「Phantom」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|羽田圭介

「Phantom」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|羽田圭介

著者:羽田圭介 2021年7月に文藝春秋から出版

Phantomの主要登場人物

華美(はなみ)
32歳。外資系食品メーカーに勤務。元地下アイドル。

尾嶋直幸(おじまなおゆき)
32歳。華美と同じメーカーの工場で働いている。華美の恋人。

室田優一(むろたゆういち)
華美の元カレ。大学の演劇サークルで一期上だった。いまは傭兵。

赤沢(あかさわ)
直幸を救出するために、室田優一が組んだ傭兵仲間。

乃愛(のあ)
華美のコスプレ仲間。二十代後半。

Phantom の簡単なあらすじ

華美は食料品メーカーで事務職として働いています。

彼女は、一年あたり二百万円台の少ない収入を切り詰め、投資によって資産を増やしています。

華美の恋人の直幸は、お金を使わないことに批判的で、行為の等価交換を提唱するコミュニティに、しだいにとりこまれていきます。

華美は、恋人を救出するために、元カレで、いまは傭兵をやっている男を呼ぶのですが……。

Phantom の起承転結

【起】Phantom のあらすじ①

華美の財テク

華美は大学時代、演劇サークルに所属する一方で、売れないアイドルをしていました。

いまは、千葉県にある外資系食料品メーカーの工場で、経理事務をしています。

華美の年収は二百万円台です。

彼女は生活を切り詰め、長期投資で株を買って配当金を稼いでいます。

目標は資産を五千万円にふやすことです。

もし五千万円あれば、それを年五パーセントで運用して、年収と同じくらいの二百五十万円を、毎年得ることができるからです。

さて華美には、同じ工場で働く直幸という恋人がいます。

年は同じ三十二歳で、年収も同じくらいの二百万円台です。

彼は華美の財テクを小馬鹿にし、末という人が主催するムラのことを誇ります。

そのムラの有料会員たちは、行動と行動の等価交換により、お金を介さずに富を分け合っているのです。

華美は末のことをネットで調べてみました。

確かにカリスマ性はあるものの、会員たちが出している会費のことを考えると、うさんくさい、とも感じるのでした。

さて、華美の財テクは、基本は長期投資ですが、なかなか増えないことにいらだちもあります。

久しぶりに、短期投資をしてみたところ、一日で五パーセントも稼ぐことができました。

しかし、調子に乗って別の株を買ったところ、それは値を下げたのでした。

【承】Phantom のあらすじ②

お金はなんのため?

