「荒地の家族」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|佐藤厚志

「荒地の家族」

著者:佐藤厚志 2023年1月に新潮社から出版

荒地の家族の主要登場人物

坂井祐治(さかいゆうじ)
四十歳。造園業のひとり親方。

坂井晴海(さかいはるみ)
祐治の亡き妻。

坂井啓太(さかいけいた)
祐治のひとり息子。小学生。

星知加子(ほしちかこ)
仙台の百貨店の広報室長。祐治の後妻となったが、現在は離婚協議中。

篠原明夫(しのはらあきお)
祐治の小中学校時代の同級生。

荒地の家族 の簡単なあらすじ

東日本大震災から十年以上がたちました。

坂井祐治は造園業のひとり親方として、東北の地で働いています。

震災前とは、風景も、人も変わりました。

祐治の胸に、十年間におこったさまざまな出来事が去来します。

最初の妻の死、再婚したものの流産して家を出て行った元妻のこと、ぎくしゃくするひとり息子のこと、等々。

そこに、元同級生たちとの人間関係が絡んできます。

祐治は重苦しい日々を、懸命に生きていきます……。

荒地の家族 の起承転結

【起】荒地の家族 のあらすじ①

大震災から十年以上たって

東日本大震災から十年以上がたちました。

東北の地で、坂井祐治は造園業のひとり親方として、細々と仕事を続けています。

この地は、すっかり様変わりしました。

津波に飲み込まれた土地に、防潮堤が築かれ、海と陸を分離しました。

人も景色も、かつての面影はありません。

祐治の生活にも、様々なことがありました。

震災から二年後、妻の晴海はインフルエンザで死亡。

父は震災前に亡くなっており、母の和子と、幼い息子の啓太との、三人暮らしになりました。

妻が亡くなって六年後には、星知加子と再婚したのですが、彼女は流産した後、家を出ていってしまいました。

いま祐治は、造園業のかたわら、役場に勤める元同級生の、河原木達也から紹介された仕事をしています。

白線引きでも掃除でも、なんでもやります。

ある日、父の元部下である篠原六郎の家に庭木を植えに行くと、元同級生の篠原明夫に会いました。

しかし、昔は話をした明夫は、祐治をまったく無視して、去っていったのでした。

またある日、高校野球部OBの郷古友夫が、人手を集めるために訪ねてきました。

祐治は、今のところは仕事がいっぱいなので、申し出を断りました。

祐治は、野球部監督の藤堂の影響が、いまだにあることを思い知ります。

彼は監督のことを嫌い、高卒後の就職先も、あえて監督と縁のないところを選んだのでした。

【承】荒地の家族 のあらすじ②

明夫と晴海のこと

河原木がまた仕事を持ってきてくれました。

その際に、明夫のことが話題にのぼりました。

河原木と明夫は、昔同じ大学でバンドを組んでいた仲です。

晴海もそのバンドのメンバーで、当時の明夫は晴海に片想いしていました。

しかし、祐治のほうが晴海と親しくなり、やがて結婚したのです。

明夫は祐治のことを嫌いましたが、あくまで昔の話です。

明夫は、いまは祐治のことをうらやましく思っているようです。

明夫は大学を出てから、塗装会社に勤め,自動車工場に移り、いまは中古車販売会社にいます。

彼の妻は、夫婦喧嘩をして実家に帰っている間に、東日本大震災にあい、津波にのまれて亡くなったのです。

さて、数日後、祐治は明夫のもとを訪ねました。

後妻と離婚したことを打ち明け、「うまくいかないことばかりだ」とぼやくと、「報いだよ」と言われてしまいました。

実際、何もかも、うまくいきません。

息子の啓太との仲も、なんだかギクシャクしています。

もしも晴海が生きていたら、もっと違っていたのでしょうか。

晴海は大震災のころから体調が悪くなっていきました、津波で商売道具を失った祐治は、元いた会社から仕事を分けてもらい、家をかえりみずに、懸命に働きました。

晴海はやがて高熱を出して入院し、肺炎で亡くなったのでした。

【転】荒地の家族 のあらすじ③

啓太のこと

晴海が亡くなったとき、息子の啓太はまだ就学前でした。

実家に移り住んで、母に啓太を預け、祐治はしゃにむに働きました。

震災後、仕事はふえたのです。

しかしある日、働きすぎた祐治はうつ状態となり、働けなくなったのでした。

いろいろなことがあって、いま、啓太との仲に隙間風が吹いています。

啓太に「子供」をやらせず、息子が「大人」を演ずるのによりかかっていた自分のせいかと、祐治は反省します。

また祐治は、知加子とのことを思い出します。

再婚してすぐ、彼女は妊娠しました。

しかし、おなかの子は、産まれる前に亡くなってしまいました。

そのとき祐治がやさしくしなかったせいでしょう、ある日突然、知加子は家を出ていったのです。

あとには、啓太だけがぽつんと取り残されていたのでした。

さて祐治は、仕事の幅を広げるために、若者をひとり雇いました。

でも若者は使い物になりませんでした。

そんなある日、啓太が怪我をしたという連絡がきました。

祐治は大慌てで病院にかけつけました。

啓太は意外に元気でした。

しかし、鉄棒遊びをしての怪我であり、一歩まちがえると命が危なかったのです。

祐治は「ばかやろう」とどなり、泣いたのでした。

【結】荒地の家族 のあらすじ④

明夫のこと

釣りをしに海へ行った祐治は、浜辺で、明夫が密漁仲間に関わっているのを見ました。

河原木にそのことを話すと、関わり合いにならないように、と諭されます。

別の日、仕事で仙台に行った祐治は、再び、デパートに知加子を訪ねました。

しかし、居留守を使われた上に、渡したい手紙すら預かってもらえませんでした。

かつて流産したとき、知加子は助けてもらうことを望んだのではありません。

ただ、いっしょに穴にこもって泣いてほしかっただけなのです。

そのことが、いまになってようやくわかるのでした。

さて、後日のことです。

祐治は、スーパーの酒売り場で明夫を見つけ、密漁をやめるように注意しました。

見張っている漁師たちに必ず見つかるから、と言いました。

そうしたら、祐治が心配した通りになりました。

密漁しようとしているところを漁師たちに見つかり、警察に捕まったのです。

しかし、明夫は病気のために、そのまま病院に入院させられました。

肺から肝臓へと病気が広がっていたのです。

明夫は一週間ほどで退院したあと、放射線治療を受けることになりました。

明夫の父親は「半年」と言います。

半年というのが、治療期間なのか、余命なのか、祐治は訊きませんでした。

それからまもなく、明夫は首をつって死にました。

その年の梅雨時、大雨で阿武隈川が氾濫しました。

洪水を見ながら、祐治はさまざまなことを思い出します。

そして家に帰ったとき、彼の頭髪は真っ白になっていたのでした。

荒地の家族 を読んだ読書感想

第168回芥川賞受賞作です。

読み終わると、おなかに重い石を抱いたような、ズンとした重苦しい感動が残りました。

主人公の半生は決して幸せなものではありません。

いくつもの不幸があり、つらい目にあい、それでも彼は自分なりにふんばって、なんとか自分の人生を生きようとあがきます。

その生きざまは読んでいてつらいのですが、目をはなすことができません。

なぜ目をはなせないかというと、彼の人生は、同時に、読んでいる私の人生でもあるかのように感じられるからです。

つまり「これは私の物語だ」と説き伏せられたような気持になったのです。

圧倒的な迫力で迫ってくる、ものすごい作品を読んだ、というのが、正直な感想です。

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