著者:知念実希人 2018年9月に新潮社から出版
ひとつむぎの手の主要登場人物
平良祐介(たいら ゆうすけ)
主人公。大学病院の心臓外科学講座に勤務する医師。3人の研修医の指導を担当することになる。
郷野司(ごうの つかさ)
研修医。体格がよく、意思が強い性格。
牧宗太(まき そうた)
研修医。臨床よりも研究に興味がある。
宇佐美麗子(うさみ れいこ)
研修医。小児心臓外科医を目指している。
赤石源一郎(あかし げんいちろう)
祐介の所属する心臓血管外科の主任教授で最高権力者。
ひとつむぎの手 の簡単なあらすじ
祐介は純正医大心臓血管外科学講座に所属する外科医。
一流の心臓外科医になるため、全国有数の心臓冠動脈バイパス手術の開胸手術の症例数を持つ富士第一総合病院への出向を希望していた。
そんな折、人員削減に苦しむ祐介の医局に3人の研修医がやってくることが決まった。
このうち2人を入局させることができたら希望を叶えてもらえると期待し、祐介は研修医の指導するが、赤石は祐介の指の不調も見通した上で最終的な判断を下す。
ひとつむぎの手 の起承転結
【起】ひとつむぎの手 のあらすじ①
純正医大付属病院で働く祐介は心臓血管外科医として多忙な毎日を送っていましたが、心臓外科学講座に入局して8年が経ち、関連病院への出向を考える時期となります。
一流の心臓血管外科医になるため、祐介は全国有数の心臓冠動脈バイパス手術の開胸手術の症例数を持つ富士第一総合病院への出向を希望していました。
そして、祐介の学生時代からのライバルでもある優秀な外科医、針谷もまた祐介と同じ病院への出向を希望していました。
そんな時、人員不足の祐介の医局に3人の研修医が来ることが決まります。
医局の最高権力者である赤石教授に呼び出された祐介は、3人のうち2人を入局させることができたら祐介が医局に貢献したと判断しようと告げられます。
出向先への枠は限られています。
同じ出向先を狙っている針谷との差をつけるため、祐介は研修医3人の指導を受け入れます。
とはいえ、研修医の指導が初めての祐介は、3人に心臓血管外科をアピールするためにはどうすればよいのかが分からず、同期の諏訪野に相談をもちかける。
【承】ひとつむぎの手 のあらすじ②
祐介は、体育会系の郷野司、アカデミックな理論派の牧宗太、小児心臓血管外科医を目指す宇佐美麗子の、3人の研修医の指導を任されることになりました。
祐介は、研修医に心臓血管外科の過酷な面を見せてはいけないと考え、研修医には比較的穏やかな病状の患者を担当させ定時には帰宅させるように気を遣っていました。
しかし実際の業務は過酷そのもので、自宅に帰ることができず、ゆっくり家族と顔を合わせることができない日が続いていました。
研修医は過酷を覚悟の上で心臓血管外科を選択したのに祐介がリアルな現場を見せてくれていないことに気づき、祐介から離れていってしまいます。
研修医の入局が難しい状況でも研修期間は続きます。
祐介は牧宗太から、医局カンファレンスでの症例プレゼンを自分に任せてほしいと頼まれ、任せてみることにします。
研修医の牧の力だけでは医局の先輩医師からの指摘に応えられませんが、祐介の力を借りて、乗り切ることができます。
また、宇佐美は幼い頃に亡くなった妹と患者を重ねてしまい感情的になってしまう欠点がありましたが、これも祐介のサポートで解決します。
郷野は当初から祐介と折が合いませんでしたが、当直でのオペを一緒に乗り切ることで、祐介に信頼を寄せるようになりました。
祐介は、医局の良い面ばかりを見せて入局させようとするよりもリアルな面を見せてぶつかり合うことが大切だと気付きます。
【転】ひとつむぎの手 のあらすじ③
研修医の指導に奮闘している一方、心臓血管外科の明石教授に関する怪文書が出回っていました。
発表した論文データに捏造があるという内容のものです。
祐介は明石から怪文書を発信している犯人を捜すよう指示されますが、見当もつきません。
そこで、同期で情報通の諏訪野に相談をします。
諏訪野からの情報によると、明石の経歴に傷がつき教授職を降りることで得をする人が数名いるとのこと。
松戸病院の山田教授、明石教授の部下に当たる肥後医局長、小児血管外科の柳沢准教授あたりが怪しいのではないかと目を付けます。
日頃赤石教授のごますりばかりしていた肥後医局長の態度が急に変わり、医局のヒエラルキーも崩れ始めました。
そんなとき、2つ目の怪文書が届きます。
前回と違い細かいミスがあり、純正医大付属病院の関係者が作成した文書であるということがわかるものでした。
祐介は証拠を押さえようと、研修医と協力して肥後医局長と柳沢准教授の居室に忍び込もうとしますが、それも失敗に終わります。
【結】ひとつむぎの手 のあらすじ④
研修期間は無事に終わり、3人は心臓血管外科への入局を希望することになりました。
怪文書の犯人に思い当たった祐介は、針谷を問い詰めます。
針谷は、赤石の甥として名前に負けないよう必死に努力してきましたが、明石は身内を特別扱いするような人ではなく、自分は富士第一病院への出向できないかもしれないと考えていました。
そこで邪魔な明石を排除するため、昔手伝った赤石の研究で自分がデータを改ざんしたことを使って、明石の論文不正としてマスコミに売ったのでした。
研修医3人を入局させ、怪文書の犯人も見つけた祐介ですが、富士第一総合病院への出向は針谷に決まり、祐介は沖縄への出向を告げられます。
赤石はマイクロ手術で祐介の指が震えることを見抜いていたのです。
外科医にとって細かいオペができないことは致命的ですが、地方医療で必要とされているのは心臓外科の専門技術ではなく、様々な疾患に対応できる応用力と知識であり患者に対して真摯に向き合う姿勢です。
祐介は地方の病院に必要とされる人材だと、赤石は判断していたのでした。
ひとつむぎの手 を読んだ読書感想
大学病院ならではのヒエラルキーや権力派閥が絡み、面白く読める作品でした。
教授の采配で決まる人事、一方で医師としての信念も譲れない部分であり、リアルな大学病院を垣間見ることができた気がします。
怪文書という謎解きと同時に医療ドラマがメインでもあり、すこし心あたたまる内容でもあると感じました。
ひとの命や生活を紡ぐ仕事は誰にでもできることではなく、だから驕るようなドクターもいるのだろうけど、平良先生のように患者思いでひたむきな先生がたくさんいてくれるといいなと思いました。
テレビ化や映画化されたら、ぜひ見てみたいと思います。
コメント