華美は友達に誘われてサーフィンに行きました。

サーフィン仲間のひとりに、一流企業に勤めていて、お金をせっせと貯めこんでいる男がいました。

仲間たちは、華美と彼が、気が合いそう、と言います。

しかし、すでに五千万円の貯金がありながら、ろくに運用もしない彼のことを、華美は軽蔑するのでした。

また別の日、華美は無料の投資セミナーに参加し、そこに来ていた老人男性たちと話をしました。

彼らは一億の資産を持ちながら、株主優待にこだわって、倹約につとめています。

その生活ぶりは貧しく、生活保護受給者と変わらないのでした。

さらに別の日、会社の帰りに、直幸が華美のアパートに来ました。

彼は、華美のお金に関する姿勢を非難します。

「使わないお金は死んでいる。

お金を使って、いまを楽しく生きたほうがよい」と言うのです。

彼が参加しているムラでは、医者や、元自衛隊員もいて、財産を捨てて、ムラに移住し、助け合って、いきいきと暮らしているそうです。

そんな話をしているときに、テレビで交通事故のニュースが流れました。

老人の運転するロールスロイスのファントムと、二十四歳の女性が運転する軽四が正面衝突し、軽四はひとたまりもなくつぶれて女性が亡くなった、ということです。

五千万円のロールスロイスを買っていれば助かった命のことを思うと、「使わないお金は死んでいる」という直幸の言葉が、実感としてわかるのでした。

【転】Phantom のあらすじ③

離れていく恋人

バーベキューパーティーに送ってもらったことで、華美と親しくなった、田所という男性がいます。

彼は直幸の一年後輩で、元は華美と同じ会社の社員だった人です。

田所は、直幸に誘われて、末のコミュニティの会員になっています。

自分の家の蕎麦屋を繁盛させる助けになればよい、と考えての会員だそうです。

その田所に、直幸について尋ねる機会が増えました。

直幸はどんどんコミュニティにのめりこんでいっているようです。

一方、華美はこの頃、コスプレイヤーとして楽しく活動しています。

そのかたわら、サーフィン仲間の男性と飲みに行ったりもします。

それらのことがきっかけで、華美は直幸と喧嘩してしまいました。

あるとき、華美はコスプレイヤー仲間の女性を家に泊めたのですが、それが何回か続いたら、疲れを感じました。

それに比べて、直幸といっしょにいたときは疲れなかったことを思い出します。

その直幸は、会社に休職届けを出し、いよいよムラに移住しようとしています。

一方、ムラの主催者である末の思想が危ないものに変わってきました。

華美は、元カレで、いまはフリーの傭兵をしている室田洋一に相談します。

彼がざっと見積もったところでは、直幸をムラの外に連れ出すのに二百五十万円ほどかかるとのことです。

惜しいお金ですが、使うべき時に使えない人間は死ぬ、と華美は考えるのでした。

【結】Phantom のあらすじ④

恋人を救出したものの

華美は直幸を連れ戻しにいくことにしました。

室田と、彼の傭兵仲間だという赤沢という男といっしょです。

赤沢はかつて就活に失敗し、思想もなくシリアへ行って人を殺したようです。

彼らと一緒に潜入したムラは、陸の孤島のような場所にありました。

ムラには、「省」が設けられていました。

直幸が「科学省」に入っていったというので、あわてて華美も入ってみました。

そこには美人たちが集められ、係員が、人類のアップデートのためにムラの幹部の優秀な子を産むように、と彼女たちを洗脳していました。

美人たちのなかには、アイドルの女の子もいました。

その晩、華美は、アイドルの子が自殺しようとしているところに出くわしたので、止めました。

さらには、アイドルの子に頼まれ、水責めにされていた女性も助けます。

華美たちは室田や赤沢とともに、ムラを出ようとします。

途中、直幸に出会ったので、彼も連れ出しました。

ムラを出てしばらく行くと、警察とテレビ局の人に遭遇しました。

彼らに事の次第を打ち明けた結果、官憲が動き、ムラは壊滅したのでした。

しかしその後、ムラの残党たちが、それぞれに新たなムラを作ったようです。

華美は直幸とは別れました。

直幸もまた、自分のムラを作ろうとしているようです。

一方、華美は、少し人生観が変わりました。

お金をいま使って、初めていまを生きられる、そう考えるようになったのです。

華美はコスプレに熱中し、充実したいまをすごしています。

Phantom を読んだ読書感想

将来のため、ひたすら倹約して投資に精を出す女と、少ない収入をどんどん使っていまを楽しく、という男。

どこかで見たような構図だな、と思ってよく考えたら、これ、童話の「アリとキリギリス」の構図なんですね。

ただし、童話のほうでは一方的にアリが正しくて、遊んでばかりのキリギリスは間違っている、とされているのですが、本作では少し違います。

友人関係も親子関係もないがしろにして、お金、お金、お金とばかり言っている主人公の華美の姿は、少しおかしいのではないか、という姿勢で描かれています。

その一方で、いまさえよければ、という華美の恋人の姿勢も、全面的に正しくはない、というふうに描かれています。

結局のところ、将来にそなえつつ、いま必要なお金はそれなりに使って、生活を充実させる、という、主人公が最後に到達する考えが、一番まともなようです。

もちろん、そのような硬い教訓を学ぶ書とはとらえず、華美と直幸の波乱含みの物語を、単純に楽しめばよいのかもしれません。

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