三浦しをん「船を編む」のあらすじ&ネタバレと結末

舟を編む

【ネタバレ有り】船を編むのあらすじを起承転結で解説!

著者:三浦しをん 2015年3月に株式会社光文社から出版

船を編むの簡単なあらすじ

辞書編集部に引き抜かれた馬締光也は、集団から浮く変人の青年だが、言葉への鋭いセンスを持っていた。馬締は辞書編集への熱意を持ち、徐々に少数精鋭の辞書編集部に溶け込んでいく。私生活にも変化の波は訪れ、馬締は下宿の大家の孫娘・香具矢と交際を始めた。

しかし新しい辞書「大渡海」の編纂は暗礁に乗り上げる。会社側から出された条件を受け辞書編集部は縮小、既刊辞書の改訂という大仕事もこなさなくてはいけなくなる。辞書編集部唯一の正社員となった馬締は、板前修業に邁進する香具矢に励まされながら、辞書の世界に没頭していく。

馬締が辞書編集部に配属されて13年。「大渡海」が刊行に向けて動き出す。馬締のもと、配属された新人と、13年前から変わらず勤務する契約社員、辞書編集部定年退職後社外スタッフとなった荒木、荒木と共に「大渡海」の原案を練ってきた監修の松本、そして多数の学生アルバイトが不眠不休で編集を進める。「大渡海」は構想から15年、ようやく日の目を見た。

「大渡海」刊行を控えた折、高齢の松本が入院する。荒木と馬締、そして馬締の妻となった香具矢は回復を祈り、一刻も早く松本に「大渡海」を見せようと努力していた。しかし刊行を待たずに逝去する。

「大渡海」の出版のパーティーには、松本の写真が飾られていた。「大渡海」は松本や荒木、馬締達関係者の情熱の結晶として生み出され、好評を博しているのだった。

船を編むの起承転結

【起】船を編むのあらすじ①

玄武書房辞書編集部

定年間近の辞書編集者荒木は、監修の松本と一緒に新しい辞書「大渡海」を企画していた。時間も金もかかる辞書編纂に乗り気でない会社と折衝しながら、自分の後継者として営業課から馬締という青年を引き抜く。馬締は営業課の中では変人として浮いた存在だった。

馬締は言葉に敏感で辞書編纂向きの性格だった。辞書編集部は荒木の他、軽薄な先輩西岡、そして契約社員の佐々木しかいない。「辞書は、言葉の海を渡る舟」「海を渡るに相応しい舟を編む」と「大渡海」とへ想いを語る荒木と松本の言葉に打たれ、馬締は辞書編纂への熱意を持つ。そして珍しく、皆と打ち解けたいと願うのだった。

変化は私生活でも起き、馬締の下宿先に大家の孫娘・香具矢が引っ越して来る。馬締は一瞬にして彼女への恋に落ちていた。

【承】船を編むのあらすじ②

辞書編集と馬締の恋

新しい辞書を作ることを会社は条件付きで認めた。そのため、辞書編集部は既刊辞書の改訂版の作成を始める。しかし、実は西岡も新年度から他部署へ移動せねばならず、荒木が定年退職した辞書編集部に正社員は馬締一人となる。消化不良に悶々とする西岡。馬締もまた、プレッシャーと前途多難な事実に困惑するのだった。

辞書編集部の会食では時折、板前修業中の香具矢が勤める小料理屋を使う。香具矢に想いを寄せる馬締は香具矢とのデートを経て、西岡に励まされつつ、便箋15枚に及ぶラブレターをしたためた。反応のないかぐやに馬締は直接返答を求めるが、実は香具矢は、難しい文体に内容をいまいち把握できないでいたのだった。馬締の真剣さに打たれた香具矢は、辞書と板前修業、それぞれ打ち込むもののある自分達だからこそと、交際を決意する。

【転】船を編むのあらすじ③

「大渡海」始動

馬締が辞書編集部に配属変えになってから13年後。辞書編集部に入社3年目の女子社員・岸辺が配属される。ついに「大渡海」を編む作業が動き出したのだ。

幾多を乗り越えて企画から15年目で編纂まで辿り着いた「大渡海」だったが、作業は多く大変だった。さらに年単位で紙の開発選定から語句の選定、ミスのチェックなど、不眠不休の作業が続く。編集部には学生アルバイトも多く泊り込んでいた。刊行日も無事決まり、「大渡海」は宣伝広告部に異動した西岡の力で注目を集めながら、着々と、熱意を持って編纂されていくのだった。

馬締の妻となった香具矢は板前として店を構えるに至り、老齢の松本は香具矢の店の常連となっていた。刊行まで数ヶ月というところで松本が倒れる。その分の作業のしわ寄せは馬締にきたが、馬締も荒木も松本の回復を優先する。香具矢も好物を差し入れ、松本の身を案じていた。

【結】船を編むのあらすじ④

辞書を編むということ

ついに「大渡海」が刷り上る。辞書へ情熱を注いできた馬締、荒木、松本は感慨ひとしおだ。しかし、刊行の前月、「大渡海」を心待ちにし続けていた松本が他界してしまう。馬締は、松本が荒木にあてた感謝の手紙を読み、慟哭するのだった。

「大渡海」の完成祝賀パーティーでは、松本の遺影に「大渡海」が供えられていた。多くの情熱に支えられて刊行された「大渡海」は好評を博している。他者とつながるために生み出された言葉というものについて考えながら、馬締は、荒木と共に早くも改訂版の編集に意識を馳せていた。

船を編むを読んだ読書感想

辞書編纂という地味ながら大変な作業をテーマにした一冊です。他人からは理解されにくい情熱を、軽快でウィットに富んだ文体で書き上げているのが秀逸です。劇的な山場があるわけではないのに飽きることがありません。

巻末付録「馬締の恋文全文公開」も嫌味がなく愉快です。古文のように二段組で現代語訳がついているのも、馬締の風変わりな性格をわかりやすく表してくれています。身近にいたら敬遠してしまいそうな人物なのに、実は熱い内面が表れていて、とても好感を持てました。本編を読んだ後だけに、現代語訳なしで、辞書を片手に読み解きたい気持ちになります。

「舟」とは、他者とつながるために生み出され溢れた無数の言葉の海を迷わず渡るための道しるべ、つまり辞書のことでした。そして、その舟を編集作業する作業はとても多く、果てしなく広がっています。辞書を編むこと自体が、困難が連続する航海のようでもありました。何気なく使っていた辞書の陰に、こんなにも多くの人の人生があったことに驚嘆します。誰もが知っているのに見えていないもの、そんな大切なものが、この一冊の中に詰まっています。本好きにこそ、この一冊を読んで欲しいと感じました。

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