【ネタバレ有り】毒もみの好きな署長さん のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:宮沢賢治 1986年5月にちくま文庫「宮沢賢治全集6」から出版
毒もみの好きな署長さんの主要登場人物
署長さん(しょちょうさん)
本作の主人公でプハラの町に赴任した新しい警察署長。普段は丁寧に街を見回っており、人々にも優しい。町で連発する毒もみ事件に関してとりあってなかったが、不審な行動を子供たちに目撃されており、次第に意外な正体を表し始める。
リキチ(りきち)
下手な床屋。剃刀を二挺しか持っておらず、店は流行っていない。いいかげんで浅はかな言動のため町の人に軽蔑されている。
巡査(じゅんさ)
署長さんの部下。
町長さん(ちょうちょうさん)
プハラの町の町長。子供たちの「署長さんが毒もみの犯人」という噂に困惑し、署長さんに確認すべく6人の家来と共にやって来る。
子供たち(こどもたち)
プハラの町に住む子供たち。署長さんの不可解な行動を疑い、毒もみの犯人であると噂する。
毒もみの好きな署長さん の簡単なあらすじ
プハラの町は豊かな川と魚に恵まれた町ですが、「火薬を使って鳥をとること」と「毒もみをして魚をとること」を禁じており、毒もみをするものを押えることを警察は一番大事な仕事としているほどでした。ある日、新しい警察署長さんがやってきます。そんな時に国で禁止されている「毒もみ」によって魚が次々と死ぬ怪事件が起こります。子供たちはたびたび署長さんが毒もみの現場にいたり、毒もみに使うものをこっそり仕入れているのを目撃してしまいます。どうやら署長さんが毒もみに関係しているらしいと疑い、確信し、大騒ぎをします。事態を重く見た町長さんは署長さんを訪ねますが、そこで衝撃の事実が発覚します。
毒もみの好きな署長さん の起承転結
【起】毒もみの好きな署長さん のあらすじ①
四つのつめたい谷川がカラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡をたてて大きく一つになった川のほとりにあるプハラの町があります。
豊かな水源からなる魚に恵まれたこの町に、ある日新しい警察署長さんがやって来ます。
赤ひげに金色の目、銀の入れ歯という特異な、どこか河獺に似た風貌に、立派な金モールのついた長い赤いマントという立派ないでたちの署長さんは部下の巡査と共に毎日丁寧に町を見回り、人々に対し優しい言葉をかけたり気遣いを見せるなどで町に溶け込みます。
さて、この国の第一条の規則では「火薬を使って鳥をとってはなりません、毒もみをして魚をとってはなりません」と決められていますが、最近この規則を破って毒もみをし、魚が次々と変死をとげ、町の中にたくさんある山椒の木の皮が剥がされるようになってしまいます。
魚が取れなくなり、町中が不安になりますが、そんな騒ぎの中、署長さんと部下の巡査はなぜか「そんなことあるかなあ」というふうにとりあいませんでした。
【承】毒もみの好きな署長さん のあらすじ②
やがて子供たちの間で奇妙な噂や目撃情報が流れます。
最初は「署長さんが毒もみをする犯人を捕まえようとしていた」ところを知らずに石を投げて叱られたという子供の話から、もうすぐ犯人がつかまるとのんきにしていた子供たちですが、そのうち「署長さんが黒い衣に頭巾をかぶって鉄砲打ちと毒もみの原料になる山椒の粉について話していた」「柏の木の皮を混ぜていたのに一俵二両も取っていると言っていた」「署長さんが自分の家から毒もみの材料の灰を二俵買っていて、自分が届けにいった」等など・・子供たちの疑念はますます大きくなり、確信に変わっていきます。
ひまな床屋のリキチが勘定すると、署長さんは二十三両の収入の中から二両三十銭を使って毒もみの材料を購入していることになりました。
子供たちは署長さんの部下の巡査にも「毒もみ巡査、なまずはよこせ」と力いっぱいからだをまげて叫び、しかも小さな子供たちまでわざと巡査に近寄らなくなります。
【転】毒もみの好きな署長さん のあらすじ③
子供たちの騒ぎを聞いた町長さんは事態を収束すべく六人の家来を連れて警察署を訪れます。
しかし、困惑して現在の状況について相談する町長さんに対し、署長さんはどこかずうっと遠くの方を見ていました。
更に、町長さんの家の山椒の皮もはがされ、魚もたびたび死んで浮かび上がると言うと、署長さんは奇妙な微笑みを浮かべるのです。
「子供らが、あなたのしわざだと言いますが、困ったもんですな。」
という問いかけに、「そいつは大変だ。
僕の名誉にも関係します。
早速犯人をつかまえます」という署長さんは椅子から飛び上がりながら言いますが、更に「ちゃんと証拠があがっています」と衝撃の発言をします。
そして・・・「実は毒もみは私ですがね。」
と、町長さんに顔をつき出してこの顔を良く見ろというようにして暴露したのです。
町長さんも驚いて「あなた?やっぱりそうでしたか。」
と言いますが、署長さんは落ち着きはらって「たしかですとも。」
と答えるのでした。
【結】毒もみの好きな署長さん のあらすじ④
川を毒で汚染し、魚を死なせ、町中を混乱におとしいれた毒もみの犯人の正体は、その犯人と対極の存在であるはずの警察の署長さんという衝撃の事実が発覚してしまいました。
驚く町長さんを前に、告白した署長さんは、自ら卓子の上の鐘を一つカーンと叩いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵を呼びました。
そう、署長さんとして探偵を呼び、犯人として縛についたのです。
しかしこの国の決まりでは毒もみは第一級の犯罪・・裁判の結果はもちろん死刑です。
死刑当日、いよいよ巨きな曲がった刀で首を落とされるとき、署長さんは悲嘆にもくれず、涙もこぼさずに笑って言います。
「ああ、面白かった。
おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。」
と。
そして更に、「いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」
と言い放ったのです。
そのすがすがしいほどに後悔のない最期の言葉に、一連の事件に振り回されてきたみんなはすっかり感服するのでした。
毒もみの好きな署長さん を読んだ読書感想
ある日平凡な町の川に毒が流され、次々と魚が死に、一番疑ってはならぬ人物こそが狂気の犯人だった・・・この身の毛もよだつような物語がまるで子供でも読めるような優しい簡潔な文章で書かれており、かつて本物の子供だった私は背中に冷たいものを感じながら一挙に読み切ったものでした。
実際、この物語はブラックユーモアであると同時に強烈なサイコホラーであり、現代人が読んでも今もなお惹きつけられる要素がたくさんあります。
中でも怖いのは主人公である署長さんの存在感です。
自然や魚を壊しても露ほどの罪悪感もなく、ただ「快楽」のみを追求するその姿には他者はおろか自分への憐憫はまったくありません。
「完全なる悪」・・それこそが人間の本質であり、怖いものだと、「よだかの星」や「銀河鉄道の夜」の優しさや悲しみに彩られた物語を紡いできた宮沢賢治だからこそ、書けたのかもしれません。
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