「悪意」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|東野圭吾

悪意(東野圭吾)

【ネタバレ有り】悪意 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:東野圭吾 1996年9月に双葉社から出版

悪意の主要登場人物

加賀 恭一郎(かが きょういちろう)
刑事、元中学教師

野々口 修(ののぐち おさむ)
児童作家、元中学教師

日高 邦彦(ひだか くにひこ)
人気作家

日高 理恵(ひだか りえ)
結婚して一ヶ月の邦彦の妻

藤尾 美弥子(ふじお みやこ)
日高の著作『禁猟地』に抗議を唱える

悪意 の簡単なあらすじ

親友を殺したいって思ったことはありますか?売れっ子作家の殺害は、幼馴染が容疑者。なぜ殺すまでに至ったのか、それは中学時代まで遡る。『新参者』でお馴染みの加賀恭一郎シリーズ本書では、教師時代の加賀が垣間見える貴重な作品。

悪意 の起承転結

【起】悪意 のあらすじ①

 

野々口修の手記

野々口は幼馴染である日高邦彦がバンクーバーに妻の理恵と移住するため、お別れの挨拶をしに日高邸を訪ねます。

向かい入れられた書斎で、邦彦が今晩中に片付けないとならない締め切りがあることを嘆きながらもどこか和んでいる様子です。

野々口が邸宅の借主は見つかったのか尋ねると、邦彦は笑みをこぼしながらやっと肩の荷が下りたと答えます。

野々口は邦彦が近所の猫に手を焼いていることを知っていましたから、猫はどうしたのかと尋ねます。

すると、邦彦は当たり前のことのように殺したと答えます。

野々口が何も言えずにいると、妻の理恵が書斎に入ってきて藤尾美弥子が訪ねてきたと報告してきます。

藤尾美弥子は邦彦の著作である『禁猟地』に出てくる、亡くなった登場人物の妹です。

もともと『禁猟地』はフィクションを呈していますが、邦彦の自叙伝のような作りであり、見る人が見れば誰のことを指しているのか分かる物でした。

その『禁猟地』で、中学時代にいじめの主犯格として描かれていたのが、美弥子の兄でした。

その本にはいじめだけでなく、女子中学生を強姦した内容も書かれており、既に亡くなってはいるものの、兄の尊厳を守るために彼女は邦彦に全面的な改稿を望んでいるのでした。

野々口はもちろん美弥子の兄のことを知っていましたが、口に出す立場でないことを弁え、日高邸を後にします。

家に帰り、児童文芸の担当者が原稿を取りに野々口を訪ねます。

担当者が原稿をチェックしている時、電話が鳴ります。

相手は邦彦でした。

どうしたのかと野々口が聞くと、会えないかとの相談でした。

野々口は時間をチェックし、今は無理だが八時なら大丈夫だと答えます。

予定通り八時に日高邸に着いた野々口ですが、部屋の明かりがすべて消えていることに疑問を浮かべ、ホテルにいる理恵に来てもらい、家の中へ入ります。

書斎には、既に息を引き取った邦彦が倒れていました。

【承】悪意 のあらすじ②

 

加賀恭一郎の推理

理恵と事情聴取を受け、帰りをパトカーで送ってもらう野々口のもとに、加賀が同乗してきます。

加賀は中学教師をしていた頃の先輩である野々口だと認識し、野々口も彼のことを覚えていました。

数奇な運命を二人は感じますが、加賀は世間話をしながらも、野々口に事情聴取を行います。

加賀は早い段階から野々口が犯人だと目星をつけていました。

それは上司も一緒のようです。

事情聴取の際に、饒舌になるのは犯人の特徴であり、野々口にもそれがみられたこと、そして最大の要因は日高邦彦の殺された状況でした。

強盗に殺されたのであれば、凶器に日高の文鎮をわざわざ使う必要もなく、自前で事足りるはずであり、しかもそれをわざわざ現場に残す必要がないのです。

そして何よりも、計画的に日高邸を強盗しようと思うのであれば、荷物のほとんどをバンクーバーに送った状態の家を襲うことはまずありえないのです。

加賀は突発的な犯行と断定し、日高が殺された日に訪れた野々口と藤尾美弥子の二人に的を絞ります。

しかし遺体解剖の結果、犯行時刻は五時から七時の間であり、二人にはアリバイがありました。

藤尾美弥子は婚約者とその上司である仲人の打ち合わせをしており、加賀は部下のそれも婚約者のアリバイ工作に加担するとは考えられず、藤尾美弥子は除外し、担当編集者が同席している時間に日高邦彦から電話があったとされる野々口のアリバイが怪しいと考えます。

