【ネタバレ有り】穴 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:小山田浩子 2014年1月に新潮社から出版
穴の主要登場人物
松浦あさひ(まつうらあさひ)
非正規社員として29才まで働いてきた。現在では専業主婦。
松浦宗明(まつうらむねあき)
あさひの夫。会社員。
世羅(せら)
あさひ達のご近所さん。5歳の男の子の母。
穴 の簡単なあらすじ
松浦あさひは夫の転勤に伴って仕事を退職し、市街地から田舎町へと引っ越しをすることになります。正体不明の生き物や不可解な親族に隣人、更には夫がひた隠しにしていた家族の秘密までもが次第に明らかになっていくのでした。
穴 の起承転結
【起】穴 のあらすじ①
松浦宗明は5月の末に転勤の辞令を受け取ったために、赴任先の営業所がある田舎町で手頃な物件を探していました。母親に相談すると、実家の隣にある借家が現在空き家になっていることが分かります。
2階建ての駐車場付き一軒家ながらも家賃はひと月52000円と格安になり、妻のあさひも乗り気です。
2週間後に引っ越しが決まったためにあさひは非正規で働いている職場に退職を申告しますが、これといって引き留められることはありません。
新しい生活がスタートしたあさひでしたが、ショッピングモールも図書館もない辺鄙な土地柄に時間を持て余し気味です。
午前中6時前に起床して夫のお弁当を作って送りだした後は、最寄りのスーパーに買い物に行く他は何の予定もありません。
自然と昼寝をすることが多くなったある日の昼下がり、義母が職場から携帯に電話をかけてきます。
どうしても本日中に払い込みをしなくてはいけない彼女に代わって、あさひは近所のコンビニに向かうことにしました。
【承】穴 のあらすじ②
あさひはもっぱらスーパーマーケットを利用しているために、この町で唯一のコンビニには引っ越し以来1度も行ったことはありません。
コンビニへと至る川沿いの遊歩道をたどっていくと、目の前には見たこともない黒々とした獣がいました。
明らかに犬や猫とは違った毛並みを身体つきになり、いたちでもなくタヌキでもない希少な品種のようです。
獣の後をついてに導かれるかのように、あさひは草むらに隠されていた穴に落ちてしまいます。
深さは1メートル以上もあり穴の周辺には古雑誌や空き缶などが散乱しているために、脱出するのは容易ではありません。
そんなあさひを窮地から救い上げてくれたのは、白いロングスカートに半袖のブラウスを身につけて、日傘を差した世羅という女性でした。
あさひたちが住んでいる一軒家の反対側の隣にある大きな家の住人で、市内から20年以上も前にこの地に嫁いできたとのことです。
慣れない土地でやることも特にない今のあさひの状態を、「人生の夏休み」と例えます。
【転】穴 のあらすじ③
ある日の午前中にあさひは、夫の実家の母屋と隣家の境に設置されているブロック塀の付近に見慣れない人影を目撃しました。
義母は既に出勤していて、家にひとり残っている夫の祖父は耳が遠いために余り頼りになりません。
思い切ってあさひが話しかけてみると、この前コンビニに立ち寄った時に見掛けた「先生」と呼ばれている中年男性です。
宗明の兄と名乗り出た男でしたが、あさひは結婚前から夫が独りっ子で長男だと聞いています。
20年前に学校を退学して実家の敷地内にある掘建て小屋に引きこもってしまったこと、今でも仕事もせずに無為な毎日を繰り返していること。
突然の告白に呆気にとられてしまったあさひは、以前に落っこちた穴について訪ねてみます。
義兄の話によれば黒い獣の仕業で、何年間も1匹で穴を掘り続けているそうです。
あさひは一代限りで繁殖能力もない不可思議な動物と、結婚もせずにこの先子孫を残すこともないであろう義兄とを重ねてしまうのでした。
【結】穴 のあらすじ④
お盆休みに入った頃、真夜中に義祖父が家を抜け出す騒ぎがありました。
1番最初に不審な物音に気付いたのはあさひで、義兄も後に続いて夜道を追いかけていきます。
ふたりがようやく義祖父を発見した場所は、川原に開いた一際大きな穴です。
苦労して中から引っ張り上げて義母の下へと送り届けましたが、熱を出して寝込んでしまい間もなく病院で亡くなりました。
お葬式には親族か近隣住民かと思われる老婆や老爺が詰めかけていましたが、義兄だけは姿を現しません。
掘建て小屋にも帰っていないようで、果たして本当に義兄が存在するのが疑わしくなってしまいます。
夏の終わりにあさひはコンビニでのアルバイトが決まったために、通勤用に自転車を購入します。
川沿いの遊歩道を走っていると彼岸花が咲き乱れていて、黒い獣はすっかり消え失せていていつの間にか穴もありません。
明日から出勤となるあさひが試しに自宅で店員の制服を試着して鏡に立ってみると、そこには義母そっくりな女の姿が映っていたのでした。
穴 を読んだ読書感想
非正規の従業員ながらも慌ただしい日々を送っていたヒロインの松浦あさひが、ある日突然に田舎に投げ込まれて戸惑う様子が印象深かったでした。
気だるげに流れていく時間や、正体不明の動物たちが徘徊する獣道が何とも不気味です。
どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている隣人、世羅がポロリとこぼす「人生の夏休みね。」
というセリフがぴったりとはまっています。
ただでさえ安い家賃を更に負けてくれる義母に、朝早くに出勤して夜遅くに帰宅する夫。
他の誰かの好意に甘えて長い休暇を享受していたあさひの、クライマックスでの細やかな一歩が微笑ましかったです。
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