著者:川野芽生 2024年1月に集英社から出版
Blueの主要登場人物
朝倉真砂(あさくらまさご)
トランスジェンダー。高校三年生で、演劇部員であったときの名前が朝倉真砂。元の名前は、朝倉正雄。大学では、朝倉眞��と名乗る。
宇内瑠美(うだいるみ)
高校三年生で、演劇部員であったときは部長。178センチの長身。滝上ひかりに片想い。
滝上ひかり(たきがみひかり)
宇内瑠美のクラスメート。小説を書く。小柄な少女。
水無瀬樹(みなせいつき)
高校三年生で、演劇部員であったときは、ヒロインをよく演じた。
榊葉月(さかきはづき)
真砂が大学で出会った、不思議に不幸そうな女の子。ダメな男とばかり恋愛する。
Blue の簡単なあらすじ
男子でありながら、高校進学後、女子として生活するようになった真砂は、演劇部で人魚姫の役を演じます。
三年後、母校の後輩たちといっしょに、人魚姫の劇を再演しようという話が持ち上がります。
しかし、皆の前に現れた真砂は、男性の姿に変わっていたのでした……。
Blue の起承転結
【起】Blue のあらすじ①
真砂はトランスジェンダーの高校三年生です。
一年生のときには男子として学生登録しましたが、いまは女子として生活しています。
真砂は演劇部に所属しています。
ほとんど女子ばかりの部です。
さて、演劇部は三年生が主体となって、今度の文化祭で、人魚姫のオリジナル劇を上演することになりました。
脚本については、部長の宇内瑠美が、同級生の滝上ひかりに執筆を頼みました。
滝上ひかりは、宇内が片想いを続ける相手です。
滝上は小説しか書いたことがなかったのですが、宇内の頼みを引き受けました。
滝上の書く脚本は、初めは小説のようでしたが、しだいに脚本らしくなっていきます。
演劇の稽古をしながら、部員たちと滝上との間で、人魚姫や王子や王女の心情について、話が交わされます。
「人魚姫はなぜ王女に惹かれたのか?」「人魚姫はなぜ王子といっしょにいようと考えたのか?」といった内容です。
その会話のなかで、「人魚には魂がなく、人間に本当に愛されることで初めて魂を持ち、死んでから天国に行けるのだ」ということがわかります。
【承】Blue のあらすじ②
真砂は中学のとき、幼なじみの蓮に誘われて、男子サッカー部に入りました。
真砂は、なぜ女子といっしょにサッカーできないのか、という違和感をおぼえます。
真砂は体が小さく、女の子のようでした。
一年生のとき、真砂は三年生の男子サッカー部員から告白されました。
真砂は結局サッカー部をやめました。
どんどん男っぽくなっていく蓮からは、けがらわしいものを見るような目で見られました。
その後、真砂は、元は女子高で、いまも女子の多い高校へと進学しました。
入学後、部員のほとんどが女子の演劇部に入部しました。
真砂に与えられた役は、女性の役でした。
先輩女子から、女子の制服を貸してくれるという話もきました。
真砂は両親に話をし、本名の正雄から、女子の真砂に変わって、生活していくことにしました。
三年の文化祭では、人魚姫のミアを演じることになりました。
稽古が進み、なかなかによい仕上がりを見せています。
さて、時は巡り、それから三年たちました。
かつての演劇部のみんなから、集まろうと誘われました。
母校の演劇部が、あのときの人魚姫のオリジナル劇を再演するというので、その話し合いをするためです。
再会した真砂は、女子ではなく、男子の眞��となっていました。
眞��は、自分は、いまはこんなふうだから、もう人魚姫は演じられない、と言うのでした。
【転】Blue のあらすじ③
眞��は皆にこれまでのことを説明します。
彼は、以前は性転換手術を計画していました。
時期的には、大学を出て就職する段階で性転換が終わっていないといけないと考えました。
でないと就職に不利なのです。
そして日本では、大学卒業時に就職できないと、一生取り戻すことがむつかしいのです。
そう考えると、大学でアルバイトをして、二年ほどで二百万円貯めなければなりません。
眞��の両親は、トランスジェンダーに理解を示しつつも、手術には反対でした。
眞��は大学入学後、一人暮らしを始めました。
そこへコロナのパンデミックが襲ってきて、アルバイトどころではなくなりました。
それどころか、病院が不要不急の患者受け入れを拒否したため、眞��は男性化を抑えるホルモン治療ができなくなってしまいました。
眞��の身体は男性化していきました。
眞��は、女性の心を持った男性として生きていくしかありませんでした。
そんな眞��の前に、不幸な女性、榊葉月が現れます。
葉月はダメな男ばかりを好きになる女です。
葉月を引き止めようとして引き止められない自分を、眞��は歯がゆく思うのでした。
さて、一通り眞��の話が終わりました。
そういった事情なので、自分はもう人魚姫は演じられない、と眞��は言います。
滝上は、不思議そうな顔で、「やればいいんじゃない」と勧めます。
みんなに、自分のいまの姿を見られたくなかった、と思いつつ、眞��は皆といっしょに母校に向かうのでした。
【結】Blue のあらすじ④
眞��たちは母校を訪れ、現在の演劇部の部員たちと交流しました。
みんなが後輩を指導するなか、眞��は黙って見ていただけでした。
学校からの帰り道、眞��が実家に泊まらないことがわかって、皆が驚きます。
結局、滝上の勧めにより、眞��は滝上の家に泊まることになりました。
滝上のシングルマザーの母親は、今夜は夜勤だそうです。
その夜、眞��は滝上とおしゃべりします。
滝上は百合小説のようなものを書いてネットに発表しています。
彼女は、人間関係においてすべて自由でいたい、という考えの持ち主のようです。
ふたりで話していると、葉月から久しぶりに連絡がきました。
恋人が怒るので、もう眞��には会えない、とのことです。
葉月は眞��を男としては見ていません。
でも、恋人のほうは、葉月が自分以外の男と仲良くするのが気に入らないのです。
眞��は、その恋人が葉月を束縛するダメ男だと思っていますから、葉月に「恋人と別れて、自分を選んでほしい」と言います。
でも、拒否されました。
葉月は「彼は私がいないとダメなの」と言い、眞��もまた、自分がいないと葉月がダメになる、と思っているのでした。
こうして、葉月との仲は終わりました。
滝上におやすみなさいした後、眞��はネットに投稿された滝上の作品を読みだしたのでした。
Blue を読んだ読書感想
第170回芥川賞候補作です。
ひとりのトランスジェンダーの男子が軸になっている作品です。
ですが、彼が女性になりたいという欲望は、それほど強くは描かれていないように感じられます。
なんとなくフワフワとして、頼りなく、落ち着かない生き方をしているような印象です。
彼と対照的なのが、人魚姫の戯曲を書く滝上ひかりという女子です。
人それぞれにさまざまな生き方があってよい、といった、すべてを受け入れる、ひょうひょうとした仙人のように描かれています。
主人公は、この滝上のようには生きられないために、傷つき、悩み、苦しんでいるようです。
そして、そういう姿は、私たち自身の姿に重なります。
つまり、へたくそな生き方しかできないために、皆悩んでいるわけで、そういう意味で、この作品は、普通に生きる私たち自身の物語という気がしたのでした。
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