加賀は、野々口が事件に関する手記を書いていることに興味を持ち、それをもとに類似しない点などを検証し、ついには日高から掛かってきたであろう電話が、日高本人ではないことを突き止め、野々口のアリバイを崩します。

野々口は諦めたように、犯行を認めるのでした。

【転】悪意 のあらすじ③

 

閉ざした動機

逮捕された野々口ですが、未だに犯行の動機は分からないままでした。

加賀や他の刑事には、犯行は衝動的な行動の結果だとし、動機はそれに伴うささいな事だと言います。

しかし、加賀はそうは思っていませんでした。

加賀の疑問は、日高の連載がなぜ野々口のワープロから出てきたかということでした。

編集者に問い合わせた結果、まだ受け取ってない分まであるとのことでした。

加賀はそこで、野々口は日高のゴーストライターだったのではと考えます。

野々口の家宅を捜索すると、それを裏付けるものとして大学ノート八冊分が発見されました。

検証した結果、大学ノートに書かれていた小説三本と短編集五本が、既に発売されてある日高の小説に酷似していることが判明します。

加賀はこのことを野々口に追求しますが、大学ノートに書いてあるのは作家として勉強するために書き写したものだとし、ゴーストライター説は否定します。

そして事情聴取の際、野々口は倒れ、病院に搬送されます。

医師の診断によるとガンの再発らしく、手術をしても五分五分のようです。

加賀は、なぜ頑なまでに動機を話さないのか不審に思い、再度野々口の家宅を捜索します。

すると、女性の写真が出てきました。

それは日高邦彦の前妻であり、五年前に交通事故で亡くなった日高初美でした。

そして、バンクーバーから戻ってきた荷物の中には、野々口の指紋が着いた錆びた包丁と、夜に全身黒ずくめの姿で日高邸に侵入する野々口を映している日付が五年前のビデオテープが発見されます。

野々口は観念したようであり、告白文を書くと言います。

【結】悪意 のあらすじ④

 

隠したい真実

野々口の告白内容は、新聞を賑わせました。

人気作家のゴーストライターであることはもちろん、日高邦彦の前妻との不貞行為もそれに拍車をかけています。

告発文内で、野々口がゴーストライターになった切っ掛けは、日高初美と一緒になるには邦彦を殺さなければならないという短絡的な思考から、逆に邦彦に現場を抑えられたことが始まりだと記しています。

そして、何度も警察に行こうと思ったことや、それに伴う日高初美のことを憂う心情などが書かれていました。

しかし、事件を解決したにも係わらず、加賀は自分が誤った道に入っている気がしてなりません。

その考えは野々口の中指にペンだこがあることに気付いて更に加速します。

まず彼は藤尾美弥子に会いに行き、『禁猟地』が日高邦彦ではなく、野々口が書いた物だと知って、その感想を訊きます。

すると彼女は、人物のキャラクターについて僅かな疑問を口にします。

『禁猟地』の物語では、いじめを受けている人物の描写が生々しく、その人物が著者であることは容易に想像がつきます。

では、日高が著者の場合、野々口はどの人物なのか、そのまた逆も然り、見当たらないのです。

野々口は、自分の手記に日高のことを親友と書いています。

いじめを受けている時に、助けない者は親友ではないと加賀は思い、野々口と日高の地元を訪ねます。

中学生時代の野々口と日高を知る人物に聞き込みをしたところ、いじめを受けていたのは日高で、野々口は逆にいじめている側だと知ります。

そして口々に皆、日高は弱い者を助け、強い者にも屈しない好漢であると話します。

加賀はそこでも人物像の食い違いを感じ、その違いが野々口の手記から捏造されたものであることを確信します。

加賀は脅迫される原因となったビデオテープが偽装だということを野々口に説明し、日高殺害を衝動的ではなく計画的に積み重ねてきたことを告げます。

悪意 を読んだ読書感想

「世の中にこれほどの悪意が存在するとは、想像もしていなかった。」

これは、本書に登場する『禁猟地』の一文ですが、読了後に改めてこの一文が詰まっている作品だなと思いました。

本書は野々口の手記と加賀の記録を織り交ぜた構成になっており、著者の巧さが如実に表現されていると感じました。

いじめは親も教師も頼れない。

頼れるのは親友だけだ。

そう語っている登場人物がいるのですが、これには私も同意見であり、それをものともしない野々口の豪胆さにあきれを通り越して、ある種の称賛を送りたいと、加賀に倣って思ってみたりしました。

本書は、読み終えると久しぶりに旧友と話がしたいと感じさせられる作品です。

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