【ネタバレ有り】愛のひだりがわ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:筒井康隆 2002年1月に岩波書店から出版
愛のひだりがわの主要登場人物
月岡愛(つきおかあい)
小学6年生。犬と会話が出来る。
真田一平(さなだいっぺい)
無職。愛称はご隠居さん。
内田志津恵(うちだしづえ)
詩人。
片貝サトル(かたがいさとる)
愛の同級生。生まれつき髪の毛が空色。
月岡忠弘(つきおかただひろ)
愛の父親。
愛のひだりがわ の簡単なあらすじ
月岡愛は5歳の時に野良犬に噛まれたのが原因で、左腕が不自由な女の子です。12歳になると母親が亡くなり、学校にもアルバイト先にも居場所がありません。母と自分を捨てて行方をくらませた父親を探す旅に出た愛は、多くの出会いと別れを経験していきます。押し寄せる数々の試練を乗り越えて、遂に父の居場所を突き止めるのでした。
愛のひだりがわ の起承転結
【起】愛のひだりがわ のあらすじ①
月岡愛の左腕は、5歳の時に大型犬のダンに噛まれて以来動かなくなってしまいました。
愛は生まれながらにして犬の言葉を理解出来る不思議なパワーが備わっていて、ダンの妻・デンとはそれ以降も仲良しです。
愛の母親が12歳で亡くなってからは不自由な方の腕を守るかのように、デンは左側についてきます。
母のお葬式にも来なかった父親に会いに行くために、愛は12年間を過ごした萩町を後にしました。
弱体化した警察の代わりに町をパトロールする自警団に連れ戻されそうになった時にデンは身を挺して守ってくれましたが、銃弾を受けて川に転落してしまいます。
デンと別れて落ち込んでいた愛を励ましてくれたのは、「ご隠居さん」の愛称で地元の人たちから親しまれている真田一平です。
デンの代わりに愛の左側を歩くようになり、父親探しに付き合ってくれます。
しつこく追いかけてきた自警団の一員ともみ合いになりご隠居さんは勢い余って相手を射殺してしまい、愛は再びひとりで旅を続けていくのでした。
【承】愛のひだりがわ のあらすじ②
ご隠居さんは警察に自首して取り調べを受けた結果、何とか正当防衛が認められそうです。
愛は萩町の皆とは2度と会うつもりはありませんでしたが、ただひとりの学校の友達・片貝サトルとだけは今でも携帯電話でコッソリと連絡を取っていました。
夏休み期間限定で愛のお手伝いに来てくれたサトルでしたが、道中に足を挫いてしまいます。
途方に暮れていたふたりを自宅に招いてくれたのは、主婦らしき中年の女性・内田志津恵です。
志津恵さんは詩を書くことが大好きでいつか著作を発表するのが夢でしたが、無教養で粗暴な内縁の夫はまるで理解しようとしません。
サトルには東京の出版社に勤めている叔父がいるために、詩を書き連ねた志津恵さんのノートを郵送するととんとん拍子に詩集の刊行が進んでいきます。
この町を出て詩人として生きていくことを誓った妻に対して、夫は怒り狂い泣き叫ぶばかりです。
やがてサトルの夏休みも終わりを告げ、愛のひとり旅は続きます。
【転】愛のひだりがわ のあらすじ③
駅前の広場で20匹以上の犬の群れを目撃した愛は、先頭に立つひと際巨大なリーダー犬に見覚えがありました。
話しかけてみると、5歳の時に愛の片腕に噛みついたダンであることが判明します。
多くの犬たちに囲まれて東京に辿り着いた愛は、「野犬の女王」や「犬姫様」といったキャッチフレーズですっかり有名です。
サトルの叔父さんの出版社を訪ねると父の写真を雑誌に載せて情報提供を呼びかけてくれて、取材費という名目でお金と住居まで提供してくれました。
サトルの叔父さんの案内で、あれから文学賞に輝いてサイン会まで開くようになった志津恵さんとも再会を果たします。
志津恵さんが保護者になることを申し出てくれたために、愛は学校に通うことも可能です。
勉強に励み喫茶店でアルバイトも始めた愛は、私立の中学校への入学を目指します。
父が3年前まで都内の工事現場で働いていたという情報が舞い込んできましたが、以前として現在の居場所は分かりません。
【結】愛のひだりがわ のあらすじ④
3年の月日が流れて中学生になった愛は、ようやく父に関する有力な手掛かりに辿り着きました。
名前は月岡忠弘で東中野にある荒物雑貨を作る工場で働いていたこと、あちこちに借金があり勤め先から妻子を置いてきた故郷へ向かったこと。
今でも萩町に住んでいるサトルに電話をして様子を見に行ってもらうと、かつて母が働いていた「おかめ」という小料理屋に居候しているようです。
記憶の中の理想的な父とは余りにかけ離れた姿のようですが、親族としては一目でも会っておかなければなりません。
中学校に休学届を提出してアルバイト先から餞別を貰い、トラック便で犬たちと共に東京を出発します。
萩町で大きく尻尾を振りながら愛を出迎えたのは、肩を撃たれながらも何とか生き延びていたデンです。
東京で犬姫として雑誌に乗った愛の帰還は、地元でも大騒ぎになります。
「おかめ」で対面した父は有名になった娘を当てにしていて一緒に暮らすことを懇願しますが、愛は亡き母と自らの恨みをぶつけるだけでその場を立ち去るだけです。
2度とこの町に戻らないと誓い東京に戻ることにした愛は、いつの間にか犬と会話をすることが出来なくなっていたのでした。
愛のひだりがわ を読んだ読書感想
ストーリー前半はファンタジー要素と幻想的なエピソードがたっぷりと盛り込まれていて、冒険物語として楽しむことが出来ました。
犬と少女が言葉を交わすシーンには、子供だけが持っている無限の可能性を感じます。
父親を探して旅を続けていくうちに、ヒロインの月岡愛が自然と肉親の不在を受け入れていく後半パートも感動的です。
ご隠居さんこと真田一平を精神的な父として、詩人として開花した内田志津恵を義理の母としていく展開も印象的でした。
大人になっていく愛が犬と会話を出来なくなってしまうラストには、純真無垢な少女時代が終わりを告げるようで何とも物悲しいです。
コメント