監督:リドリー・スコット 2021年10月にディズニーから配給
最後の決闘裁判の主要登場人物
ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)
本作の主人公。勇敢な従騎士で真っすぐな性格ですが、やや思慮に欠ける一面もあります。
ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)
ジャン・ド・カルージュの親友で、かなりの美男子。教養があり財政手腕にも長け、主人のティエール伯爵の寵愛を受けています。
マルグリット(ジョディ・カマー)
ジャン・ド・カルーシュの妻で、貞淑な女性。ル・グリには警戒心を抱きつつも、武骨な夫とは異なる魅力を感じています。
最後の決闘裁判 の簡単なあらすじ
騎士ジャン・ド・カルージュの妻マルグリットは、ジャンの親友のジャック・ル・グリに凌辱されたとジャンに訴えます。
しかしル・グリが罪を否定したため、ジャンはル・グリとの決闘裁判で決着をつけることを決意します。
最初はジャンの視点で物語が進みますが、決闘裁判への過程がル・グリとマルグリットの視点から語り直されます。
ル・グリの視点では彼が罪悪感を抱いていたことが描かれ、単なる悪人でないことが明らかになります。
マルグリット視点では夫としてのジャンの身勝手さが浮き彫りになります。
それぞれの視点から事件の真相が立体的に描かれたあと、決闘裁判にてジャンとル・グリは互いの主張の正しさをかけて戦うことになります。
最後の決闘裁判 の起承転結
【起】最後の決闘裁判 のあらすじ①
従騎士ジャン・ド・カルーシュは勇敢な人物で、イングランドとの戦いで戦功をあげたことを評価され、貴族の一人娘マルグリットを娶ります。
マルグリットの妻の持参金の一部には広大な土地が含まれていましたが、この土地は主人のピエール伯に取り上げられてしまいます。
しかも、ピエール伯はその土地をジャンの親友ジャック・ル・グリに与えてしまいました。
納得のいかないジャンは、土地を返してもらうよう王に訴えますが、却下されてしまいます。
訴えられたため機嫌をそこねたピエール伯は、ジャンが父から受けつぐはずだったベレム砦の長官の地位をル・グリに与えてしまいます。
ジャンはル・グリが自分の悪口をピエール伯に吹き込んだのだと疑いますが、一年後ル・グリにベレム砦に招かれ、ここで一度は仲直りします。
しかしスコットランドへの遠征中に、マルグリットがジャック・ル・グリに凌辱されてしまいます。
ル・グリに報復したいというマルグリットの願いを聞き、ジャンはル・グリの所業を周囲に広めます。
そしてル・グリの罪をフランス王に訴え、ル・グリが罪を否定するなら決闘で彼を葬ると王に宣言するのです。
【承】最後の決闘裁判 のあらすじ②
ここではジャック・ル・グリ視点からのストーリーが展開します。
ル・グリはピエール伯にジャンの悪口など言っておらず、むしろ一貫してジャンを弁護していました。
ル・グリがベレム砦にジャンを招待したのも、彼と仲直りしたいと考えたからです。
砦でル・グリはマルグリットと読んでいる本ついて言葉を交わし、彼女の賢さに惹かれていきます。
スコットランド遠征から帰還したジャンは「宮廷にたむろして褒美をもらうだけ、危険も冒さない」とル・グリを罵倒します。
愛するマルグリットが自分を侮辱した男の妻であることが悔しいため、ル・グリはマルグリットの元を訪れ、彼女を凌辱してしまいます。
ジャンがル・グリに妻を犯されたと告発したため、それを聞いたピエール伯はル・グリに真相を問いただします。
ル・グリはマルグリットが嫌がるそぶりを見せたのは貴婦人だからだと言い訳しますが、ピエール伯は姦淫の事実自体をなかったことにしろと命じます。
ル・グリはパリで裁判にかけられ、国王の前でジャンが嘘をついてると主張したため、判決は決闘裁判にゆだねられることになりました。
【転】最後の決闘裁判 のあらすじ③
今度はマルグリットの視点からストーリーが描かれます。
ベレム砦に招かれたジャンについてきたマルグリットは、はじめて見るル・グリを魅力的だけれど信用できない男だと評価します。
