【ネタバレ有り】カチカチ山 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:太宰治 1945(昭和20)年10月に筑摩書房から出版
カチカチ山の主要登場人物
うさぎ
十六歳の処女。月の女神ディアーナのように美しいが、若く美しい女性が往々そうであるように、醜いものに対して極めて残酷です。
狸(たぬき)
三十七歳。中年。デブ。不潔。臭い。無神経で厚かましい。うさぎに親切だった老夫婦に、食べられそうになって反撃しますが、うさぎに憎悪されます。しかし本人はうさぎへの助平心で目が曇り、うさぎの本心に気づきません。
お爺さん(おじいさん)
昔話に出てくる、フツーのお爺さん。畑にいたずらする狸を捕まえ、狸汁にするよう、お婆さんに指示しました。
お婆さん(おばあさん)
これまたフツーのお婆さん。お爺さんに言われて狸を調理しようとしたところを返り討ちされ、逆に調理されてしまいます。
カチカチ山 の簡単なあらすじ
昔々、河口湖畔にお爺さんとお婆さんが住んでいました。ある日お爺さんは、畑にいたずらしていた狸を捕まえ、狸汁にするようお婆さんに言って出かけます。 すると狸は人の好いお婆さんを騙して縄を解かせ、お婆さんを殺して食べてしまいます。 狸本人から、そのことを聞いたうさぎは、老夫婦に恩を受けたことを理由に、日頃から忌まわしく感じていた狸への懲罰を決意します。
カチカチ山 の起承転結
【起】カチカチ山 のあらすじ①
『カチカチ山』の物語には納得できないことが多いと作者は考えます。
児童読み物だと、狸はお婆さんをひっかいて逃げただけ。
それなのに、うさぎの報復は執拗で、なぶり殺しと言っても良い。
そのせいかどうか、小さなお子さんが、 「たぬきさんかわいそう」 と、狸に同情することもあると、作者は指摘します。
では、伝承にあるように、狸はお婆さんを騙して殺し、食べて骨を縁の下にばらまいたのだとしたらどうでしょう。
作者はそれでも、うさぎによる狸へのだまし討ちは正当化されないと考えます。
うさぎがどれだけ非力だったとしても、仇討ちは正々堂々となされなければ意味がない。
力は修行でつければ良いのです。
実際には、うさぎは詭計を用いて狸の背中に大火傷を負わせ、さらに変装してそこに唐辛子を擦り込み、さんざん痛がらせてから、泥舟に乗せて溺死させてしまいます。
どうしたら、ここまで残虐な仕打ちができるのでしょうか。
作者は、うさぎは十六歳のうら若き処女で、しかも月の女神アルテミスさながらの美貌と残酷さを備えている一方、狸はデブかつ愚鈍大食で、風采の上がらぬ中年男であったに違いないと結論します。
お話は、そんな狸がお婆さんを殺して食べ、山に逃げ帰ってきた場面から始まります。
【承】カチカチ山 のあらすじ②
「よろこんでくれ!おれは命拾いをしたぞ」 狸は、うさぎに会うと、いかに自分が知恵を働かせ、勇気に溢れて行動したかを、得意になって語りました。
しかしうさぎは、前からこのデブの中年狸が嫌いでした。
喋りながら虫やウンコを食べるし、年齢も容貌も生活態度も価値観もうさぎとは正反対なのに、うさぎの愛人になろうとして、自分を売り込みにくるからです。
しかもそいつは今回、うさぎを可愛がってくれたお婆さんを謀殺し、汁の具にして食べ、ショックでお爺さんを寝つかせておきながら、そのことを自分の生存力の高さだと、うさぎに自慢しにきているのです。
うさぎが自分の勇気と機転に惚れ惚れとし、褒めてくれると信じているのです。
「あの爺さん婆さんは、私のお友達よ。
知らなかったの?嘘だわ。
