【夏夢】第3話「3人の少女」

夏夢

一年前に交通事故で亡くなった美香のアカウントが更新されている。しかもそのアカウントの人物は未だにその美香になりすまし投稿を続ける。もしそれが事実なのであれば不謹慎といえば非常に不謹慎な話である。
 この不気味かつ不謹慎な事件に東京でいち早く気づいた巧の行動は早かった。会社には長期休暇に入ることをほぼ一方的に告げ、もうその足で地元に帰るような勢いでこの波野村へとやってきた。
 そして現在は美香の実家である柚木家でこの一部始終を伝えている。
「それで聖也に聞きたいことがあるんだが」
 もはや先程からあまりの不気味さに歯の根が合わない聖也に更に言葉を告げるのは辛いものがあるのだがこれもまた事件解決のためである。仕方ない。
「美香が使っていたスマホがあったはずなんだが……。あれは今どこにあるんだ?」
「姉ちゃんのスマホは……わかんないんだ」
「なに?」
 思わず聞き返す巧。
「警察が、姉ちゃんはその時スマホを持ってなかったし事故現場にも落ちてなかったって言ってた。でもお姉ちゃんの部屋にも家のどこにもなかったし、結局どこに行ったかわからなかったからちょっと変だなとは思ってたんだ」
「……」
 巧は考え込む。
(つまりスマホを持ち出した人物なら美香のアカウントを乗っ取ることもできたはずだ……。なら美香のスマホを手にしている人物こそがこのなりすましの犯人ってことか?)
 そのように結論を下す巧。
「なるほどな、いろいろどうもありがとう聖也におじさんも。あとは俺の方で調べてみるよ」
「たく兄、家まで送っていこうか?」
「いや、それはちょっと……」
 先ほどの運転を思い出し遠慮する巧。確かに一度実家に帰るつもりではあるが、家はここから500メートルほど先にあり歩いて帰れない距離ではないのだ。
「そうか、またわかったことがあったら教えてね」
「あぁ、もちろんだ」

 玄関で巧を笑顔で見送る聖也。その聖也の後ろ姿を怪訝そうに見つめている影があった、紛れもない、父和也である。
 和也は手を振っている聖也に声をかける。
「聖也、なんでたくちゃんにあんな嘘をついたんだ?美香のスマホなら確かお前が……」
「親父」
 和也の言葉を遮って聖也が先ほどと変わらない笑顔でこちらを向いた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」

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「にしても驚いたわ、たくちゃんが何も言わず急に帰ってくるだなんて」
 もう一年ぶりとなる実家の居間にあるツギハギのソファに腰をかけ考えことをしていると目の前に非常に懐かしい飲み物が出てくる。
「ラッシーよ、たくちゃん好きだったでしょう?」
「あ、あぁありがとう母さん」
 そういえば比較的近いとは言え7月の空の下を500メートルほど歩いて来たので喉がからからであった。ラッシーは母・直美が作るのを得意とする飲み物で以前は毎日のように飲んでいたがこのように乾いた喉には最高のご馳走であり、巧はご馳走を一気に飲み干す。
「すごい飲みっぷりね、おかわりついであげようか」
 一年前と変わらないおせっかい焼きでいそいそとコップを片付ける直美。だが巧にその言葉は聞こえておらず全く違うことを考えていた。無論、件の美香のスマホとTwitterアカウントについてである。
(やはり犯人は現場にいてスマホを持ち去ったと考えるのが普通か。そうだとすればアカウントは簡単に乗っ取れる。がやはりあの投稿の内容が気になる……。犯人はかなり美香について詳しい人物だろう)
 っと考えていたところで突如巧は家の外で誰か女性がしゃべっているのに気がついた。
 家の窓を少し開けてそこから外を覗くと、やはりそこには若い女性らしき影が数人壁の外でぺちゃくちゃとしゃべっているのが見える。すると、いつの間にやってきていたのか後ろから直美がため息をつきながら右手でその女性たちを指差していた。もう片方の手にはこれまたいつの間にか完成していたラッシーが握られている。
「あの子達ね、実は何日から前からああやってうちの外でたむろしているみたいなのよ」
「え?何日か前から……?」
「全く……最近の若い子ときたらほんとああやってどこでもたむろしておしゃべりして、全く私たちの若い頃と言ったらどこも一面焼け野原で……」
(いやいや何年生まれだよ)
 そうツッコミを入れつつ、巧は家の外でしゃべっている若い女性たちにジッと見つめていた。
(いや……、あの子たちは多分)

「あ、で、出てきた!」
「やっと出てきた!」
 家から出てくる巧を見つけたその女性三人。家の前でたむろしておいて大層なご挨拶であるが巧はこの三人を知っている。
「あぁ、やっぱりか。確か君たちはー……」
 そう言って巧はその女性のうちで最も背の低い茶色い髪の毛に女性を指差す。
「君は確かールカちゃんだっけか。学生時代は髪は染めてなかったよね」
 そう言って二人目のメガネをかけ、髪を後ろでまとめている子を指差す。
「君は確か夏希ちゃん。確か前はコンタクトだったっけか」
 そして最後の黒髪を長く伸ばしている女性に目を移す。
「んで君が確かーマヤちゃん。前はもっと髪が短かったよね?」
「ふふ、よくぞ見破りましたね先輩」
 ルカと呼ばれた女性が不敵にそのように言うが、見破ったもなにも知り合いであるのだから名前を知ってるのは当然である。
「しかし今日こそ年貢が百年目ですよ」
 夏希と呼ばれた女性がなぜかメガネを外し、目を閉じてそのように言うがまず用法が違う。
「先輩ですよね!?こういう趣味が悪いことしてるのは!」
 マヤと呼ばれた女性の言葉を掛け声に三人は一斉にまるで水戸黄門の印籠かのようにスマホの画面をこちらに向けた。
 果たして、その画面は三つともTwitterの美香のアカウント画面になっているのであった。

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