「夜長姫と耳男」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|坂口安吾

「夜長姫と耳男」

著者:坂口安吾 1972年1月に角川文庫から出版

夜長姫と耳男の主要登場人物

耳男(みみお)
兎のように長い耳を持つ20歳の青年。飛騨随一の名人とうたわれた匠の弟子。

夜長姫(よながひめ)
夜長の長者の娘。13歳。

江名古(えなこ)
機織りの奴隷。美しい娘。

夜長姫と耳男 の簡単なあらすじ

耳男は、飛騨の三名人とうたわれる匠の青笠と古釜の代理の古釜とともに、長者の娘の夜長姫の護身仏を造るために長者の邸にやってきました。

長者は、姫の気に入る仏像をつくったものに褒美として奴隷の江名古を与えると言いますが、江名古は耳男の容姿を馬鹿にし、耳男の左耳を切り落としてしまいます。

耳男は江名古の首を打つよう命じられますがそれに従わず、「虫ケラに噛まれただけだ」と言うと、姫の命でもう片方の耳まで江名古に切り落とされてしまいました。

耳男はそのときの姫の笑顔を常に思い出しながら、3年かけて恐ろしい化け物の像を造り完成させました。

その像は姫に気に入られ、疫病よけの像だと村の人々からも信仰されます。

疫病で死んでいく村の人々を楽しそうに見つめ、彼らの死を願う姫の姿に、姫がいる限りチャチな人間世界は持たないと悟った耳男は、姫を殺すのでした。

夜長姫と耳男 の起承転結

【起】夜長姫と耳男 のあらすじ①

長者の邸にて

飛騨随一の名人とうたわれた匠の弟子である耳男は、夜長の長者の邸へ向かっていました。

夜長の長者に招かれたのは師匠でしたが、彼は老病で死期が迫っていたため、耳男を代わりに推薦したのでした。

夜長の長者の使者のアナマロに連れられ、長者と姫に引き合わされた耳男でしたが、二人から自分の大きな耳と馬のような顔を馬鹿にされて、頭に血が上ぼり、逆上するのでした。

居たたまれなくなった耳男は部屋の前まで走り、さらに門の外まで飛び出し、日が暮れかかるまで長者の邸へは戻りませんでした。

 耳男の到着から5、6日遅れて青笠が、その5、6日後に古釜の代理の小釜が長者の邸へやってきました。

青笠と古釜は、耳男の師匠と並んで飛騨の三名人とうたわれている匠です。

古釜は、使者のアナマロが一番遅く彼を迎えに来たことに腹を立て、倅の小釜を代わりに向かわせたとのことでした。

三人の匠が揃ったところで、彼らは長者の前へ召され、姫を護る仏像をつくるようにと申し渡されました。

そして長者は、姫の気に入った仏像を造った者に機織りの奴隷である美しい娘、江名古を褒美として与えると言いました。

姫の気に入る仏像を造る気はなく、むしろ恐ろしい馬の顔の化け物を造ろうと覚悟をかためていた耳男には、彼女に対して嘲る気持ちが生まれました。

耳男と目が合った江名古は耳男の容姿を馬鹿にし、耳男が江名古の郷里を馬鹿にし返すと、彼女は持っていた懐剣で耳男の左耳を切り落としてしまいました。

【承】夜長姫と耳男 のあらすじ②

姫の笑顔

江名古に片耳を切り落とされた数日後、耳男は使者のアナマロから斧を持ってついてくるようにと言われます。

長者と姫が耳男をお呼びだというのです。

案内された奥の庭に行くと、縁先の土の上には筵が敷かれた耳男の席が用意されてありました。

その向かいには江名古が後ろ手に縛られて土の上に座っていました。

彼女は耳男を睨んで目を放しません。

耳を切り落とした江名古が自分を憎むのはなぜかと思っていた耳男でしたが、耳男の片耳をそぎ落とした江名古を死罪に処すること、耳男にその首を打たせることを伝えられ、江名古が自分を睨んでいたことに納得するのでした。