この頃、マルグリットはジャンがベッドのなかで子供をつくることばかり考えていることや、雌馬を大事にするあまり、雌馬に乗りかかろうとした牡馬を叩くことなどに不満を抱いていました。
さらに、マルグリットはなかなか妊娠しないため、妻としての務めを果たしていないとジャンの母親にも文句を言われてしまいます。
マルグリットが多くのストレスを抱えるなか、ル・グリが彼女の元を訪れ、マルグリットへの想いを告白します。
マルグリットははねつけましたが、ル・グリは強引にマルグリットに迫り、彼女を凌辱してしまうのです。
後日、パリでの裁判の場で、マルグリットは妊娠6カ月を迎えていることが明らかになります。
6か月前はマルグリットがル・グリに凌辱された日です。
この当時、強姦では妊娠しないと考えられていたため、マルグリットは実は快楽を感じていたのではないかと疑われてしまいます。
ジャンはル・グリと決闘裁判で決着をつけることになりますが、ジャンが負ければマルグリットは火あぶりにされるので、彼女は誇りのために自分と子供を危険にさらすのか、とジャンを非難するのです。
【結】最後の決闘裁判 のあらすじ④
いよいよジャンとル・グリの決闘裁判が始まります。
まずは馬を走らせ、槍を突き出して互いの盾を破壊するほど何度も激しく衝突する二人ですが、やがて落馬して徒歩での戦いに移ります。
二人の剣の腕前はほぼ互角でしたが、ジャンは深手を負わせられつつもル・グリを組みしき、何度も罪を白状しろと叫びます。
しかしル・グリは強姦などなかったと繰り返すだけで、決して己の罪を認めません。
業を煮やしたジャンは、ついにル・グリの息の根を止めてしまいます。
フランス王に主張を認められ、武勇を讃えられたジャンは、闘技場でマルグリットを抱きしめます。
観衆がジャンに盛大な拍手を送る一方、ル・グリの遺体は裸のまま馬で引きずられ、逆さ吊りにされます。
闘技場を出たジャン夫婦は民衆の歓呼の声に迎えられますが、マルグリットは終始複雑な表情を崩しません。
数年後、マルグリットの子供が幼児に成長し、この子を彼女が笑顔で眺めているところで、物語は幕を閉じます。
最後の決闘裁判 を観た感想
この作品は決闘裁判を扱っていますが、決闘に勝つカタルシスを期待して観るものではありません。
むしろモヤモヤ感や後味の悪さが残ってしまいますが、それはこの作品が人間の身勝手さやエゴを深く描いているからです。
最初ジャン視点でストーリーが進んでいるうちは、ジャンは危機に陥ったフランス兵を助けようとするまっすぐな正義感であり、彼の行為がすべて正しいように思えてきます。
ですがこの作品では、ル・グリの視点とマルグリットの視点により、ジャンの正義はかなり相対化されてしまいます。
ル・グリ視点ではジャンはイングランド軍に向こう見ずな戦いを挑む思慮の足りない人物に見えます。
またマルグリット視点からはジャンは後継ぎをつくることばかり考えるエゴイストであり、虚栄心のために決闘裁判に挑む身勝手な人物と描かれます。
マルグリットの最大の味方であるべきジャンがこのような人物であるため、彼女は深く苦悩します。
それは「あなたは偽善者よ。
虚栄心ですべてを見失ってる」「子供にとっては正しさより、母親が必要なの」という彼女の台詞にも表れています。
もしジャンが決闘で負ければマルグリットは火あぶりにされてしまうので、これは当然の台詞でしょう。
ジャンは一見妻のことを思っているようで、実は自分のことばかり考えているのです。
このため、決闘裁判でジャンが勝利しても、マルグリットはまったく喜べません。
ジャンに殺されたル・グリですら、ジャンの身勝手な正義感の犠牲者のように思えてきます。
14世紀のフランスという、女性の権利がきわめて限られていた時代において、男性の罪を告発することがいかに困難であることか。
この作品に感じる苦さと重さは、マルグリットの抱えていた生きづらさなのだと思います。
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