「失はれる物語」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|乙一

失はれる物語(乙一)

【ネタバレ有り】失はれる物語 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:乙一  2006年6月に角川書店から出版

失はれる物語の主要登場人物

自分(じぶん)
本作の主人公。交通事故にあってしまい、植物状態となってしまう。意思疎通ができるのは右腕だけ。

妻(つま)
主人公の妻。元音楽の教師。植物状態となってしまった夫を支える。

娘(むすめ)
主人公と妻の娘。

失はれる物語 の簡単なあらすじ

主人公である彼は結婚をして娘も生まれるが、妻との間で諍いが多くなっていた。そんな中、彼は交通事故にあってしまう。その結果、彼は植物状態となってしまい、唯一意思疎通できるのは右腕だけになってしまっていた。長い時間が過ぎていき、妻に迷惑をかけていると悟った彼は自殺をしたいと願うようになる。彼が導き出した答えは右腕の反応を示さないことで自分はもう死んだのだと分からせることであった。

失はれる物語 の起承転結

【起】失はれる物語 のあらすじ①

突然の事故

彼の妻は結婚するまで音楽の先生をしていました。

彼女は美しく、生徒からの人気も高かったのです。

彼女は子供のころからピアノを習い続けており、腕前はプロの演奏と遜色がありませんでした。

知り合って三年後に彼は彼女に指輪を贈りました。

結婚して彼は彼女の両親の家でいっしょに住むことになりました。

彼の肉親はすでに亡くなっており家族と呼べるものはしばらくいませんでしたが、結婚と同時に三人も増えることになりました。

それから一年が経過すると家族はさらにもう一人追加されました。

娘が生まれてしばらくしたころ、彼と妻との間で諍いが多くなっていきました。

そんな中、彼は交通事故にあってしまいます。

彼はいつから目覚めていたのかわかりませんでした。

周囲は暗闇で光は一切なく、どのような音も聞こえてこなかったのです。

唯一、右腕の肘から先にだけ痺れる感触があったのです。

やがて何者かが右手を握りしめました。

彼はそれが妻の手だと分かったのです。

指を上下させて拙い意思のやりとりをする生活がこうして始まったのです。

 

【承】失はれる物語 のあらすじ②

右腕の疎通

彼にあるのは一面が黒色に塗りつぶされた完全な暗闇の世界でした。

そこは静寂でわずかな物音さえ聞こえず、心はどこまでも寂しくなっていきます。

彼の妻は多くの文字を右腕の内側に書き、暗闇の中にいる自分へ情報をもたらしてくれました。

腕に書かれた言葉で彼は自分が病室にいることを知ります。

一日中、妻は彼の皮膚に文字を書き、天気や娘のことなどを教えました。

妻はやがていつも病室に来ると右腕の上で演奏をするようになりました。

これまで文字を書いていた時間が音楽の授業へと変わったのです。

演奏の前と後、妻は曲名と作曲者を腕に書きました。

事故から一年半が経過し、冬が訪れました。

同じ演奏を聴いても彼は飽きることがありませんでした。

それはその日によって彼女の弾き方に微妙な差異が表れるからです。

その微妙な差異こそが妻の内面の表れなのだと、いつからか彼は思うようになりました。

事故にあう前、彼は妻と多くの言葉で傷つけあったことを思い出します。

妻に謝りたいと思っていましたが、その気持ちを表現する手段はもう彼にはなかったのです。

 

【転】失はれる物語 のあらすじ③

自殺の決意

彼はなぜ自分を死なせてくれなかったのかと、幾度も神様を呪いました。

このまま老人となり老衰で死ぬまで彼は数十年という時間を暗闇と無音の中で過ごさなければならないのです。

生まれてこなければよかったと彼は考えました。

いまや自殺することさえ自分一人ではできなくなっていたのです。

妻からもたらされる情報によると、娘は四歳になり飛びはねることや言葉を話すことができるようになったと言います。

しかし、はたしてそれが本当のことなのかどうか自分には確かめる術がありませんでした。

それでもある日、彼は妻の嘘に気づくことができました。

それは妻が右腕の上で演奏をしてくれているときでした。

窒息と先の見えない絶望というイメージが入りこんでいたのです。

妻は疲れているのだと彼は悟りました。

原因は明らかに自分であると彼は考えます。

彼はこの情けない肉の塊を殺してほしいと願います。

しかしそんな気持ちをぶつけることはできませんでした。

一人で無音の暗闇に取り残されていた時間、彼はついに自殺する方法を思いつきます。

 

【結】失はれる物語 のあらすじ④

永遠の闇へ

医者は人差し指だけでなく、右手のひらや小指の関節、手首など、あらゆるところを針で刺しました。

しかし彼はそれに耐えなければならなかったのです。

ここで痛みに負け、あるいは驚き、人差し指を動かしてしまってはいけなかったのです。

医者や妻に対して、彼はもはや指を動かすことや皮膚の刺激を感じることができなくなったと思わせねばならなかったのです。

そうして彼は、もはや外界と完全に意思の疎通ができない肉の塊なのだと判断してもらわなければならなかったのです。

その後も妻は病室を訪れて腕に演奏をしてくれました。

しかし毎日ではなくなり、二日に一回の割合となりました。

その数もやがて三日に一回となり、ついに妻の来訪は一週間に一度となります。

やがて長い時間が過ぎました。

どれほどの年月が過ぎたのかを彼に教えてくれる人間はいなくなり、正確な日付を知ることはできなくなっていました。

いつからか妻と娘は彼のもとを訪れなくなっていました。

永遠に失われた光景を夢見ながら彼は静かに暗闇へ身をゆだねました。

 

失はれる物語 を読んだ読書感想

乙一氏の代表作といっても過言ではない作品です。

なぜなら乙一氏の真骨頂である「切なさ」が存分に発揮されている作品だからです。

この作品は主人公の男性が交通事故にあってしまい植物状態となってしまいます。

意思の疎通ができるのは右腕だけ。

そんな夫を献身的に支える妻。

切ない愛の物語となっています。

もし自分がそんな状態になってしまったらと考えてしまいます。

時間の感覚もない、音も聞こえない、光もない、何もできない暗闇の中。

彼は妻を愛しているからこそ自ら永遠の闇の中へと入っていく決意をしたのだと思います。

主人公のその時の心情を想像すると胸が痛くなります。

とにかく、切ないです。

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