耳男は江名子の首を打てという命令に従わず、江名古の後ろへまわって縄を切ると、「虫ケラに耳を噛まれただけだ」と言いました。

するとそれを聞いた姫は、江名古に懐剣を渡して、耳男のもう一方の耳も切り落とすように命じたのです。

姫は、耳男の耳がそがれるのを無邪気な笑顔で見ているのでした。

 それから3年、耳男は小屋に閉じこもって恐ろしい化け物の像を造ることに専念しました。

姫の笑顔を思い出し、ひるむ心が起こると蛇を引き裂いてその生き血を飲み、残りは造りかけの化け物の像にしたたらせ、死骸は天井から吊るしました。

耳男の造る像は耳の長いなにものかの顔ではあるが、モノノケなのか、魔神なのか、死神なのか、鬼なのか、怨霊なのか、耳男自身にも得体が知れませんでした。

耳男はただひたすらに、姫の笑顔を押し返すだけの力のこもった恐ろしいものを造ることを考えていたのでした。

【転】夜長姫と耳男 のあらすじ③

耳男の像

3年後、像を完成させた耳男の小屋に、姫が訪ねてきました。

ニコニコと小屋の中に入ってきた彼女は、天井にぶら下がる無数の蛇の骨を見て満足そうに笑顔を輝かせたかと思うと、「もう燃してしまうがよい」と言って侍女に小屋を燃やさせました。

そして、耳男の造った像を「他の二つの百層倍も千層倍も気に入った」と明るい無邪気な笑顔で言い、褒美をあげたいから着物を着替えてくるようにと言うのでした。

姫に殺されると感じた耳男は、今生の思い出に姫の笑顔を刻み残して殺されたいと考え、長者と姫に、姫の顔と姿を刻ませて欲しいと申し出ました。

長者と夜長姫はそれを承諾し、耳男に数々の褒美を与えました。

長者が、江名子は死んでしまったから与えることができないのが残念だと言うと、姫は、江奈古が耳男の耳を切り落した懐剣で自殺したこと、耳男が着替えた着物が血に染まった江名古の着物を仕立て直したものであることをニコニコして説明するのでした。

耳男が姫の持仏の弥勒像の制作に精魂を傾けていたころ、村に疱瘡が流行り、死者が多く出ていた。

姫は、疫病よけのマジナイぐらいにはなるだろうと、耳男の造った化け物の像を門前に据えさせた。

「今日も死んだ人がいる」と邸内の人たちに聞かせてまわる姫は、ニコニコと楽しそうでした。

やがて疱瘡の流行は落ち着きました。

村人の五分の一が死にましたが、長者の邸からは一人も病人が出なかったため、耳男の造った化け物像はますます村人に信仰されるのでした。

【結】夜長姫と耳男 のあらすじ④

姫の願い

ほどなくして別の疫病が村に流行り始めました。

死者を見るたびに邸内の者に聞かせて歩いていた姫は、あるとき耳男に裏山から蛇をたくさん捕まえてくるように命じました。

蛇を入れた袋を持って楼に来るよう言われた耳男が楼に上ると、姫は楼から下を指して死んでいる人の姿を飽きずに眺めふけっているのでした。

そして、耳男に袋の中を生き裂きにして血を絞るように命じました。

耳男が小屋でしていたことと同じことをするように命じ、自分で蛇の生き血を飲み、耳男には生き血をしぼらせ死骸を楼の天井に吊るさせるのでした。

姫は、楼の天井いっぱいに蛇を吊るすまで、何日も蛇を取ってくるよう耳男に命じました。

姫が、村の人々の死を願って蛇の死骸を吊るしていることに気づいた耳男は、この姫が生きているのは恐ろしいことだと、そのとき初めて思うのでした。

 高楼から、人々が死んでいく姿を眺めながら「日本中の死ぬ人を見ているお日様がうらやましい」と言った姫の言葉を聞いて、耳男はこの姫を殺さなければチャチな人間世界はもたいないと思いました。

そして姫を抱きすくめるとその胸に錐を打ち込みました。

姫はニッコリ笑うと「好きな物は咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。

お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。

いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして・・・」と言い遺して死に、耳男は姫を抱きかかえたまま気を失って倒れてしまうのでした。

夜長姫と耳男 を読んだ読書感想

なかなかインパクトのある話でした。

主人公の耳男は大きな兎のような耳と馬のような顔をした男で、ビジュアル的には目を引くものがありますが、それ以上に恐ろしいのが夜長姫です。

美しく可愛らしい13歳の少女ですが、耳男の耳を切らせたり、死んだ江名古の着物を仕立て直して耳男に着せたり、その言動には異常なものがあります。

成長して16歳になった彼女は、村人たちが疫病で死んでいく様を楽しそうに毎日眺め、やがて彼らが死ぬように願いを込めて、蛇の生き血を飲み、その死骸を楼の天井に吊るしていくようになります。

こんな異常な行動をしているときの彼女の笑顔がまた恐ろしさをかきたてます。

最後は、このままでは人間世界がもたないと悟った耳男が姫の胸に錐を打ち込みますが、その死ぬ間際に笑いながらささやく姫の言葉は、恐ろしくも彼女なりの生を全うしたようにも感じられました。

こ何か得体のしれない恐怖を味わわせてくれる、読後にもその嫌な恐ろしさが残る、でもとても面白い作品でした。

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