【ネタバレ有り】今夜は眠れない のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:宮部みゆき 1998年11月に中央公論社から出版
今夜は眠れないの主要登場人物
緒方雅男(おがたまさお)
主人公の僕。騒動に巻き込まれ、自分がただの”幸せなお子さん”だったことを自覚した中学1年生。出生を疑われ、「受け身でいちゃダメだ」と島崎と一緒に調査を始める。
島崎俊彦(しまざきとしひこ)
僕の親友。頭脳明晰、書き初めに「権謀術数」と書くニヒリスト。騒ぎの中でもちゃんと目を開き、耳を澄ませて僕の錨になってくれる。
緒方聡子(おがたさとこ)
僕の母さん。20年前澤村直晃氏を助けたことで、5億円を遺贈される。頭からあんたには関係ないと言われると、ムカッとくる性格。長年夫の浮気に悩む。
澤村直晃(さわむらなおあき)
浮き沈みの激しい人生を送った放浪の相場師。撃たれて瀕死の怪我を負うが母さんに助けられ、「自分が財産を築いたらきっと何かを残してあげる」と約束する。4月16日55歳で早逝。僕の本当の父さんでは?という疑惑あり。
今夜は眠れない の簡単なあらすじ
ある日突然、母さんに5億円が遺贈されます。周囲の態度が変わり、嫌がらせが始まりました。父さんは、僕が自分の子かどうかも疑わしいと言って家出してしまいます。僕は本当の答えをつかむため、親友の島崎と調べ始めたのでした。
今夜は眠れない の起承転結
【起】今夜は眠れない のあらすじ①
7月6日。
前川弁護士が僕の家にやって来ました。
母さんを訪ねて来たのですが、家族全員揃っている前で要件をお話したいと言います。
僕は母さんに言われて、河川敷のゴルフ練習場に父さんを迎えに行きました。
そこで、父さんが長い髪をサラサラと肩からこぼしている若い女の人と浮気していることを知ってしまいます。
家に帰ると、こんどは前川弁護士から澤村直晃さんが母さんに5億円遺贈した、という話を聞かされます。
僕の家族はみんなそれぞれ放心状態になったけれど、母さんが、澤村直晃さんとの間にあったことを、ぽつりぽつりと話してくれました。
20年前、19歳の母さんは一人で上京して秘書養成学校に通っていました。
その頃暮らしていたアパート「いさか荘」の左隣に住んでいたのが澤村直晃さんでした。
ある夜遅く、いさか荘の外階段の途中に彼が倒れこんでいました。
左肩からわき腹にかけて血でびっしょりと濡れてるのに、救急車も警察も困ると言い、「あっちへいけ」と母さんを追い払うのです。
ヘソを曲げた母さんは、怪我人を引きずるようにして階段を上り、彼の部屋へ連れて行きました。
そのあとも、彼に教えられたもぐりの医者に電話したり、成り行き上看病を続けました。
2週間くらい経った頃、澤村さんは「この恩は忘れない。
将来、自分がまたひと財産築いたら、きっとあなたにも何かを残してあげるから」と言って、ふっと姿を消してしまいました。
以来、二度と会う機会はなかったそうです。
そんな話を親友の島崎にしたら、「おまえんち、これからいろんな点で血を流さなきゃならないぞ。
本当の嵐はこれからだ」と嫌なことを言います。
【承】今夜は眠れない のあらすじ②
前川先生が来た3日後、夕刊紙に記事が載り、更に2日後、写真週刊誌にも載りました。
そして騒動が始まります。
家の電話が頻繁に鳴ります。
取材の申し込み、親戚からの電話、借金の申し込み、寄付の要請、そして不特定多数のおかしな人たちからの脅迫電話。
僕の家族は疲れ、嫌気がさし、黙りこくっていることが増え、たまに口を開けばすぐ喧嘩。
怒りっぽくなりました。
7月14日、週刊誌に澤村直晃さんの写真が掲載され、事態は悪化します。
彼は長身でちょっと痩せ気味の、渋い感じのいい男でした。
「おまえんちのおじさんよりぜーんぜーんハンサムだ」と島崎は言い、「ヤバいことになってきたと思うよ」とも言いました。
家に帰って、澤村さんの写真が載っていたこと話しても、母さんは知らないふりをしました。
「どうして知らないふりをするの?」そう口に出して言うことが、僕にはできませんでした。
でも父さんは、母さんと澤村さんの仲を疑います。
母さんの話を信用せず、僕が自分の子かどうかまで疑いました。
そして家を出て、浮気相手の所へ行ってしまいました。
「それが世間の常識なんだって。
だからお父さんは、そっちのほうを信じるんだって。」
母さんにそう言われて、母さんの昔話を信じて疑うことを知らなかったのは僕だけだったのだと知ったのです。
翌日、改めて母さんは、僕はたしかに母さんと父さんの子どもであること。
澤村さんとは何でもなかったこと。
母さんが説明したとおり信じて欲しい、と言った。
はっきり言って僕は「母さんの馬鹿!」とわめいて子供部屋に閉じこもり、膝を抱えて泣きたかった。
でも昨日の夜、島崎に言われていた。
「気持ちはわかる。
でも、騒ぎたてるなよ。
冷静に感情を押さえて行動するんだ。
今おまえのうちでそれができるのは、おまえだけなんだから。」
だから「うん、わかったよ。
