【ネタバレ有り】フーガはユーガ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:伊坂幸太郎 2018年11月に実業之日本社から出版
フーガはユーガの主要登場人物
常盤優我(ときわゆうが)
主人公。常盤風我と双子で兄。風我より2時間先に生まれ、毎年誕生日になると2時間ごと二人の場所が入れ替わる。勉強が得意で高校、大学に進学した。控えめな性格。
常盤風我(ときわふうが)
常盤優我の弟。優我より2時間後に生まれた。運動が得意で口が悪い。
父親(ちちおや)
優我と風我視点では主にあの男と呼ばれる。二人に理不尽な暴力をふるう。ガタイが良く喧嘩が強い。
高杉(たかすぎ)
富裕層の子供で残虐な方法で子供を殺してきた。作品冒頭では番組制作者として優我に能力の取材をしているが実は常盤双子が子供のころに起こったひき逃げの犯人であったことが判明する。
ワタヤホコル
常盤双子の同級生。あだ名はワタボコリ。控えめで静かな性格でいじめられていたのを常盤双子が何度か助けた。高杉に拉致された優我を助けるキーパーソン。
フーガはユーガ の簡単なあらすじ
2時間差でうまれた双子、優我と風我の幼いころの記憶は父親に暴力を振るわれる僕を眺める僕。変わってあげなくちゃ。助けてあげないと。次の瞬間には僕が殴られている。不幸な双子が授かったのは不思議な特殊能力。双子はまさに一心同体である。この能力の発動条件は誕生日であること。特徴は2時間おきに必ず入れ替わるということ。顔がそっくりな一卵性双生児であるから入れ替わった後は誰にも気づかれない。この能力で双子はヒーローになる。
フーガはユーガ の起承転結
【起】フーガはユーガ のあらすじ①
双子が初めて能力を使ったのは5歳の頃。
双子目線でいうなれば、父親から理不尽な暴力を受ける僕を救ってあげたいという一心で僕は僕を、幼いながらの知恵を使って救い出しました。
僕を助けてくれたのは僕でした。
これが初めて双子が能力を使ったとき。
兄の優我は今、ファミレスで都内のディレクターを名乗る高杉と話しています。
高杉が優我に疑うように突き付けてきた映像はトイレの個室を盗撮したもので、映像の中の優我は便座の上に座った状態から立ち上がる動作もなく、一瞬のうちに立ち上がっていました。
しかも立ち上がる前にはなかった絆創膏が優我の頬に。
ことの事実を述べたくないのかはっきりしない優我に高杉の厳しい視線が刺さります。
「言っておきますけど、僕がしゃべることには嘘や省略がたくさんあります」という僕に嘘を見抜くのは得意なのだと、高杉は優我もう一度動画を見せました。
「面白かったらテレビに出れるんですか?」と優我は能力に関する出来事を話すことにしました。
優我たち双子がその能力を初めて使ったのは五歳の頃。
再び双子目線で言うなれば、父親に殴られる僕を助けたいと願ったとき、全身にピリピリとした感覚が走り、次の瞬間には僕は殴られている僕になっていました。
不思議な感覚の次の瞬間には入れ替わっていたのです。
実際、最初に殴られていたのは双子の弟、運動が得意な『風我』でそれを見ていたのが双子の兄、勉強が得意な『優我』。
つまり双子目線の語り手、僕です。
この能力を自覚したのは小学校の授業中。
あの時と同じピリピリとした感覚の次の瞬間には双子の場所は入れかわっていました。
何度かこの能力が発動されるうちに誕生日限定、つまり一年に一回のみ、それも二時間おきに発動されるということに気づきました。
【承】フーガはユーガ のあらすじ②
双子が帰る家には暴力をふるう父親、無関心な母親、うるさいと腹を立て謝罪を求める近所の住人。
当然帰りたいと思うはずもなく、道草を食う日々。
中学性の頃には偏屈で素性不詳の『岩窟おばさん』が営むリサイクルショップで働いて時間をつぶしていました。
ある日その岩窟おばさんから「処分してほしい」と釘が刺さり、血濡れたような色のシロクマのぬいぐるみを渡されます。
