監督:瀧本智行 2013年2月に東宝から配給
脳男の主要登場人物
鈴木一郎(生田斗真)
連続爆破事件の犯人として拘束される。高い知能を持つが一切の感情表現を示さず、鈴木一郎と名乗ったこと以外は黙秘を続けている。
鷲谷真梨子(松雪泰子)
鈴木の精神鑑定を依頼された精神科医。
茶屋(江口洋介)
警察官。緑川のアジトで鈴木に命を救われており、鈴木は本当に犯人なのかどうか疑いを持っている。
緑川紀子(二階堂ふみ)
連続爆破事件の真犯人の一人。同じく高い知能を持つ鈴木に興味を抱き、執拗に狙う。
水沢ゆりあ(太田莉菜)
連続爆破事件の真犯人の一人。鈴木に銃撃された際、緑川をかばって死亡している。
脳男 の簡単なあらすじ
連続爆破事件の犯人として拘束された鈴木は、高い知能を持つ代わりに一切の感情がない「脳男」でした。
彼の持つ背景を探る真梨子は、祖父によって悪い人間は躊躇なく殺すよう教育された彼の過去を知ります。
そんな中、鈴木を狙う爆破事件の真犯人が二人を襲撃。
攻防戦の果てに犯人二人を殺害し、さらに親身になって接する真梨子を裏切り再び殺人を犯した少年をも殺した鈴木は、「あなたは殺人をするために生まれてきたんじゃない」という真梨子の叫びに対して一瞬だけ微笑み、彼女の前から去っていきました。
脳男 の起承転結
【起】脳男 のあらすじ①
舞台となる東京都内近郊では、事件に関して何かを捜査しようとした人物を狙う連続爆破事件が発生していました。
テレビのコメンテーターや否定的な意見を口にした人物が次々と殺される中、精神科医である真梨子が乗り遅れ彼女を乗せずに発車したバスが突然爆発炎上します。
そこにはテレビ番組で事件の犯人を占った金城理詞子が乗っていたのでした。
突然のことに驚きながらも真梨子は懸命に救助活動にあたりますが、彼女が介抱していた少年含めバスの乗客全員が亡くなります。
事件を捜査しに来た茶屋と広野は、爆発させる装置に使われた針金の切断面からとある廃工場をアジトとして割り出しました。
その廃工場の中からは女性の声と銃声が聞こえましたが、状況を確かめようと突入した直後に爆発が起こり広野は軽傷を負います。
裏から車が発信する音を聞きつつ茶屋も現場に乗り込みますがそこに女性の姿はなく、男が一人残っていました。
拘留された男は鈴木一郎と名乗りますが、それきり一切の情報を黙秘していました。
そんなある日、鈴木が他の房に拘留されている男性を襲い左目を抉るという事件が起こります。
しかし鈴木は普段から粗暴なわけではなく、警察による知能テストなどには協力的に応じていました。
【承】脳男 のあらすじ②
事件の時に鈴木も怪我を負ったにも関わらず反応を示さなかったことで、鈴木は無痛症ではないかと考えた真梨子は、肩を叩くふりをして安全ピンを刺すことでそれを確信しました。
さらに彼の血液から鈴木を被験者としたとある研究が行われたことも判明し、論文の作者である藍澤は駆け付けた真梨子に鈴木の過去を語り始めました。
ここで鈴木の本名が「入陶大威」であることが判明しますが、混乱を避けるため以後も「鈴木」と記載します。
鈴木は真梨子が考えた通り感情を持たない男でしたが、本を一度めくっただけで内容を把握出来る卓越した知能を持っていました。
藍澤はそんな彼の能力にいち早く気付き、鈴木を「脳男」と呼び始めた人間です。
ところが鈴木の祖父がそれに気付いたことで、藍澤は鈴木から引き離されます。
そして真梨子はそれ以降の鈴木を知る伊能という男に接触し、続きは彼の口から語られることとなりました。
「殺すべき悪い人間は躊躇なく殺せ」と命じられ、鈴木は人を殺す方法を教わるようになったのでした。
そんなある日、ロッククライミング中の事故で伊能と鈴木は生命の危機に陥ります。
自らと鈴木を繋ぐロープを切り鈴木だけでも生き延びるよう伊能は指示しますが、鈴木は命令に背き伊能を崖から引っ張り上げることで救いました。
そしてある晩祖父の家に強盗が入り鈴木は胸にナイフを突き立てられますが、強盗の首を折り殺しました。
祖父はようやく自分の教育が実を結んだと喜びますが、発生した火災に巻き込まれて死亡します。
