くほど日焼けをしていて身体つきも変わっていることに気付きます。髪の毛は肩の辺りまで中途半端に伸びてボサボサ、服装はダボダボのTシャツにサッカー少年が履くような膝丈のパンツ。キョウコが今のハルを見たら、さぞかし眉間にシワを寄せて嘆くことでしょう。
しかしハルは自分自身を頼もしく、格好良く感じるようになっていました。
【結】キッドナップ・ツアー のあらすじ④
その日の電話はいつもよりやけに長かったために、駅のベンチに座っていたハルは嫌な予感がしていました。
電話ボックスから出てきたタカシは、ハルをキョウコのもとへ送り返すことを宣言します。
これまでの無計画な旅行のために電車賃すらなく、タカシは近くに住んでいる友人を訪問しなければなりません。
6匹の猫に囲まれて暮らしている佐々木はタカシの後輩で、彼の妻は「のりちゃん」と呼ばれている女性です。
タカシは朝早くから佐々木夫妻を訪ねてお金を借りた上に、かつてのりちゃんとお付き合いをしていたことを娘に恥ずかし気もなく告白しました。
ようやく切符を買うことが出来て人気のないホームの前に立ったふたりは、オレンジジュースとビールでささやかな乾杯です。
口の端にビールの泡を付けたタカシは、この数日間が本当に楽しかったことをハルに感謝します。
ハルは何時かまた自分を誘拐することをお願いして、手を振り続けているタカシに別れを告げるのでした。
キッドナップ・ツアー を読んだ読書感想
実の娘に対して「誘拐」という非日常的なフィルターを通すことでしか向き合うことが出来ない、不器用なお父さん・タカシの姿が何ともいじらしいです。
父親の屈折した愛情表現に戸惑いつつもすんなりと受け止めていく、大人びたヒロイン・ハルの振る舞いにも心温まるものがありました。
自由気ままに旅を続けていく父と娘に降りかかってくる数多くのハプニングと、道中出会った個性豊かな人たちとの束の間の交流も心に残ります。
忘れ難く刻まれていく貴重な夏休みのエピソードと共に、クライマックスで訪れる静かな別れには胸を打たれました。
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