「ばかもの」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|絲山秋子

ばかもの(絲山秋子)

【ネタバレ有り】ばかもの のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:絲山秋子 2008年9月に新潮社から出版

ばかものの主要登場人物

大須秀成(おおすひでなり)
主人公。大学卒業後に家電量販店に就職。

吉竹額子(よしたけがくこ)
スーパーマーケットの店員。

山根ユキ(やまねゆき)
ヒデの大学時代の友人。愛称は「ネユキ」。

加藤(かとう)
ヒデの大学時代の友人。

翔子(しょうこ)
中学校の教師。

ばかもの の簡単なあらすじ

大学にも実家にも居場所の無さを感じていた大須秀成こと「ヒデ」が出会ったのは、アルバイト先の年上女性・吉竹額子です。自由気ままに生きる額子は散々ヒデを振り回した挙げ句、別の男性との結婚して何処かへ行ってしまいます。次第にアルコール依存性に悩まされていくヒデは、彼女の身に降りかかった思わぬ出来事を知ることになるのでした。

ばかもの の起承転結

【起】ばかもの のあらすじ①

モラトリアム学生と自由奔放な女性

群馬県内の大学に通う大須秀成は、キャンパス内では「ヒデ」というニックネームで呼ばれていました。就職活動にもいまいち身が入らずに、単位取得もレポート提出もサボりがちで卒業できるか怪しいです。

仲の良い加藤は県内の高級ホテルに早々と就職を決めたようで、数少ない女友達の「ネユキ」こと山根ゆきは相変わらず引きこもっています。

ヒデは週に5回ほど午前中の4時間、郊外の畑の中にあるスーパーマーケットでアルバイトをしていました。

バックヤードで次々に入荷されてくる野菜を分類しながら、フルーツをカットしてパッキングする流れ作業です。何時ものように仕事終わりに自転車に乗って帰宅しようとしていたヒデは、惣菜部門で働く年上女性・吉竹額子に呼び止められます。誘われるままに額子が運転する車に乗り込んで、映画館や定食屋を廻った末に彼女のアパートて一夜を共にしました。退屈な実家暮らしや学校から目を背けるかのように、ヒデは額子との関係に溺れていきます。

【承】ばかもの のあらすじ②

荒んでいくヒデの日常

突如として結婚を宣言した額子はヒデの前から忽然と姿を消してしまい、それ以来どこにいるのかも分かりません。

ネユキは大学を辞めて東京のマンションへ引っ越して行き、デイトレーダーとしてかなりの金額を儲けているようです。

ヒデが自分の部屋で毎日のようにテレビを見ながらお酒を飲むようになったのは、その頃からでした。5年かかって何とか大学を卒業したヒデは、県内を中心にチェーン展開する家電量販店の営業部に就職が決まります。加藤とは卒業後も仕事が休みの日には会っていて、女子大出身で私立中学の教師をしている翔子を紹介されました。

ふたりはお付き合いを始めましたが、ヒデの酒癖は悪くなっていく一方で彼女との仲は上手くいきません。

会社も無断欠勤を続けるようになり、上司からは自主退職を促されてしまいます。

退職金を飲み代に使い果たし実家を追い出されたヒデは翔子のアパートに転がり込みますが、間もなく彼女にも見捨てられてしまうのでした。

【転】ばかもの のあらすじ③

酒との決別と新しい生活

ヒデはアルコール依存性の専門治療で有名な病院に入院して、社会復帰プログラムに参加することにしました。最初の2週間ほどは禁断症状や不眠症に苦しみましたが、徐々に肝機能が回復していきます。退院後には両親に頭を下げて実家に戻って、断酒会に通いつつラーメン屋でのバイトに励む毎日です。ネユキは怪しげな新興宗教にすっかりはまってしまい、加藤からも避けれれているようで大学時代の友達とはほとんど交流がありません。

高崎競馬場の裏を入ったところには額子の母親が切り盛りするおでん屋「よしたけ」があって、何度か連れて行ってもらったことがあります。

久しぶりに訪れたヒデに対して額子の母がカウンターから差し出したのは、お酒ではなく冷たいウーロン茶です。

夫の園芸店で働いていた額子が事故で左腕を失ってしまったこと、事故の後に離婚して今では片品で暮らしていること。額子の消息を聞いたヒデは、彼女に会いに行くことを決意するのでした。

【結】ばかもの のあらすじ④

変わり果てた額子と変わらないヒデの想い

片品は栃木県と群馬県の県境にある金精峠の手前にあたり、車で行けば高崎からもそれほど遠くありません。

しかしヒデは飲酒運転が原因で免許を取り消されているために、電車で沼田駅まで行ってバスに乗り換えて向かうことにしました。待ち合わせ場所の吹割の滝に現れたのは、薄手のコートの左の袖を安全ピンで胸の下に止めた額子です。

昔ながらの民家に独りで住んでいて、炊事洗濯から自動車の運転までを片手で器用にこなしています。右腕を洗うことと右のワキ毛を剃ることだけは、額子はひとりでは出来ません。

ヒデはスポンジタオルとボディソープで額子の右腕を綺麗にして、女性用のシェーバーで少しずつワキ毛を剃り落としました。この日以来ヒデは毎日のように額子にメールを送るようになって、アルバイトが休みの日には電車とバスを乗り継いで片品に通うようになります。もうすぐ免許の取り直しが可能なため、ヒデは車で額子に会いに行くことを楽しみにしているのでした。

ばかもの を読んだ読書感想

モラトリアム気味な大学生と勝ち気な年上の女性との、ごく普通の出会いからその後の壮絶な運命に引き込まれていきました。

アルコールに溺れていく主人公のヒデが見る不思議な幻覚や、入院から闘病を経て克服へと至るまでの経緯がリアリティー溢れています。

誰しもが何かの依存性に成りうる危険性と、行き場のない孤独感を抱えて生きていることを感じました。

身体の一部を失って変わり果てたヒロイン・額子と、都会から遠く離れた片品でヒデが再会するシーンが痛切です。

それぞれがお互いに足りないものを埋め合うかのように、共に歩んでいくラストに胸を打たれます。

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