著者:荻原浩 2006年3月に新潮社から出版
噂の主要登場人物
小倉悠一(こぐれゆういち)
警視庁目黒書刑事課に勤める本作主人公。以前は捜査一課で勤務していたが、交通事故により妻を亡くし、娘を育てる為に一線を退いている。
小倉菜摘(こぐれなつみ)
主人公の娘。都内の高校に通う普通の女子高生。「きもさぶ」という言葉を流行らせようとしている。
名島(なじま)
主人公と共にレインマンを追う若き警部補。幼い息子がいる未亡人。辛いものが好き。
西崎譲(にしざきゆずる)
広告代理店「東京エージェンシー」に勤めている。COMSITE社と共に香水「ミリエル」をプロモーションし、成功を収める。
杖村沙耶(つえむらさや)
COMSITE社の社長。WOMによる販売戦略を考案。「ミリエル」を人気商品に仕立て上げる
噂 の簡単なあらすじ
「レインマン」に会うと両足首を切断される。
ただし、ミリエルの香水をつけていると狙われない。
そんな街に蔓延る噂が実際に発生、女子高生が足首を切られ、殺害された。
警視庁の小倉と名島コンビは、被害者の交友関係からミリエルの噂を知り、コムサイトに行き着く。
一方ミリエルを口コミで広げた内の一人、西崎は追及を受け、自身の犯行を警察に告白するか葛藤しながらも、歪んだ性癖を満たす殺人を繰り返していく。
またミリエルを担当した杖村は追及により化けの皮が剥がれ、結局レインマンと同様の手口により殺害されてしまう。
二人に追い詰められた西崎はマンションから飛び降り、事件は解決。
しかし杖村殺しの犯人は西崎ではないのだった。
噂 の起承転結
【起】噂 のあらすじ①
「レインマンに会うと足首を切断され、持っていかれる。
でもミリエルのローズをつけていると狙われないんだって。」
そんな噂が街に広がっています。
東京エージェンシーの西崎と加藤は、今後の企画についてコムサイト社のやり手女社長、杖村に相談に来ていました。
「キャンペーンは成功しているの?」と問うその杖村は、WOMという戦略でミリエルを有名商品に仕立て上げた立役者です。
仕事の成功の為なら手段を選ばない杖村に対し、本当にそれでいいのだろうか?と思いながらも広告の相談をするのでした。
一方、一人娘の菜摘と食事を終えた警視庁目黒署刑事課の小暮は、平和な朝を感じながら出勤しました。
しかし平和な朝はすぐに凄惨な事件によって奪われてしまいます。
管轄内の公園で、両足首を切断された若い女性の遺体が発見されたのです。
現場に着き、遺体を確認し終えると本庁の捜査一課が到着しました。
小暮は命ぜられるがままに現場付近の聞き込みへ行きます。
その後、大した情報も得ぬまま迎えた捜査会議では、被害者である高原美幸や、第一発見者の情報が発表され、同時に広報を通じた情報以外は洩らさないようにという命令が下されました。
そして、敷き鑑捜査に回されることになった小暮は、遥かに年下で一階級上の女警部補、名島とコンビを組むことになりました。
【承】噂 のあらすじ②
小暮と名島の凸凹コンビは早速、被害者の通っていた私立高校へ聞き込みに行きます。
道中、上手く声をかけられない口下手な小暮に、名島の方から事件についての話をされました。
その中で、名島は最近まで家宅捜索専門の強盗犯一係にいて、殺人事件を担当するのは初めてだということを聞きました。
学校に着いて同級生に一人一人話を聞きますが、強面で強い口調の小暮が声をかけるよりも、柔和な雰囲気の名島が質問をした方が円滑に聞き込みが進むことに気付き、その場は名島に任せました。
そこでは、被害者は学校で浮いた存在だったことと、事件当日の動きを知ることができました。
その後は被害者の自宅の捜索をし、交友関係についての情報を得ます。
捜査本部が組まれ、少しずつ時間の認知度が高まっていく中、二人は被害者の友人の聞き込みや足取りを追いながら新たな情報を掴んでいました。
被害者の交友関係は渋谷のギャル、ギャル男が多いが、顔見知り程度の関係が非常に多いこと、仲の良い人たちから聞こえるレインマンの噂についてなどです。
一方東京エージェンシーの西崎は、仕事を終えると自宅へ戻り、同居しているサキに、ニュースや新聞で目にした事件の話をしました。
しかしサキはそんな話に興味がなく、西崎をベッドに誘います。
西崎はサキの綺麗な足を見つめ、ぶるりとかぶりを振るのでした。