信じる。」
と返事をした。
そして、僕と母さんはしばらくどこかに引っ越すことにした。
【転】今夜は眠れない のあらすじ③
7月16日、僕は島崎と水族園で話をします。
母さんの言っていることが本当かどうか調べたい、だから手伝って欲しい。
島崎はにやっと笑って言いました。
「友よ、よくぞ決心した。」
澤村直晃さんは、なぜ母さんに財産を残したのか?まだ55歳で死んでいこうとする男。
自分が生きていたことを、誰が覚えていてくれるだろう?そして14年前に別れた女と、彼女が生んだ、ひょっとしたら自分の子どもかもしれない赤ん坊のことを思い出す。
彼は相場師だから、自分を丸ごと賭けて大博打を打ったんじゃないか?と二人は推理します。
その二人の話を近くで聞いていた女性がいました。
45歳ぐらいのとても綺麗な人です。
マダム・アクアリウム、彼女は「きっとまた、ここで会えることもあるわね」と言って去っていきました。
その週末、僕と母さんは前川弁護士の助手の新田さんが運転する車で、先生が借りている別荘へ向かいました。
目的地に着くと既に別の人たちが別荘にいて、前川先生のことは知らないと言われます。
管理会社にも管理人にも連絡が取れず、事務所にも電話は通じません。
その夜は、先客の勧めで別荘に泊めてもらいました。
夜中、急に父さんの声が聞きたくなった僕は、家に電話をかけます。
でも電話に出たのは、父さんとはまったく別人の声でした。
胸苦しくなって、もう一度電話してみる勇気もなく、その夜は一睡もしませんでした。
夜が明けると、じっとしていられなくて僕は外へ出ます。
そこで、エンジンをかけたまま停まっているスポーツカーを見つけます。
野次馬根性から助手席にあった散弾銃の装弾を一つ手に取り、戻す機会を逸してしまいます。
でも持ち歩くわけにもいかず、そばにあった木のうろに隠しました。
そして別荘に戻ってみると新田さんが荷物とともに消えていたのです。
母さんが前川先生に連絡を取ってはじめて、自分たちが昨日の夕方から誘拐されていることになっていたことを知ったのでした。
【結】今夜は眠れない のあらすじ④
東京に戻り、警察から父さんが怪我したこと、身代金がすでに奪われていることを聞かされます。
最初の電話は昨夜7時頃でした。
「奥さんと子どもの身柄は預かった。
至急、現金で5億円を用意しろ」という内容でした。
父さんは5億円引き出し、犯人からの連絡を待ちました。
身代金受け渡しの連絡があったのは、午前1時10分。
5億円で「ポセイドンの恩寵」という宝石を買い取れという要求でした。
父さんは指示通り宝石をバッグに入れ、江戸川を渡る辺りで下に落とします。
30分後また電話があり「人質は鋸山に放置した」と言われました。
半狂乱で捜索の途中、父さんは勢い余って崖から落ちて骨折してしまったのでした。
僕が病院で両親に会った時、澤村直晃さん直筆の声明文が届いたと警察から聞かされます。
「ポセイドンの恩寵は、小生が冥途の土産にいただいてまいります。」
母さんが金を遺贈されたのは、この計画に利用するためでした。
新田さんは消え、奪われた「ポセイドンの恩寵」も行方不明のまま。
僕の両親は仲直りして、幸せそうな顔で旧婚旅行の計画を練っています。
8月14日、僕が散弾の一件を島崎に話したら、彼は突然、その貸別荘に行こうと言い出します。
翌日、あの装弾を探し出して分解すると、そこには「ポセイドンの恩寵」の一部が隠されていました。
8月16日、僕と島崎は再び水族園を訪れ、マダム・アクアリウムから真相を聞きます。
澤村さんが遺言を作る時、母さんを探し出し再会していたこと。
「夫と何度も別れようと思ったけれどできなかった」と言う母さんの気持ちがわかるからと、マダム・アクアリウムが今度の狂言誘拐に協力してもらうことを母さんに頼んだこと。
母さんはこの計画をすべて事前に知っていたのです。
知っていて、すべてを賭けていたのです、父さんの心が本当はどこにあるのか、ということに。
前川先生がうちにやって来た時から母さんの賭けは始まっていたのです。
今夜は眠れない を読んだ読書感想
携帯電話もスマートフォンも無かった時代の中学生のお話です。
今なら、無責任な第三者からの誹謗・中傷がもっと早いスピードで大量に押し寄せてきて、それにズタズタにされてしまうことに主眼が置かれがちかも、と思いました。
実際はライトミステリーの衣を着た、僕の成長物語でした。
僕と島崎が推理を進めていく中で、両親を父さん、母さんではなく、緒方行雄さん、緒方聡子さんと名前で呼ぶようになります。
このことで、僕が親を客観的に見ることが出来るようになっていく、という過程が垣間見え、さすが宮部みゆきさん、上手いなぁと感心します。
全体的にドロドロしないのは、作者の時代もの人情噺に通じるとも思いました。
個人的には、父さんが内緒で僕を「たかい、たかい」してくれていた、というエピソードが好きです。
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