「蜜のあわれ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|石井岳龍

蜜のあわれ

監督:石井岳龍 2016年4月にファントム・フィルムから配給

蜜のあわれの主要登場人物

赤井赤子(二階堂ふみ)
ヒロイン。3歳のメスの金魚。人間の姿に変身できる。天真で人懐っこい。

老作家(大杉漣)
20歳から小説を書き続けてきた。70歳になっても講演や執筆を続ける。

田村ゆり子(真木よう子)
作家に憧れるも34歳で亡くなる。この世に未練があって成仏できない。

辰夫(永瀬正敏)
金魚の行商人。赤子の秘密を知っている。

丸田丸子(韓英恵)
時計問屋の娘。 早くに父を亡くす。

蜜のあわれ の簡単なあらすじ

老作家と一緒に暮らしている赤井赤子はごく普通の人間の女の子に見えますが、その正体はメスの金魚です。

余命いくばくもない老作家のために、赤子は自らのおなかの中に宿った命を育てることを決心します。

不運な事故に巻き込まれて赤子は死に、遺体は老作家のもとへ送り届けられてその魂は星となって天へと上っていくのでした。

蜜のあわれ の起承転結

【起】蜜のあわれ のあらすじ①

老作家の怪しい秘書

好きな文学のために21歳の時から東京に出てきて30歳まで定職にも就かずに、詩と小説をあてもなく書いてきた老作家は間もなく70歳を迎えようとしていました。

老作家の身の回りの世話しながら一緒に暮らしているのは、赤井赤子という名前で年齢は17歳くらいの女の子です。

赤子を「秘書」という名目で家に置いている老作家は夜になるとひとつの布団で一緒に眠りますが、絶対に抱きしめようとはしません。

ある時に赤子が老作家の講演を聴きに行くと、隣の席に色白で和服姿の女性が腰を下ろしました。

気分が優れない様子の女性を心配した赤子は、彼女をロビーに連れ出してソファーに座らせて水筒の水を飲ませてあげます。

名前は田村ゆり子で年齢は34歳、老作家に自作の小説の原稿を見てもらったのが今から15年前。

すっかりゆり子と打ち解けた赤子は喫茶店で一緒にパフェを食べたあとで別れて、講演が終わった老作家と合流します。

老作家の話ではゆり子は15年前に自宅のアパートで心臓マヒで亡くなっていて、死んだ後に腕時計や指輪などの貴重品を盗まれたそうです。

【承】蜜のあわれ のあらすじ②

幽霊と金魚に芽生える友情

ゆり子が老作家の家の前を通りかかると赤子が玄関から出てきたために、こっそりと尾行してみることにしました。

出水神社に入ったところで赤子は消えていなくなり、境内には屋台を引きながら金魚を売って歩く辰夫という中年男性しかいません。

金魚の原点とも言える和金に琉球王朝からやってきた流金、金魚の王様のランチュウまで。

ゆり子が金魚鉢で泳いでいる色とりどりの金魚たちに見とれていると、いきなり背後から姿を現した赤子が抱きついてきます。

つけ回していたことを謝罪したゆり子は、自分がちょうど2カ月前にこの世に呼び戻された幽霊であることをあっさり認めました。

赤子の正体も元は300円の値段しかしないメスの金魚で、初めて老作家の家に人間の姿でやって来たのが2カ月前です。

老作家は週に何度も映画館に行くと赤子には言っていましたが、ゆり子が知るかぎりではここ2カ月1本も見ていません。

老作家の本当の目的は、劇場の路地裏にある2階建てのアパートに住んでいる丸田丸子という20代半ばの女性に会いに行くことです。

【転】蜜のあわれ のあらすじ③

老作家の終活

自転車を押しながら通り過ぎようとした丸子に、路上で商売をしていた辰夫が声をかけてたらいの中に入った1匹の金魚を見せました。

金魚を気に入った丸子は辰夫にお金を払って、ビニール袋の中に入れてもらってアパートに持って帰ります。

部屋の中にあったガラスのボールにビニールの中の金魚を移し換えていると、ドアをノックして入ってきたのが老作家です。

老作家は戦争でたったひとりの父親と死別した丸子のことをあわれに思い、何くれとなく世話を焼いていました。

一部始終を金魚の姿でボールから見ていた赤子は、丸子のアパートから帰ってきた老作家とケンカをしてしまいます。

老作家は2カ月前に町の病院で診察を受けたときに肺の病気が見つかっていて、余命があとわずかだと宣告されました。

紹介状を書いてくれた医師からはすぐにでも大学病院に入院するように勧められていましたが、仕事を辞めるつもりはありません。

自分の命が尽きるその時まで執筆活動を続けて、誰かに側にいてもらうことだけが今の老作家の願いです。

【結】蜜のあわれ のあらすじ④

星になった金魚

辰夫のお店の前には金魚が泳いでいる水槽がズラリと並んでいて、赤子は深い決意を秘めた顔で立ち尽くしています。

赤子が思い付いたのはよその金魚と交尾をして、授かった赤ちゃんを老作家の子供として育て上げることです。

最後にゆり子が赤子を見た時には腹部がすっかり大きくなっていて、春には産まれる予定だと嬉しそうに話していました。

暖かくなったらきっと元気な赤ちゃんに会いに来ると言い残して、ゆり子は闇の奥へと消えていきます。

子供たちが1匹の金魚を蹴飛ばしていたのを辰夫が目撃した場所は4丁目の橋の上で、慌てて取り上げて水槽に放り込みますが既に息はありません。

野良猫に捕まってこの橋まで引きずられてきたようで、尾びれは千切れかけている状態です。

死骸を丁寧に新聞紙に包んだ辰夫は、手厚く葬ってもらうために自転車で老作家の家まで運びます。

ペダルを力いっぱいに踏みしめていた辰夫が空を見上げると、流れ星のようなひと筋の光が燃えながら青空の向こうへと駆け抜けていくのでした。

蜜のあわれ を観た感想

詩人としても名高い室生犀星の小説をもとにしているだけあって、幻想的でもあり魅惑的な雰囲気が伝わってきます。

自分のことは「あたい」、老作家のことは「おじさま。」

ヒロイン・赤井赤子の不思議な言葉使いと独特なしゃべり方が色っぽいです。

すでにこの世の者ではない薄幸の女性・田村ゆり子に対しても物怖じすることもなく、すんなりと仲良くなってしまうのは彼女の才能ですね。

悲劇的でありながらどこかピュアな美しさに満ちているクライマックスでした。

物語の合間に真っ赤なワンピースを身にまとった二階堂ふみが披露する、愛くるしい「金魚のダンス」にも注目してください。

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