著者:桜木紫乃 2017年9月にKADOKAWAから出版
砂上の主要登場人物
柊令央(ひいらぎれお)
四十歳。小説家志望の女性。バツイチ。
柊ミオ(ひいらぎみお)
令央の母親。シングルマザーだった。
柊美利(ひいらぎみり)
二十四歳。令央の妹ということになっている。カラオケ店の店長。
小川乙三(おがわおとみ)
三十五歳。翔文館書店、月刊「女性文化」の編集者。
志水剛(しみずごう)
令央が働くビストロ・エドナのオーナーシェフ。令央と小中学の同級生。
砂上 の簡単なあらすじ
柊令央は北海道に住む四十歳のバツイチ女性です。
彼女は十年来、小説を書いて新人賞に応募し、落選し続けています。
そんな彼女の前に、きびしい女性編集者が現れます。
彼女は令央をクソミソにけなしつつも、小説を書くようにと叱咤します。
令央は編集者の助言に従い、以前書いた母との物語を新しく書き直していくのでした……。
砂上 の起承転結
【起】砂上 のあらすじ①
柊令央は四十歳。
三年前に離婚し、友人の経営するビストロで働いて、細々と暮らしています。
彼女は十年来小説を書いて新人賞に応募していますが、入賞したことはありません。
あるとき、彼女の小説を読んでいた編集者の小川乙三から、「あなたはなぜ小説を書くのか」と訊ねられ、小説を書くようにけしかけられます。
以前新人賞に応募した「砂上」をもとにするようにとのことでした。
家に帰った令央は、亡くなった母、ミオの母子手帳を見ながら、これまでのことを思いだします。
令央が十五歳で妊娠したとき、ミオは産むことを勧めました。
十六歳で産んだ子は、ミオが産んだことにして届けたのでした。
そんなことを思いだすなか、別れた夫から連絡が来て、会うことになりました。
夫は若い女と暮らしています。
離婚の原因となったのが、その女との関係でした。
離婚以来、令央は毎月五万円の慰謝料を振り込んでもらっていました。
元夫は、子供ができるので、慰謝料を二万円に減額してほしいと言うのでした。
令央は困りました。
今でもギリギリの生活なのです。
たまたま勤め先のオーナーの母親、珠子が足を怪我しました。
とりあえず令央は、珠子の代わりに臨時家政婦を務めることで、三万円を得ることにします。
珠子は生前ミオと親しかったので、令央が手伝ってくれることを喜んでくれました。
やがて、年末。
ビストロでは販売品のオードブル作りで大忙し。
それが終わると、今年はオーナーの剛、珠子、令央の三人で紅白歌合戦を見てすごしました。
歌合戦のあと、珠子は息子に令央をおくっていくように言います。
どうやら息子に気を利かせたようです。
でも、令央も剛も、男女の仲になる気はありません。
家に帰った令央は、パソコンに向かい、小説の続きを書くのでした。
【承】砂上 のあらすじ②
二月のなかば、令央の小説は二百枚ほどになりました。
百枚以上のものを書くのは初めてでした。
そこには、彼女の「こうだったかもしれない現実」が書かれているのでした。
そんなある日、妹の美利が突然やってきました。
カラオケ店の店長をして、忙しい様子です。
美利は友人に貸したバイクを壊されてしまい、新しいバイクに乗っています。
新車の代金支払いがきびしいので、しばらく実家暮らしをすると言いだします。
ただし、忙しいので、家には寝に帰るだけだそうです。
そうやって三月になり、令央は完成した原稿を、編集者の小川乙三にメールで送りました。
所用のついでに令央のところに寄った乙三は、原稿にボツを言い渡します。
日記としては読めるが小説ではない、一人称ではなく三人称で書き直すように、と言うのでした。
令央は三人称で小説を作り直します。
書いているところへ、珍しく美利がやってきて、話をします。
美利は、わたしのことを書いたら、と勧めます。
驚いたことに、美利は自分を産んだのが本当は令央だと知っていたのでした。
令央は、そんな美利をそのまま虚構の小説のなかに持ち込むことにします。