茶屋の調べによると鈴木の両親をひき逃げした犯人は証拠不十分で不起訴となった二年後に殺されていました。
他にも女性を強姦したチンピラやヤクの売人など計四人が犯人不明の事件によって殺されたという記録が見つかります。
これらの事実から、茶屋は鈴木は爆破事件の犯人を殺しに来た男だと断定しました。
【転】脳男 のあらすじ③
鈴木を本庁に護送する途中、真梨子の過去が明かされます。
真梨子の家はシングルマザーで、母親は真梨子と小学生の息子を女手一つで育てていました。
しかしある日、弟は眉と髪を剃られた無残な姿で殺されているのが見つかります。
犯人の中学生志村は、現在真梨子がカウンセリングしている患者でもありました。
真梨子と別れて鈴木が護送車に乗った直後、爆破事件の真犯人である緑川と水沢が鈴木を襲撃しました。
反撃しようと茶屋の銃を奪い緑川に向けて発砲しますが、彼女をかばって水沢が死亡します。
緑川と鈴木はそれぞれ逃亡し、負傷した広野は真梨子が務める病院に入院しました。
真犯人である緑川は鈴木と同じく高い知能を持っていますが、両親含む周囲の人間が怪死したことで精神科を受診していました。
富裕層で知能が高いという点において鈴木と共通点を持っているということに茶屋は気付きます。
一週間後、緑川によって真梨子と広野が拉致されました。
鈴木をおびき出すために緑川が仕組んだ罠です。
広野の首には爆弾が巻かれています。
一郎を殺せば爆弾を解除すると話す緑川でしたが、鈴木は冷静に「爆弾の解除は出来ない」と口にします。
動揺する茶屋の前で広野は「俺が死ぬ」と言い首を振って自爆しました。
さらにショックを受ける茶屋でしたが、鈴木は彼を置いて真梨子の元に急ぎます。
そのころ緑川は手術台で真梨子の舌を切断しようとしていましたが、末期がんによる喀血があり断念して真梨子を連れ車で逃走を図りました。
飛び出してきた鈴木を何度も車で轢く緑川でしたが、痛みを感じないため何度も立ち上がる鈴木はついに彼女の首に手を掛けました。
しかし真梨子の呼びかけにより首を絞めるのをやめたところで、真梨子の腰に巻いた爆弾を起爆しようとした緑川を茶屋が射殺します。
大けがを負った鈴木は真梨子と茶屋を順に見つめ、やがて去っていきました。
【結】脳男 のあらすじ④
後日、真梨子の元に「先生の一番大事な患者を殺します」と手紙が届きます。
鈴木に志村を紹介した際「私の一番大事な患者なの」と話していた真梨子は慌てて志村のアパートに向かいますが、そこには真梨子の弟と同じように眉と髪を剃られた志村の死体がありました。
彼は真梨子のカウンセリングを受けながらも子供を監禁し暴行の末殺害するという犯行を繰り返していたため、それを悟った鈴木に殺されたのです。
「どうしてそれを知っていたのか」と尋ねる真梨子に、鈴木は志村の腕に新しい歯型があったと答えます。
志村が監禁された少年に噛まれたものです。
「それでも人を殺してはいけない」と説得する真梨子の目に、川の反対側でこちらを見ている鈴木の姿が映ります。
「先生は僕のために泣いてくれました。
そんな人は先生だけでした。
感謝しています」と話し、彼はわずかに微笑んだように見えました。
「あなた、どこに行くの。
これから、どこに行くつもりなの」とつぶやく真梨子を残し、鈴木は再び去っていきます。
脳男 を観た感想
脳男という奇妙なタイトルにつられて観覧しましたが、タイトルではなく二転三転する展開も独特な映画でした。
不気味な印象を与えていた鈴木が実は真犯人ではないという事実に向けた話の持って行き方も無理がなく、グロなどのホラー要素を含みつつサスペンスとしても楽しめる重厚な作りです。
感情をリアルに表現することが目的である普段の演技とは逆に一切表情を変えないという特殊な役回りもしっかりこなされており、生田斗真の新たな魅力を発見しました。
鈴木が見せる最後の表情がとても切なく、バッドエンドともハッピーエンドとも言い切れない結末の先を想像して余韻に浸りました。
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