【ネタバレ有り】ロック母 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2007年6月に講談社から出版
ロック母の主要登場人物
私※田所のおばちゃんから「キヨちゃん」と呼ばれるもはっきりとした名前表記なし
臨月を迎える主人公。10年ぶりに生まれ育った島に帰郷する。
母※名前表記なし
25歳で見合結婚して以来島に住み続けている。最近人生に嫌気がさし、離婚を画策するも止められ、近所に響き渡るほどの爆音で音楽を聴くことが唯一の現実逃避になっている。
父※田所のおばちゃんから「マサさん」と呼ばれるもはっきりとした名前表記なし
島の蜜柑工場に務めている。無口で不愛想だが、ギャンブルはせず酒も飲みすぎることはない。妻が突然家事を放棄したので代わりに洗濯等を行う。
田所のおばちゃん
実家の三軒隣に住む母のいとこ。母から熟年離婚を相談され止める。
ロック母 の簡単なあらすじ
18歳のときに島の生活が嫌で東京に上京した私は、臨月を迎える大きいお腹で10年ぶりに実家のある島に帰郷します。時間の経過を感じさせないほど、ほとんど変わっていない島の様子に驚きますが、さらに驚いたのは母です。一切の家事を放棄し、日中は家中に響き渡る大音量でCDをかけ続ています。人生に嫌気がさし、現実逃避しているらしい母に困惑しつつ、私は出産の日を迎えます。
ロック母 の起承転結
【起】ロック母 のあらすじ①
18歳のときに島の生活が嫌で東京に上京した私は、臨月を迎える大きいお腹で10年ぶりに実家のある島に帰郷します。
時間の経過を感じさせないほど、ほとんど変わっていない島の様子に驚き、過去嫌悪していた窮屈で毎日変わり映えの無い島での生活に思いを馳せます。
船を使わなければ高校まで行けないことや、娯楽施設はもちろん、イタリアンやカフェもない、あるのは青い空と海、蜜柑だけのこの島を一刻も早く出るのが私の希望でした。
そんな島を毛嫌いしていた私が、なぜ帰郷したのかというと、生まれてくる赤ちゃんを父と母に祝福して欲しかったからです。
しかし、久しぶりに会う父は相変わらず無愛想で無口で、赤ちゃんについて聞いてこなければ興味もなさそうです。
母にいたっては、大きいお腹を見て見ぬふりを続け、ようやく発した言葉は『で、あんた、どこで産むつもりなん』。
迷惑そうな顔を隠そうともせず聞いてくる始末で、早々に私の目論見は外れてしまいます。
【承】ロック母 のあらすじ②
港まで迎えに来た父が母について『ちっとおかしゅうなっとる』と雑な説明をしますが、再会した母は以前と何ら変わりなく見えます。
安堵したのも束の間、あくる日、家中に響き渡る大音量で母はCDを流し続けます。
そのCDは高校生の頃に私が聴いていたガンズ・アンド・ローゼズや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、U2、ポーグス、ピストルズ等のラインナップ。
とくにお気に入りなのがニルヴァーナで、何枚かかけた後は、きまってニルヴァーナを夕方までリピートし続けます。
一切の家事を放棄し、古い和服をほどいて小さな人形に着せるような和服を縫って過ごし、夕方になるとふらっと家を出て、近所のおばちゃん達とお茶をして帰って来ます。
夕飯は外食かカップラーメンやお弁当で、私が帰郷するまでは父が代わりに洗濯をしていました。
母の変わり果てた姿に唖然とし、近所からの苦情を心配しますが、東京の近所と島の近所では距離感が全然違うから問題ないという母の言葉に何も言い返すことができません。
【転】ロック母 のあらすじ③
三軒隣の田所のおばちゃん曰く、母の異変は今年あたまからで、突然人生に嫌気がさしたとのことでした。
熟年離婚を相談された田所のおばちゃんは母を思いとどまらせ、自分の世界を見つけることを勧めます。
その結果が、大音量でニルヴァーナを聴きながら人形の和服を縫うことでした。
かつて島での生活から一刻も早く抜け出したかった高校生の自分と、現実から逃げたい現在の母の姿が重なり、不可解に思えた母の行動に少し理解を持ちます。
そんな私はいよいよお腹が大きくり、出産が近づいてきます。
父や母、田所のおばちゃんには、赤ちゃんの父親は仕事が忙しく一緒に戻ってこれなかったと説明していましたが、実際は五つ年下のその男は父親になることを拒否し、堕胎をすすめました。
夫となるべき人の代わりに、母や父に体の心配をしてもらったり、ちやほやしてもらいたかった私ですが、現実は誰も歓迎してはくれませんでした。
産むことも堕ろすことも決められないまま今日まできて、結果的にシングルマザーになる近い将来を憂います。
【結】ロック母 のあらすじ④
フェリーを乗り継ぎ病院へ向かった私と母は、出産予定日を一週間後に控え入院手続きをします。
外で見る母は、ニルヴァーナに憑りつかれた母ではなく、以前と何ら変わらないように見えました。
そして自分もこれから先、母のように現実逃避しながらこの島で生きていくのかとぼんやりとした気持ちで考えます。
生まれてくる我が子も、かつての自分と同じように変わり映えの無い島での日々に苛立ちながらニルヴァーナを聴いて現実から逃げるのか……。
いざお産がはじまると、私は激痛に悶えます。
横で見守る母が、私の耳にイヤホンをつっこみます。
流れてきたのは大音量のニルヴァーナです。
『ディナイ』が『出ない』に聞こえ、それじゃ困ると朦朧とした頭の中でツッコミます。
ニルヴァーナのアルバム曲「スコフ」に合わせて呼吸法をする私は馬鹿馬鹿しくなって力が抜けてきます。
排便に近い感覚のあと、ついに赤ちゃんがお腹から出てくると、母も緊張が解けたのか耳元で絶叫して泣きだします。
赤ちゃんの泣き声に母の絶叫、ニルヴァーナで病室は騒々しさに包まれます。
ロック母 を読んだ読書感想
川端康成賞受賞作の本作は、短い話ながらパンチの効いた作品です。
淡々と話しが進み、フィナーレのお腹の赤ちゃん誕生の爆発力が凄まじいです。
赤ちゃんの泣き声に母の絶叫にニルヴァーナで大合唱です。
産むことも堕ろすことも決められないまま、結果覚悟もないままシングルマザーになる主人公に、熟年離婚を考え現実逃避する母、解決しようとしない父に出てくる人みんなだめですが、そんなだめな家族でも家族は家族。
理想の家族とは程遠くても、これが現実なんだよな……と諦めに近い気持ちで受け入れる姿がリアルで、自分と重ねて読んでいました。
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