著者:前田司郎 2020年12月に実業之日本社から出版
園児の血の主要登場人物
タカシ(たかし)
主人公。4歳になるが園の生活には慣れていない。最近のマイブームは恐竜。
コウジ(こうじ)
保育園からの転入児。集団の中にすぐに溶け込める。
クラト(くらと)
タカシのライバル。体が大きく取り巻きも多い。
キミエ(ふりがな)
タカシの数少ない友人。同性との会話が苦手。
コバヤシ(こばやし)
タカシの担任。御仏の心を分かりやすく教える。
園児の血 の簡単なあらすじ
都内の幼稚園に通っているタカシが度々トラブルを起こしているのは、同じクラスの中でも特に目立っているクラトです。
前々から付き合いがあるキミエや、新しく仲間になったコウジとも協力してクラトのグループに戦いを挑んでいきます。
突然のキミエの引っ越しやコウジの裏切りにショックを受けながらも、クラトの横暴を止めるために単身で立ち向かっていくのでした。
園児の血 の起承転結
【起】園児の血 のあらすじ①
タカシが毎朝のように乗っている通園バスは地域ごとに色分けされていますが、ムラサキチームには2人の園児がいるだけです。
長めの髪の毛をふたつに結んで前に垂らしたキミエとは、バスの中でとりとめもない世間話をしていました。
園舎の中で読書をする文化的なグループ、おままごとのようなチマチマとした遊びが好きなおとなしいグループ、サッカーや鬼ごっこに夢中なアクティブなグループ… 今のところどこにも所属していないふたりはコバヤシ先生によって、無理やりどこかのグループに入れられてしまいますが長続きしません。
園内でも大多数を占めているアカチームには、小学生かと思われるほどの体格のいい男児・クラトがいます。
休み時間になると遠くの方から鋭い目線でにらんでくるのが気に入りませんが、キミエに言わせるととにかく強くて誰もが彼を恐れているそうです。
何とか一矢を報いれないかとタカシが策を巡らせていたところ、ある日の朝にムラサキチームに新顔が入ってきました。
【承】園児の血 のあらすじ②
運転手に元気よくあいさつをしてバスに乗り込んできたコウジは、たちまちコバヤシに好感を与えたようです。
その一方ではタカシを園庭の外れに設置されたひと気のない花壇に呼び出して、ここにくる前に預けられていた施設について打ち明けました。
保育園とは名前ばかりの地獄のような場所だったこと、そこで徹底的にケンカを学んだこと、最後に勝つのは腕力ではなく世論であること。
この時からタカシはコウジのことを「兵隊」と呼び、コウジはタカシのことを「大将」とお互いに認め合います。
クラトがいつも連れている兵隊は3人、野球が大好きなシュート、色白でやせた美少年のヤスシ、小さくて素直なジュン。
暴れん坊と評判なのはシュートくらいですが、ヤスシもジュンも保育士や女児からの人気だけは高いです。
先に手を出せばこちららが悪者になってしまい、園内の居場所もなくなってしまうでしょう。
コウジの言う「世論」を味方に付けるチャンスを伺っていた時に起きたのが、三輪車を巡る騒動です。
【転】園児の血 のあらすじ③
遊具置き場にある三輪車は全部で7台、そのうちの5台はピカピカの新品、他の1台は塗装がはげ落ちた中古品、最後の1台はペダルが壊れたオンボロ品。
古くなった三輪車を捨てることに熱心に反対したのがコウジで、もともとこの幼稚園の職員には仏教関係者が多いです。
「ものを大切にする心」というお話は朝礼の時に園長を通じて広まり、例の三輪車はコウジの所有物だと何となく暗黙の了解になりました。
「オレのマシーン」と名付けて園内を乗り回していると、クラトたちが襲撃を仕掛けてきます。
コウジが兵隊3人に囲まれて痛い目に遭わされているあいだに、タカシがクラトと一騎打ちで決着を付ける作戦です。
結局のところはコバヤシが駆けつけてきて叱られる羽目になり、自分がおとりとして利用されたことに怒ったコウジはタカシと口をきこうとしません。
毎日が憂うつなタカシは父親に上野の科学博物館に連れていってもらい、お気に入りのステゴサウルスの消しゴムを買ってお守りにします。
【結】園児の血 のあらすじ④
まもなく毎年恒例の行事である遠足の日が迫ってきましたが、タカシには一緒にお弁当を食べる友だちが見当たりません。
変わらない態度で接してくれていたキミエを誘ってみましたが、両親が離婚したために母親について埼玉県の学区に移ると打ち明けられてしまいました。
そのキミエからの情報によると、クラトは園舎の2階にあるプレイルームを本拠地にしてたくさんの兵隊とおもちゃに囲まれているそうです。
新しくメンバーに加わったコウジでしたが、タカシのスパイではないかと誤解されて「呪文」をかけられてしまいます。
おもちゃ箱の中に閉まってあるピエロは見るからに不気味で、この人形に触れると死んでしまうと園児たちは信じて疑いません。
涙ながらに謝るコウジを抱き上げると、ポケットから取り出したステゴサウルスをアメのようになめながらクラトの基地へと向かいます。
尻尾の部分には鋭いトゲがついているために口の中がチクチクしますが、大昔にはこの部分を武器にしてティラノサウルスも倒したそうです。
呪いもクラトもひとりぼっちも怖くないと吹っ切れたタカシは、大声を上げながら飛びかかっていくのでした。
園児の血 を読んだ読書感想
無邪気でかわいらしい幼稚園児を主人公にしたほのぼの系ストーリーかと油断していると、あっという間に度肝を抜かれてしまいますよ。
園内の複雑に入り組んだ人間関係や勢力図は、高校生のスクールカーストと重ね合わせてしまいます。
ここまで大人びたセリフが飛び出してするのかと驚かされますが、今どきのませた子供たちからすると決して大げさではないのかもしれません。
ハードボイルド小説に出てくる探偵のようでもある主人公のタカシ、相棒でありながら終盤に予想外の行動に打って出るコウジ。
ふたりをそっと見守るキミエも、ヒロインとして見事に存在感を発揮していました。
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