そうやって根を詰めて小説をかいていたある日、令央は右耳が聞こえなくなってしまいました。
突発性難聴です。
仕事を休んで小説を書いていると、美利が来ました。
別れた夫からの慰謝料が減らされたという話題になりました。
美利は、それはやがてゼロになるから、ふんだくってやれ、とけしかけてくるのでした。
【転】砂上 のあらすじ③
別れた夫、庄司からの慰謝料が、六月は一万円しか振り込まれませんでした。
令央は覚悟を決め、庄司を呼び出して、百万円を要求します。
庄司がへそくりでそれだけ持っていることを知った上での要求です。
百万円を一括でもらったら、以後はかかわらないことを約束し、ほとんど力づくでもぎ取ったのでした。
同じころ、「砂上」の改稿版が完成し、乙三に送りました。
乙三は再度の書き直しを提案します。
承諾した令央は、ビストロの仕事を休み、美利を産んだ浜松へ飛びました。
そこでまず、小説に出てくる砂丘を実際に見、美利を取り上げてくれた産婆の豊子と面会します。
豊子はミオの若いころを知っていました。
家出したミオは、新宿で水商売をして売れっ子になり、写真家の助手の子供をはらみます。
彼が紛争国へ出かけて行方不明になると、豊子と相談の上、北海道に戻って、令央を産んだのです。
それから十五年後、ミオから連絡があり、令央の出産の手伝いをしてくれたのでした。
美利の父親は、美しい顔立ちの美術の非常勤講師でした。
令央から誘ったのです。
そのことをちゃんと認めて、小説を一から書き直す決意をする令央でした。
北海道に戻った令央は、珠子から、剛の嫁に、としつこくせがまれます。
しかし、当の剛は、取り合う必要はない、と令央を諭します。
【結】砂上 のあらすじ④
お盆休みの三日間を使って、令央は小説の最後の部分を一気に書き上げました。
ひとまずミオの生き方を肯定することができて、満足します。
これがだめでも、また書けばよいという気になっています。
乙三に原稿を送ると、ようやく小説と認めてくれたものの、まだまだ山のように指摘事項があるのでした。
令央は乙三の助言にとまどいながらも、修正版を作っていきます。
ミオが死ぬときに令央がののしったさまを、きちんと入れ込みました。
ミオが死んだあと、美利と令央が平穏な生活を送る様子も、きちんと書きました。
そうして、十二月半ば、とうとう乙三から、令央の書いた「砂上」が出版されるという連絡が届いたのでした。
十冊届いた著者見本のうちの一冊を、剛の母、珠子に渡しました。
珠子は、令央が自分の勧めに逆らって剛との結婚を拒否し、勝手に自分の店を小説の舞台に使ったことに怒り、令央を解雇します。
令央は無職になりましたが、あまりあわてていません。
何かの仕事で収入を得ながら、小説を書いていく覚悟ができています。
出版に際してインタビューの依頼があったのにも対応しました。
乙三からは、雑誌の夏の豪で、官能か怪談の特集が組まれるので、そこで短編を一編書くようにと言われます。
令央は自信を持って書く約束をするのでした。
砂上 を読んだ読書感想
読み終わって、まず感じるのは、すごいものを読んだなあ、ということです。
普通のエンタメ小説ですと、主人公に共感し、あたかも自分が主人公になったかのような気持ちになり、ともに泣き、ともに笑う、そうして読後にスッキリする、みたいになるのです。
しかし、本作は違います。
主人は、うだつの上がらない作家志望の女性です。
性格はどこか暗くて、覇気がないように見えます。
それが、しだいに作家として目ざめていくと、ふてぶてしい化け物のように変貌していきます。
つまり、どちらにしろ、主人公に共感することができないのです。
にもかかわらず、主人公と、彼女が紡ぎ出す作品は、鈍器で頭をたたかれたような感動を巻き起こすのです。
ひとことで表すなら、「すげェなあ」といったところでしょうか。
ちょっと他のエンタメではないようなすごさでした。
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