そんな不気味なシロクマを片手に夕方の町を歩いていたところ、小学校からのいじめられっ子『ワタボコリ』のいじめの現場に遭遇しました。
特に仲良くもないワタボコリ。
助ける理由もありませんでしたが、正義感というよりは日ごろの憂さ晴らし。
偉そうにする広尾と父親を重ね、腹を立てたから。
いじめっ子の主犯格、広尾に向かって影から石を投げ、一目散にその場を離れました。
何とか逃げ切り、爽快感を感じた双子は現場に戻ってワタボコリと合流します。
ところで処分を頼まれたシロクマですがワタボコリと双子と三人、帰路で出会った『家出をしてきたという女子小学生』に半強制的に渡します。
「何かあった時持っていればお守りになる」と言って。
今ではそのシロクマと小学生は忘れられたくても忘れられない記憶です。
それもそのはず。
その小学生は三人と別れた直後、ひき逃げに遭い、亡くなっていたから。
しかも単なる事故ではなく殺されたのだと、木に縛り付けられ何度も木と車の間で押しつぶされたのだと、耳にしたからでした。
一方、双子に石をぶつけられた広尾の怒りの矛先はワタボコリに向き、ワタボコリを的に石を投げるまでに発展。
「お前は一生やられる側で生きていくんだな」広尾がワタボコリに向け、言い放った言葉は双子の感情を高ぶらせました。
双子の特殊能力のもう一つの真実。
それは持ち上げられるものならば一緒に移動できるということ。
偶然にもこの日は誕生日でした。
風我はあたかもいじめに参加するかのように装い、使われなくなった埃っぽい倉庫に閉じ込めます。
そして風我自身も倉庫の中に隠れました。
そう。
今日は一年に一回の誕生日。
その瞬間が訪れるとき風我はワタボコリの手を取り、優我と場所を変わりました。
視点は変わって兄の優我。
埃っぽい倉庫の扉の隙間から、どこから出てきたかわからないワタボコリに驚く広尾の声が聴こえました。
【転】フーガはユーガ のあらすじ③
双子は中学を卒業し、勉強が得意な兄の優我は高校に進学、不得意な風我は岩窟おばさんのリサイクルショップで働き始め、双子は初めて離れ離れになりました。
頻度は減ったものの、顔を合わせればお互いの経験を共有し、一心同体そのものになっていました。
一番大きく変わったことは風我に彼女ができたこと。
小玉には両親がおらず、叔父の家に世話になっているが、居心地が悪い、と家にはあまり帰りたくない様子でした。
ある日、風我が仕事で回収したパソコンから悪趣味な性癖を慰めるためのショーがあるという情報を得ます。
それは裸にした女性を大きなガラス張りの水槽に沈め、苦しむ様子を楽しむというものでした。
小玉の叔父と繋がりを見つけ、家に帰りたくないという小玉の状況や荒手な情報収集から、その沈められている女性は小玉だと確信を持ちます。
小玉救出の日、本来ならば小玉と風我は遊園地に行くはずでした。
優我は叔父の家にショーの観客として忍び込み、小玉が沈められる様子を涼しい顔を装って眺めます。
風我は街に出て、店の試着室に。
刻々とその時間が近づきます。
優我は立ち上がりほかの観客に変身ヒーローがいるか、と問いかけます。
唖然として優我を見る観客。
「変身。」
次の瞬間、優我は試着室に。
風我はショーが開催されている叔父の家に。
入れ替わる直前、脳裏をよぎったのはあの小学生でした。
双子は困った人を助け、心の穴を埋めたのです。
時は進み、優我は大学進学とともに家を離れました。
風我は以前から小玉と暮らしており、やっと父親の元を離れた双子。
優我はコンビニでのバイト中にある親子と出会います。
若い母親のハルコさんと小学生の男の子ハルタ君で、最初は姉弟と間違うほど。
親子と仲良くなり始めたころ、優我の住む地域では小学生の失踪事件が起きていました。
優我は失踪事件のせいで落ち込むハルタ君を元気づけるため、双子の誕生日に遊園地に誘います。
ハルタ君はサッカークラブの練習があるというので2時の入れ替わりを狙って双子は遊園地に向かいます。