その後も小暮と名島の二人は、被害者がバンドの追っかけをしていたこと、レインマンを語る人たちから同じく聞こえるミリエルという香水のことなどの新たな情報を得ていきます。
しかしそんな中、第二の事件が発生しました。
第一の事件と同じ管轄内でまたしても足首のない遺体が発見されたのです。
そしてそれはなんと、菜摘の親友の青田久美だったのです。
【転】噂 のあらすじ③
親友の死を前に悲しむ菜摘を心配するしかない小暮は、以前は控えていた泊まり込みもしながら事件解決へ奮起します。
それを尻目に、捜査本部の幹部達は小暮と名島の捜査に全く関心を持たず、現場で目撃情報があったスポーツタイプの車のことばかり追っていました。
白い目で見られながらも独自のルートを追う小暮と名島は、一緒に行動するうちに仕事以外の情報も交換していました。
お互いに子供がいること、結婚相手を亡くしていること、辛いものが好きなことなどです。
捜査は着実に進み、レインマンの噂からミリエルの香水へ、そしてコムサイト社や東京エージェンシー、WOMにてミリエルを広めようとした人にまで進みました。
二人は噂を広めた張本人である杖村と直接話をしましたが、若い女性たちを雇って噂を流しただけ、と事件とは無関係であることをアピールされてしまいました。
しかし、東京エージェンシーの西崎は追及を恐れ、小暮へ個人的に直接やりとりをしたいと申し出ます。
期待した小暮とは裏腹に、二人で会った西崎はほとんど何も話すことができずにその場を辞してしまいました。
そんな西崎の家には、冷凍された足首があります。
その足首に赤いピンヒールを履かせて眺めるのが趣味なのでした。
【結】噂 のあらすじ④
街には新たな噂が蔓延っていました。
「ミリエルの香水をつけてもレインマンに襲われる」「ヤラセの噂を流したのは女社長で、情報操作のためなら人殺しでもなんでもするんだよ」「レインマンの正体はその女社長なんだって」ネット上にまで広がった根も葉もない噂に杖村は辟易していました。
嫌な記憶まで思い起こされ、仕事が終わって家に着くと、すぐさま無防備な姿になりました。
ところが部屋に誰かの気配がしました。
鍵は閉めたっけ?直後、杖村の首には紐がかけられ、抵抗も虚しく視界は闇に閉ざされました。
一方、捜査本部では名島の閃きにより形勢が一気に変わりました。
西崎の名が犯人として上がったのです。
その後小暮や名島たちは西崎のマンションへ行き、当人が現れるのを待ちました。
二人のこれまでの捜査や一緒に過ごした時間が思い起こされる中、西崎が大きな荷物を持ってマンションへ入りました。
確保しようとする警察達に、西崎はすぐさま気付き、マンションの四階からゴミ捨て場へ飛び降りました。
ゴミがクッションになると思ったのです。
しかし実際にはゴミはなく、西崎の視界は呆気なく漆黒に包まれました。
犯人逮捕、とはならなかったものの、大きな荷物から犯行を示す証拠が見つかったこともあり、小暮と名島は久々に仕事のことを忘れてファミレスに来ていました。
名島の息子、慎之助君も一緒です。
「今度、一緒にサッカーしようか」「もしよかったら、菜摘ちゃんもご一緒に…」事件が終わった街では、こんな会話が見受けられました。
「レインマン、捕まったって」「逮捕される前に死んじゃったんだよ」「あの女社長だと思ってたのに」「レインマン、女の子の足を集めてたんだって」「きもさぶ」
噂 を読んだ読書感想
最後の一行に刮目せよ、との触れ込みで有名な本です。
が、最後の一行のことは考えずとも、一冊の小説として非常に面白いです。
特に、小暮と名島のキャラクターがしっかりしていて感情移入しやすいです。
西崎の異常なフェティシズム、杖村の嫌な人間らしさは、よく描けているからこそ嫌な気持ちになりました。
あらすじでは細かい部分はわかりませんが、実際には更に複雑なトリックなどが使われています。
とにかく、面白い。
最後の一行ですが、細かいことは特に書かれていません。
「きもさぶ」たったの四文字です。
しかし、きちんと読み進めていればゾワッとすること間違いありません。
とにかく面白く、あっという間に読み進めることができました。
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