【ネタバレ有り】軽率の曖昧な軽さ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:中原昌也 2016年1月に河出書房新社から出版
軽率の曖昧な軽さの主要登場人物
わたし(わたし)
物語の語り手。作家。
伊藤(いとう)
オフィスビルの管理人。
石田(いしだ)
オフィスビルを訪ねてきた女性。
軽率の曖昧な軽さ の簡単なあらすじ
取材目的のために東浦和で開催されている怪しげなイベントに参加した「わたし」は、乱闘騒ぎへと発展した会場内で怪我を負ってしまいます。翌日に所用で訪れたオフィスビルでも不愉快な体験をしてしまい、気分は落ち込んでいく一方です。そんな不運続きの男の傷を癒すのは、ドイツ生まれの絶品スイーツとひとりの女性の存在でした。
軽率の曖昧な軽さ の起承転結
【起】軽率の曖昧な軽さ のあらすじ①
東浦和駅からは歩いて40分程度離れた辺鄙な場所にある、最新のプレハブ技術を結集して建てられた特設会場にわたしは辿り着きました。
体育館ほどの広さのある会場内は微かに薄暗い明かりが灯っているだけで、如何にも反社会的勢力の構成員めいた粗暴な男性客や嬌声をあげる水商売風の女性たちで一杯です。
突如として強烈なストロボが焚かれて、大音響でバンジョーの音やカントリーミュージックが鳴り響きます。
わたしはまるっきり面識のない男に右目付近を殴られますが、余りにも咄嗟のことで反撃出来ません。
場内では他にも身体にダメージを受けた来場者たちが出始めていて、負傷者が自分で傷の手当てをできるように絆創膏や消毒液が用意されています。
ご丁寧にもこのイベントのために看護師まで待機していたようで、既に怪我人の列でいっぱいです。
阿鼻叫喚の坩堝の中を、わたしはグラスや酒瓶の破片が散らばっている床を這うようにして命からがら脱出しました。
【承】軽率の曖昧な軽さ のあらすじ②
イベント会場を出たわたしは東浦和駅で電車に乗って、周囲の人たちから冷たい目線を浴びつつ自宅のある最寄り駅まで向かいました。
右目はますます腫れ上がっていく一方で、まるで試合を終えたボクサーのようです。
帰宅して傷の応急処置を終えたわたしは、バーボンウイスキーを煽り痛みを忘れようとします。
部屋の中は相変わらずの殺風景になり、ハンガーに吊るされた一張羅のスーツと道端で拾ってきた書籍の他には何もありません。
窓の外に目をやると、すっかり寝静まった近隣の住宅街とたまに車が通りかかる道路が広がっているだけです。
窓際に設置された飾り棚に置かれている、アンティーク調の女性の裸像を何とはなしに手に取ってみます。
ずいぶん前にフリーマーケットに立ち寄った際に購入した商品でしたが、今日までこれと言って役に立つことはありません。
こんな絶望的な深夜だからこそ不思議と癒しの効果があるようで、ようやくわたしは眠りにつくことが出来ました。
【転】軽率の曖昧な軽さ のあらすじ③
翌朝近所の犬が吠える声で目を覚ましたわたしは、コーヒー1杯だけの慌ただしい朝食を取って家を出ました。
朝の通勤ラッシュで込み合った列車の中でも、昨日の衝撃的な体験は忘れることが出来ません。
出勤途中のサラリーマンやOL、騒がしい学生たちのグループ、乳母車を押した若い母親。
見ず知らずの通行人への攻撃的な衝動を、何とか抑えて目的地で下車します。
わたしが向かった先は本郷三丁目になり、スポーツ用品を専門に扱う輸入会社のオフィスが入った増田ビルです。
管理人の伊藤さんに声をかけると、テーブルのある管理人室に案内され紅茶をご馳走してくれます。
ほっとひと息ついていると石田という名前の女性客が後から部屋の中に入ってきますが、わたしが挨拶してもあれやこれやと話題を振ってもなしのつぶてです。
酷く緊張している彼女の背中をさすってリラックスさせてやりたいのはやまやまですが、セクハラ行為で訴えられてしまう恐れもあり実行出来ません。
【結】軽率の曖昧な軽さ のあらすじ④
翌日にインターフォンの音を聞いた私たちが自宅の玄関の扉を開けると、そこには伊藤さんに付き添われた石田が立ってしました。
先日の非礼のお詫びに訪れたようで、わざわざデパ地下で購入した洋菓子の包みまで手に下げています。
リビングルームに招き入れてお茶を沸かしている間に、ふたりの来客はドイツの伝統的なスイーツ「シュテツルツガット」に纏わる思い出話や薀蓄に夢中です。
本国ではビールに合うとして老若男女問わず人気を集めていること、スポンジ生地にジャムや季節のフルーツをトッピングした昔ながらのスタイルが王道であること、昨年の海外旅行以来すっかりハマってしまい今ではドイツ語の勉強まで始めたこと。
この前とは打って変わって愛想の良い石田に微かな違和感を抱きながらも、わたしは自然とお菓子と彼女に心惹かれていきます。
3人は無言でシュテツルツガットにかぶりつき、窓から入ってきたそよ風によって包み紙が音もなく飛んで行くのでした。
軽率の曖昧な軽さ を読んだ読書感想
オープニングの東浦和での暴力的な描写と、疾走感の溢れる展開に引き込まれていきます。
自分自身の身に降りかかってくる不条理な災難に対しても、抗うことなく嘆くこともなくただひたすらに受け流す主人公の姿が印象的でした。
中盤以降はガラリと変わって気だるいムードの中で進行していき、翌朝のオフィスビルでの出来事も味わい深かったです。
不可解な女性客に不愉快な思いをしながらも、全てを受け入れるような達観の境地を感じました。
全編を通して重苦しい雰囲気の物語ですが、シュテツルツガットが登場するシーンだけは僅かな癒しの効果があります。
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