「空中庭園」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|角田光代

「空中庭園」

【ネタバレ有り】空中庭園 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:角田光代 2002年11月に文藝春秋から出版

空中庭園の主要登場人物

京橋絵里子(きょうはしえりこ)
ヒロイン。高校卒業後に宅配会社に就職。結婚と出産を経て現在はうどん屋のパート店員。

京橋マナ(きょうはしまな)
絵里子の娘。高校1年生。

京橋貴史(きょうはしたかし)
絵里子の夫。

京橋コウ(きょうはしこう)
絵里子の息子。中学3年生。

空中庭園 の簡単なあらすじ

とある地方都市のマンションの一室で暮らしている京橋絵里子たち4人家族は、「何ごともつつみかくさず、すべてを分かち合おう」というモットーのもとで一致団結しています。妻としても母親としても理想的な家庭を築き上げてきたはずの絵里子の人生設計は、それぞれが抱えている些細な秘密から次第に不協和音が高まっていくのでした。

空中庭園 の起承転結

【起】空中庭園 のあらすじ①

ホテル野猿で生まれて早16年

京橋マナは両親が高速道路のインター近くにあるラブホテルで愛し合った結果自らが誕生したと聞いて、ボーイフレンドの森崎と一緒に「ホテル野猿」を訪ねてみることにしました。

せっかくふたりでホテルにチェックインしたのにも関わらず、マナと森崎は一線を越えることが出来ません。

それ以来森崎と気まずくなってしまったマナは、学校が終わると寄り道もせずに家に帰る日が続いています。せっかくの16歳の誕生日を迎えながらも独りぼっちのマナが学校をサボって向かった先は、郊外型巨大ショッピングモール「ディスカバリー・センター」です。館内で絵里子の姿を目撃したマナは、このところ帰宅時間が遅い母親が浮気をしていると勘違いして尾行を開始します。絵里子の面会相手は若い女性で、単なるパート先の同僚でした。自宅では家族が誕生パーティーの準備に取りかかっているはずでしたが、マナはファーストフード店で声をかけてきた見ず知らずの男性とホテル野猿に行くのでした。

【承】空中庭園 のあらすじ②

ホームドラマのように幸せな食卓

京橋貴史が絵里子と出会ったのは、大学在学中のアルバイト先です。

予想外の絵里子の妊娠によって、貴史は20歳にして大学中退と結婚を余儀なくされます。

警備会社の正社員から友達と立ち上げた有限会社、家庭教師組合に果ては胡散臭げなニューエイジグッズの販売会社まで。

結婚以来転職を繰り返してきましたが、いずれも長続きすることなく未だに実家から経済的な援助を受けていました。

ここ5年ほどは妻とめっきり会話が噛み合わなくなり、夫婦関係もありません。

何時しか浮気を繰り返すようになった貴史は、最近ではデザイン会社に勤務する「ミーナ」こと北野三奈にすっかり夢中です。

久しぶりに夕食前に帰宅したある日のこと、自宅の居間にはミーナがいます。来週から長男のコウの家庭教師をすることになったと紹介されても、貴史はまるで理解することが出来ません。

何食わぬ顔で妻とふたりの子供たちと一緒に食事をするミーナに習い、貴史は良き父親を演じることにしました。

【転】空中庭園 のあらすじ③

私だけの箱庭

京橋絵里子の実家は夫と子供たちと暮らしている集合住宅「グランドアーバンメゾン」からは、電車とバスを乗り継いで30分程度しか離れていません。

いつものように母親の木ノ崎さと子から買い物を頼まれた末に、半日余りに渡って愚痴を聞かされた末にようやく解放されました。

絵里子が中学1年生の時に父親が亡くなり、3年間をほとんど家で過ごした記憶が未だに母への負い目になっています。

高校に何とか進学した絵里子が考えたのは、自分だけの家族を作り上げて実家から脱出することです。

「何ごともつつみかくさず」が一家の家庭方針でしたが、絵里子にも皆に隠していることがひとつだけありました。

貴史は自分の失敗が原因で絵里子が妊娠したと今でも信じているようでしたが、15歳の時から基礎体温表を付けていた絵里子には全てが計算通りです。

ディスカバリー・センターで買ってきた苗を自宅のテラスに植えながら、絵里子は空中庭園を作ることに熱中していきます。

【結】空中庭園 のあらすじ④

秘密だらけの家にみんなで帰ろう

京橋コウが初めて山下美園の家に遊びに行ったのは、中学2年生の時でした。

同じ集合住宅に住んでいる彼女とは学校も一緒でしたが、学年がひとつ上のために校内ではほとんど言葉を交わすことはありません。

放課後に待ち合わせてディスカバリー・センターでデートをするのがふたりの楽しみでしたが、今日は寄り道せずに入院している祖母のさと子の様子を見にいきます。

お見舞いの後にコウたちが案内されたのは、ナースステーション脇のホワイトボードとテーブルが置かれた部屋です。

母の絵里子に父・貴史、姉のマナに加えて長らく会っていなかった母の兄夫婦まで。

親族一同が勢揃いした後に、主治医からさと子の検査結果について説明されました。

結果は甲状腺がんでしたが、進行のゆっくりした分子がんのために当分は心配ないようです。

医師の説明が終わってみんなでエレベーターホールに向かう途中、絵里子は兄からさと子の意外な一面を聞かされます。

口を開けば絵里子の話ばかりしていること、娘や孫たちと会うことが何よりもの楽しみであること。

バス乗り場で伯父夫婦と別れたコウたちはそれぞれが思い思いの席に座って、走り出した車内から窓の外に目をやるのでした。

空中庭園 を読んだ読書感想

物語の舞台に設定されている、郊外の集合住宅ならではの均一化された生活風景が印象深かったです。

チェーン店やディスカウントショップが立ち並んでいるショッピングセンターの無機質と重なり合っていき、不吉な予感を感じてしまいました。

絶対に秘密を作らないはずの京橋一家の平穏無事な日々が、些細な秘密からあっという間にバラバラになっていく展開には何とも皮肉な味わいがあります。

母親への憎しみから自分だけの幸せな家庭を築こうとしていたヒロインの京橋絵里子が、クライマックス近くで母の愛に気付くシーンが特に良かったです。

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