そこで事件は起きます。
ハルタ君が帰ってこないのです。
優我はふと、コンビニで父親に遭ったことを思い出します。
それもハルコさんとハルタ君と親しげに話す様子を目撃されていました。
優我は全速力で父親と住んでいたアパートに向かいます。
そこには父親と服のはだけたハルコさんがいました。
「ハルコさんごめんなさい。
行って。
全部忘れてください」
【結】フーガはユーガ のあらすじ④
「弟さんはなくなったのか」回想が終わってファミレスで話す、優我と高杉。
あの後、優我が怒りに任せて父親を殴っているとき、時は来ました。
優我は風我がこもっていたトイレに。
風我は父親の家にいました。
優我は急いでアパートに向かいますがそこに風我と父親の姿はなく、風我が逃げ出した父親を追って行ったのだと察しました。
風我たちのあとを追うと、激しく燃える車と、道をそれて倒れる風我がいました。
「じゃああのトイレの映像はフェイクなんだな」という高杉に優我はいつからかいなくなった母親を探すためにテレビに出たいのだと弁明します。
「僕からの説明だとわからないらしいから、車にあるビデオカメラで撮ってもいいか」と上司との電話を終え、優我に尋ねる高杉。
ファミレスをでて、高杉が車から取り出したのはビデオカメラとは似ても似つかないもの。
途端に頭に鋭い痛みを感じた優我の記憶はそこで途切れます。
なぜここで油断したのか。
ワタヤホコルが優我に会ったのはこの日の夕方でした。
ワタヤホコルが経営するサイバーセキュリティの店に優我は訪れました。
思い出話も虚しく優我は唐突に「あの時のシロクマを覚えているか。
今から挽回しに行こう」と誘い掛けましたがワタヤホコルの妻、ワタヤサトミを見ると巻き込んではいけないといった様子で店を出ていきました。
記憶に残るシロクマのせいか、気になり優我の後をつけてファミレスに入ります。
始め、優我は一人の男と何やら話し合っている様子でしたが、終いには強制的に車に乗せられた優我。
駐車場に残る鮮血。
ワタヤホコルは急いで優我を乗せた車のの後を追います。
ワタヤホコルにとって鍵の解錠はお手の物。
優我が監禁された豪邸の地下室に侵入しました。
「風我?」目を覚ました優我に状況を説明し脱出を試みようとした直後、猟銃を持った男、高杉に打たれてしまうワタヤホコルと優我。
優我の傷は致命的でした。
絶体絶命のこの状況の中、優我には一つ嘘を、一つ省略していたことがありました。
それは風我が死んでいないということ。
そして誕生日が今日だということ。
「俺の弟は、俺よりも結構、元気だよ」あのひき逃げ事件、小学生の失踪、この事件を結びつけたのはあのシロクマでした。
奇跡的に脱出した小学生が部屋にシロクマがあったと言ったのです。
時は過ぎ、風我と小玉の間には双子が。
そして、あの入れ替わり能力は優我が亡くなったことで起こらなくなっていました。
フーガはユーガ を読んだ読書感想
まず話の冒頭部分。
何が何だか全く分かりませんでした。
はずれを引いてしまったにかと思いましたがパズルのピースが一つずつ組み立てられるように、事の次第がわかった途端、心の靄が晴れて気持ち良かったです。
そして結果的にはディレクターの高杉を懲らしめることが双子の目的であったと判明しましたが、まさか報復の相手が現在進行形で至近距離にいるとは、まったく想定外でした。
疑問を抱かせて、複線をばらまき、きれいに回収していく。
それでもって勧善懲悪。
最後に善が勝つ。
伊坂幸太郎先生のワールド全開でとても痛快な物語です。
今回はセリフの伏線が多かった気がします。
特に兄の優我。
優我より先に風我が亡くなってしまったのかと思いましたが、「俺の弟は、俺より結構、元気だよ」このセリフを見事に実現させて、とても後味のすっきりした作品だと思います。
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