あなたは私の敵よ」 狸はオロオロし下手な言い訳をしますが、眼の前に虫がいたので、つい食べてしまいます。
その姿を見て、うさぎの心は決まります。
懲罰です。
うさぎは狸に、こうもちかけました。
「お爺さんの代わりに芝刈りに行ってくれたら、許してあげる」 狸が喜んだのは言うまでもありません。
【転】カチカチ山 のあらすじ③
翌朝、うさぎは狸と山で芝刈りをし帰途につきました。
うさぎは狸を先に歩かせると、火打ち石を使って背後から狸の芝に火を放ちました。
「おや、カチカチと変な音がする」 「当たり前じゃないの。
ここはカチカチ山だもの」 「パチパチボウボウと音がする」 「当たり前じゃないの。
ここはパチパチボウボウ山だもの」 可愛いうさぎの言うことは何でも信じる狸は、大火傷を負って巣に戻りますが、騙されたとは露ほども思いません。
そこに、クスリ売りに化けたうさぎがやってきて、唐辛子を狸の火傷に塗り込もうとします。
ところが、これを色白になれるクスリと勘違いした狸は、顔にまで塗ってしまい七転八倒。
しかし、可愛いうさぎの気を惹くためだと健気に我慢します。
やがてしぶとくも全快し、笑顔でうさぎのもとに顔を出した狸を見て、うさぎは心底うんざりし、 「河口湖で美味しい鮒を釣りましょうよ」 と誘います。
そして狸を騙して泥舟に乗せると、泥舟は湖の真ん中で溶け出し、狸は大慌てでうさぎに救助を求めます。
「うるさいわね。
泥の舟だもの。
どうせ沈むわ。
わからなかったの?」 狸はわけが分かりません。
なぜこんな目に遭うのでしょう?うさぎは何を怒っているのでしょう?
【結】カチカチ山 のあらすじ④
狸にしてみれば、老夫婦を傷つけたのは、自分を護るためでした。
お婆さんを食べてしまったのは、その辺の虫やウンコを食べてしまうのと同じで、本能からくる反射的行動でした。
うさぎには嫌われているとは思っておらず、生来の厚かましさからか、逆にかなり好かれていると信じていました。
「冗談はいい加減よせ。
腕を伸ばして、その櫂を差し伸べてくれ」 狸は懇願します。
しかし、うさぎは櫂を差し伸べるどころか、それで狸を殴り始めました。
「あいたたた、何をするんだ。
櫂で殴りやがって。
そうか、わかった。
お前はおれを殺す気だな」 ここへきて、ようやく狸はうさぎの殺意に気が付きました。
しかし、時既に遅く泥の舟は完全に沈没。
泳げぬ狸は水を掻いてもがきます。
そこに、櫂を握ったうさぎの容赦ない打撃が、何度も何度も…。
湖に沈みながら、狸はうさぎにこう叫びました。
「ひどいじゃないか。
おれはお前にどんな悪いことをしたのだ。
惚れたが悪いか」 そう。
惚れたが悪いか。
古来、世界中の文芸の哀しいテーマは、一にここにかかっていると、作者は深く頷きます。
湖面から狸の姿は消え、一人残ったうさぎはこう呟くのでした。
「おお、ひどい汗」
カチカチ山 を読んだ読書感想
この作品は、『御伽草子』としてまとめられた短編集の中の一編です。
大学時代、付き合っていた女性に薦められて、この作品を知りました。
それまでは、太宰治というと心中事件とか、『人間失格』とかのイメージがあって、面倒臭そうだと敬遠していたのですが、この短編集を読んで、評価が逆転しました。
(人間の才能って、何なのかな?) そんなことも、考えるキッカケになりました。
この短編集のどの作品にも言えることですが、太宰お得意の自虐が、見事なユーモアに昇華されています。
。
中でもこの『カチカチ山』は、私にとってお気に入りの一作です。
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