【ネタバレ有り】無間道 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:星野智幸 2007年11月に集英社から出版
無間道の主要登場人物
山城竹志(やましろたけし)
主人公。家族の遺産で生計を立てていて現在無職。
佐藤美千緒(さとうみちお)
竹志の隣人。
石和彩乃(いさわあやの)
竹志のかつての恋人。故人。
遊(ゆう)
竹志の妹。
三ツ元(みつもと)
彼岸整備法を作った州知事。
無間道 の簡単なあらすじ
未知の伝染病によって死傷者が多発する日本では、時の政府によって自殺が推奨されるようになっていきます。路上の遺体処理を続けていた山城竹志は、元恋人の死がきっかけになって重大な決断を迫られることになるのでした。
無間道 の起承転結
【起】無間道 のあらすじ①
近未来の日本では未知のウイルスのパンデミックによって、人口の減少に歯止めがかかりません。
ワクチンの製造もままならない政府が打ち出した苦肉の策は、自らの生命を国民ひとりひとりの意志に委ねることです。
急進的な思想や過激な物言いで有名な州知事の三ツ元は、強引に「彼岸整備法」を成立させて「逝く人」の権利を優先させます。
ひとりで逝くソロ、夫婦や恋人同士で逝くデュオ、家族や友達などのグループで逝くトリオにカルテット。
軽薄なマスメディアや若者たちの流行によって、何時しか逝くこと自体がファッションになっていました。
人通りのある商店街から静かな街角に路地裏まで至るところが、打ち捨てられたままの逝体で溢れ返っています。
腐乱した逝体によって感染が蔓延するのを防ぐために発行されたのが、個人による焼却埋葬を義務づける「時限法」です。
うっかり道端の逝体に目をやろうものなら、何時如何なる場合でも死亡診断書なしに片付けなければなりません。
【承】無間道 のあらすじ②
山城竹志は午前9:38に携帯電話の着信メロディによって起こされて、届いたメールによって石和彩乃の死を知りました。
今朝早くにソロを敢行したことは、父親からの簡素な文章からは容易に察しきます。
携帯のアドレス帳から彩乃の番号を表示して通話ボタンを押してみると、電話に出たのは彩乃の母親です。
後追いを心配していた母親はとりあえず安心するものの、娘が居なくなった後も何事もなく生きている元恋人に対して怒りを隠せません。
火葬が始まる前に一目だけでも彩乃の姿を見たい竹志は、2時間後に向かうことを告げて電話を切りました。
室内に蔓延する煙の発生源は隣の部屋の庭からになり、ゴーグルとマスクを装着して火を焚いているのは住人の佐藤美千緒です。
美千緒は夫・義理の母親・娘の3人をトリオによって失ったばかりで、彼らの埋葬を竹志も手伝います。
毎日のように街に繰り出し逝体を片付けて回っている竹志にとっては、隣人の家族の処理にも抵抗がありません。
【転】無間道 のあらすじ③
立ち込める強烈な煙と光化学スモッグに備えるためには、色が濃くレンズの大きいサングラスと顔の下半分を覆う黒色のマスクは必要不可欠です。
自宅のカプセルマンションを出た竹志は、逝体に遭遇して余計な時間を盗られないように俯きがちに自白が丘駅へと向かいました。
電車に乗り込んで2駅先の終点・渉谷駅で降りてから、徒歩で20分くらい離れた閑静な住宅街に彩乃の実家はあります。
資産家の石和家には自家用の焼却施設が完備されているために既に彩乃の焼却は終わっていて、骨壺の中に軽石のような欠片が納められていました。
1階の広間には親族一同と会社の同僚たちが出前の寿司をつまみながらビールを片手に、ソロを選んだ故人を盛んに讃えています。
彩乃の両親は明後日にはデュオの予定で後始末をお願いされますが、竹志は無表情で首を振るばかりです。
「今までと変わらない毎日を過ごします」と宣言し、周りの人たちからの冷たい視線にも動じることはありません。
【結】無間道 のあらすじ④
竹志の父親と母親と妹の遊が練炭でトリオを図ってから、もうすぐ2年になります。
3人の逝体は残された長男がたったひとりでお見送りする羽目になり、遺品を整理してマンションを売却するまでには半年以上もかかりました。
その時に手に入れた莫大な遺産によって、当分の間は仕事もせずにぶらぶらとしていられるでしょう。
彩乃の家を後にしたは、かつての実家マンションまでの一本道を歩いていきます。
マンションを囲む小路や民家の庭先には屋上からのソロを決行した人たちが散らばっていましたが、通行人たちは目を向けることはありません。
小学生時代から20年近く住んでいたにも関わらず、竹志は偽物の故郷に紛れ込んだような感覚を覚えます。
エレベーターは使わずに階段をひたすらに登って、落下防止用のフェンスも柵も取り払われた屋上に到着しました。
コンクリートの淵から下界を覗き込んだ竹志が決意したのは、これからも限られた生を全うすることだけです。
無間道 を読んだ読書感想
国が国民の自死を促すという過激なストーリーの中にも、今の時代の社会問題や矛盾が鋭く反映されていて考えさせられました。
全てを「自己責任」という名目で貧富の格差を放置してきた、現政権や指導者への痛烈なメッセージを感じます。
1日の大半を見知らぬ人の遺体の処理に費やしながら、死んだように生きる主人公・山城竹志の姿が印象深かったです。
家族や昔の恋人が次々と死を選んでいく中で、残された遺族としての苦悩も垣間見ることができます。
1度は死に魅入られたような主人公が、クライマックスで下した決断には胸を打たれました。
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