【ブラックのむこうがわ】第5話「まって、私の想像してた奴隷と違う」

ブラックの向こう側5

「……はぁ」

 メイドってなに。なんでメイド?色々覚悟してたのにまさかの「メイドをしろ」。そういえばありすちゃんもメイド服姿だったけど、まさかマスターに命令されて……?

「私は好きでやってるだけですよ」

「うぇ、声に出てた?」

「はい。それはもう」

 あぁ〜とそのままうずくまって穴に入ってしまいたいけど、いまはありすちゃんにメイド服の着方を教えてもらっている最中。ちゃんと聞かねば。

「メイド服のままで寝るとエプロンがしわくちゃになって悲惨なことになるので、そのまま寝ないようにしてくださいね」

 人生初のメイド服。生まれてこの方二十数年、よもやメイド服を着ることになろうとは思いもしなかった……。

「似合ってますよ、朝倉さん」

「あ、あはは……」

 二十代半ばの女性にメイド服が似合うって、ものすごく反応に困るんですけど。嬉しいといえば嬉しいけど、なんだか複雑だ。

「ご主人様から詳しい業務内容とか聞きました?」

「自炊したいが誰もできないからしてくれ……って言われました」

「概ね正しいですね。あとは家事を私といくつか分担してやるみたいなのもあります」

 まるで家政婦。というかまんま家政婦。まって、私の想像してた奴隷と違う。

「ね、ねぇありすちゃん。私達、奴隷なんだよね……?」

「そうですね、奴隷ですよ?」

「奴隷だったらこう、重労働を強いられて、お前の代わりなんていくらでもいるんだぞっていびられながらムチで叩かれたりして、夜は慰め物になったりとか……」

「ものすごい偏見ですねそれ。うちのご主人様はそんなことしませんよ。ああ見えて優しいので」

 あ、いま言ったことは内緒ですよ?と、唇に人差し指を当ててウィンクをするありすちゃん。かわいい。

 それにしても私の思っていた奴隷と全然違っていたんだけど……だめだ、カルチャーショックが大きすぎる。

「奴隷と言っても人なので、そんな道具みたいに扱ったりはしませんよ」

「それはなんか言動と合ってない気がするんだけど……」

 人を無理やり奴隷にさせたり、命令して無理やり言うことを聞かせたり、全体的に無理やりなのが違和感ある……。

「よく考えてみてくださいよ。もし奴隷を本当に道具みたいに扱ったらどうなりますか?」

「うーん……」

 腕を組んで考えてみる。もし道具みたいに扱ったらか……。私が昔いたブラック企業を思い出す。脳死状態で仕事をして終電帰り始発出勤……下手をすれば会社で寝泊まり……有給取れず、毎日出勤……月一の休み……。

「誰もちゃんと仕事ができなさそう……」

「ですよね」

 確かに理に適っていた。奴隷をモノではなく人として扱ってくれる。そんな職場。

「とりあえずお仕事しましょう!私についてきてくださいね」

 ありすちゃんの後ろについて歩いていく。メイドの仕事ってどんな感じなんだろうか。アニメとかでメイドが出てきて給仕をしているのは見たことあるけれど、実物は一度も見たことがなかった。

「洗濯物がそろそろ終わっているはずなので、まずは洗濯物を干しに行きましょう」

「洗濯物……」

 いきなり生活感あふれる仕事に、本当にみんなここに住んでるんだなという実感が湧く。と同時に、他の奴隷は一体どこにいるんだろうとも思った。私に引っ越しをしてくれた人もいるんだし、お礼くらいは言いたい。

 ありすちゃんは洗濯物を洗濯機から手際よく取り出して、それを二人で持って階段を上がり、屋上へ。ありすちゃん曰く、この階から上は全部ご主人さまの所有物件らしい。屋上はありすちゃんが毎日掃除をしているらしく、そこそこきれいだった。

「さぁて干しますよっ!」

 今日は晴天、絶好の洗濯日和。ありすちゃんに倣って、私も洗濯物を干していく。Tシャツ、ポロシャツ、ジーパン、下着、ハンカチ、バスタオル、パジャマ、着ぐるみめ、メイド服……生活感、ものすごいなぁ……。

「ねぇありすちゃん、他の奴隷さんはどちらにいるの……?」

「他の方ですか?この時間だとほとんどの人は外に出て稼いでいるか、部屋で稼いでますね」

「お話できる機会とかあるのかな」

「んーどうなんでしょう。食事のときも全員別々に食べてますし……」

「どういう食事スタイルなんですか……?」

「ご主人さまのための食事を作って、私達は社員食堂みたいな感じです。ただ私が料理できないので、これまでだいたい冷凍食品だったんですけど」

 しゃ、社員食堂なんて物語の中だけの存在かと思ってた……。

「と、ということは、私は全員分の食事を作る感じなんだ」

「そうですね。やっぱり冷凍食品だけだとお財布が厳しいですし、朝倉さんが来てくださってとっても助かります。もちろん私もできる限りは手伝いますっ!」

「だいたい何人分くらい作るんですか?」

「十人ぶんくらいです。日によって帰ってくる人の人数が変わるので、だいたいですけどね」

 十人ぶんを一人で作るのか……大変そうだけど、前の職場よりは圧倒的ましだった。

「はい、洗濯物おしまいっ。次はお掃除をしましょう。結構広いので、覚悟してくださいねっ?」

 

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