著者:江戸川乱歩 1931年6月に平凡社から出版
二銭銅貨の主要登場人物
私(わたし)
この物語の語り手である貧乏な若い男。さびれた下駄屋の二階の一間に松村武と同居している。
松村武(まつむらたけし)
私と同居している同じく貧乏な若い男。二銭銅貨の仕掛けに気づき、私を出し抜こうとする。
紳士盗賊(しんしとうぞく)
紳士泥坊とも呼ばれる大泥棒の男。ある大きな電気工場から大金を盗み、どこかに隠す。
支配人(しはいにん)
芝区の大きな電気工場の支配人の男。紳士盗賊にだまされて大金を盗まれてしまう。
二銭銅貨 の簡単なあらすじ
芝区にある大きな電気工場で給料用に用意した大金が盗まれた事件により、語り手の私とその友人の松村武のさえない日常が一転します。
犯人は捕まったものの盗まれた大金が一向に発見されない中、ある二銭銅貨の秘密に気づいた松村は興奮した様子で行動を起こします。
しかし、私はただ興味深げに見守るだけでした。
果たして私の意図とは。
二銭銅貨 の起承転結
【起】二銭銅貨 のあらすじ①
事件の舞台は芝区にある大きな電気工場であり、その給料日当日に新聞記者を名乗る男が現れました。
工場の支配人が男を快く迎え入れると、男は珍しいエジプトの煙草を吸いながら従業員の待遇についての取材を始めますが、しばらくして支配人が用を足しに席を離れると男は姿を消してしまいます。
支配人たちが給料として用意した五万円が盗まれたことに気づくのはそれからすぐのことでした。
盗んだのは新聞記者の男であることは間違いありませんが、実はその男は新聞記者などではなく大泥棒だったことがわかります。
それから一週間以上は何の成果もないまま過ぎてしまいますが、刑事の一人が偶然にもあのエジプトの煙草の吸殻を発見するなり、あっという間に紳士盗賊は逮捕されてしまいました。
ところが、紳士盗賊は盗んだ五万円のありかについては一切語らないまま結局監獄送りとなってしまい、支配人は困り果てた末に行方不明の五万円に懸賞金をかけ、情報を求めはじめました。
【承】二銭銅貨 のあらすじ②
あらゆる冬物の家財を売り払い、私と松村武がいつもより余裕があった春のことでした。
私が銭湯から帰ると、松村は何か興奮したように私に机の上に置いてあった二銭銅貨について尋ねてきました。
私が煙草を買った時の釣り銭だと話すと、どこの煙草屋だ、他に客はいなかったかなど聞き続けますが、煙草屋の娘が監獄の差入れ屋と結婚したという話を聞くなり部屋中をのそのそと歩きはじめたのです。
私は興味深げな様子でそれを見ていましたが、空腹のために飯屋へ出かけてしまいました。
しばらくして私が飯屋から帰ってくると松村は盲目のあん摩師からマッサージを受けており、そのあん摩師が帰ると今度は二枚の小さな紙切れに書かれたものを読みながら新聞紙に何かを書き出し、その内に夜になると東京の地図を広げて何かを探しはじめました。
そして、九時になると松村は十円札を持ち、どこかへ出かけたのです。
それから私はすっかり眠り込んでしまいましたが、朝の十時頃に目を覚ますとその枕元には商人の格好をした松村がおり、背負っていた風呂敷包みの中に五万円が入っていると明かしました。
【転】二銭銅貨 のあらすじ③
松村の持っていた五万円は工場から盗まれたそれだと言うのですが、当人は工場に届け出るつもりはなく、届け出ても紳士盗賊の復讐を招くだけであると説明しました。
そして、松村はその頭の良さを自慢するように経緯を語りはじめました。
私が銭湯へ出かけた後のこと、松村はあの二銭銅貨が二枚に開くことに気づき、その中に一枚の紙切れを発見したのです。
そこには陀や無弥仏など南無阿弥陀仏の六字からいくつかを組み合わせた文字列があり、松村はそれを何かの暗号、しかも捕まった紳士盗賊が五万円のありかを相棒に知らせるためのものではないかと疑いました。
さらに、煙草屋の娘の夫は監獄の差入れ屋だという話にその疑いは強まり、松村は部屋中を歩き回りながら考えた末、ついに点字を利用した暗号であると気づいたのです。
盲目のあん摩師を呼んだのは点字を教えてもらうためであり、試しに暗号を解いてみると「ゴケンチョーショージキドーカラオモチャノサツヲウケトレウケトリニンノナハダイコクヤショーテン(五軒町の正直堂から玩具の札を受取れ、受取人の名は大黒屋商店)」という翻訳文ができました。
そこで、松村は紳士盗賊が五万円と大黒屋商店が注文していた玩具の札を入れ替えたに違いないと考え、あの変装で受け取りに行って五万円を横取りしたのだと揚々と語り上げました。
【結】二銭銅貨 のあらすじ④
松村の話を聞き終わった時のこと、私は耐えられないとばかりに大笑いしてしまいます。
呆然とする松村に、私は笑いをかみ殺して世の中は小説より現実的だと言い、あの暗号の翻訳文に八字置きに印を書き加えて「ゴジャウダン(ご冗談)」という言葉を示すと誰かのいたずらであるという可能性を口にしました。
松村は真剣な様子で風呂敷包みを見せて反論しますが、私に促されて一度確認したはずのその中身を念入りに見直してみると、確かに私の言うとおりすべて玩具の札であると気づきました。
そもそも正直堂は私の遠い親戚の店であり、借金を頼もうとそこを訪れた時に大黒屋の注文した玩具の札を見つけたのが事の始まりでした。
そして、私は紳士盗賊の事件を利用したいたずらを計画し、松村よりも頭が良いことを証明しようと考えたのです。
あの暗号文は私が思いつきで作ったものであるうえ、煙草屋の娘の話もでたらめであり、娘自体がいるのかどうかさえ知らないほどでした。
二銭銅貨 を読んだ読書感想
江戸川乱歩といえば日本ミステリー界の先駆者だと思いますが、乱歩初体験とはいえ、期待を軽々と超える展開にそのすごさを感じました。
二銭銅貨自体は名前と点字を利用した暗号が出てくることくらいしか知りませんでしたが、デビュー作からこれほどクセばっかりの主人公が出てくるとは思いませんでした。
ただ、泥棒をうらやんだり、盗まれた大金をネコババしようとしたりという残念なところもあの結末のおかげで多少のかわいげに変わるので、やっぱり魅力的なキャラクターだと思います。
結局最後まで紳士盗賊の盗んだ五万円のありかはわからないままですが、それでも十分すっきりできました。
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