著者:辻村深月 2013年6月に講談社から出版
島はぼくらとの主要登場人物
池上朱里(いけがみあかり)
冴島生まれの高校生で、純粋で伸びやかな女の子。父親を幼い頃に亡くし、母と祖母と3人で暮らしている。
榧野衣花(かやのきぬか)
朱里の親友で冴島生まれの高校生。オシャレで美人だが、気が強くどこか冷めている。島の網元の一人娘。
矢野新(やのあらた)
脚本家を目指す演劇好きの高校生。少し気弱で真面目な性格だが、実はかなりの学力の持ち主。
青柳源樹(あおやぎげんき)
リゾートホテルの一人息子で、同級生4人組の中で唯一生まれが本州。島にやってきたのは2歳の時。デザイナーの母は島の暮らしに我慢が出来ず、源樹が5歳のときに離婚して出ていった。
島はぼくらと の簡単なあらすじ
瀬戸内海に浮かぶ「冴島」を舞台に、朱里・衣花・新・源樹の4人の高校生の物語です。
冴島に高校がないためフェリーで本土の高校に通う彼らは、卒業と同時に島を出ます。
それぞれの進路を前に、淡い恋と友情、島を背負う大人たちの覚悟、「幻の脚本」の謎、青春のきらめきの儚さー 島の人間関係の変化の中で、彼らが共に過ごせる最後の季節を描きます。
島はぼくらと の起承転結
【起】島はぼくらと のあらすじ①
この物語の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ冴島(さえじま)です。
人口は3000人弱、本土までフェリーの高速船で片道450円、20分ほどかかります。
冴島には中学校まではあるものの高校がありません。
なので島の子どもたちは中学を卒業すると同時に、フェリーで本土の高校に通うことになります。
この物語のメイン人物は、そんな冴島の高校生である池上朱里 ・榧野衣花 ・矢野新 ・青柳源樹 の4人です。
4人は冴島で一緒に育った高校2年生で、島には他に同学年がいないので、いつも4人でフェリーで一緒に高校へ通っています。
本土と島を繋ぐ直通フェリーの最終便は16時10分です。
そのせいで、島の子どもたちは高校の部活に入ることはできません。
新はそれでも大好きな演劇部に入部しましたが、毎日30分しか参加できず帰りのフェリーに乗るのはいつもギリギリです。
そんなある日、4人は冴島に戻るフェリーの中で見知らぬ青年に声を掛けられます。
胡散臭い作家を名乗る霧崎ハイジです。
霧崎は冴島に存在するという「幻の脚本」を探すため、Iターンしたのだと言います。
霧崎は無遠慮に住人に幻の脚本について尋ね歩くあまり、当然Iターンしてきた人達の間でも浮いた存在となり、冴島に不穏な空気を撒き散らし始めました。
一刻も早く霧崎に島から出て行ってもらいたい4人は、偽の幻の脚本を作ることにしました。
演劇部に所属する新が適当な脚本を書き上げると、小学校で見つけたと嘘をついて霧崎に渡します。
その翌日、霧崎は消えるように島を出ていきました。
その3ヶ月後、なんと霧崎は偽の幻の脚本を自分の作品として発表し、コンクールで最優秀賞を獲得します。
新は自分の脚本が評価されたことを密かに喜び、他の3人も新がそれでいいならと納得するのでした。
【承】島はぼくらと のあらすじ②
Iターンとは、都会で生まれ育った人が地方へ移住することです。
冴島は、島を活性化させるためにIターンを積極的に受け入れています。
Iターンをする背景はさまざまで、子育てしながら家族で来る者、夫婦2人世帯やシングルマザー、独身者が1人で移住してIターン同士で結婚することもあります。
事実、Iターンしてきた作家やWEBデザイナーのおかげで、冴島は漁業の通販サイトの仕組みが手軽になったり観光客が増えています。
冴島で暮らす多葉田蕗子・未菜の母娘もまた、Iターンでした。
蕗子は4年前オリンピックの水泳で銀メダルを獲った有名な競泳選手でした。
しかし、その栄光にすがり多くの悪意ある人々が蕗子に取り入ろうとします。
そんな状況に疲れ果てた蕗子は既婚者のコーチと過ちをおかしてしてしまい、未菜を妊娠してしまったのです。
それでますます居場所を失い、蕗子はこのままでは未菜が不幸になってしまうと感じました。
そしてシングルマザーとして1人で未菜を育てる覚悟を決め、すべてを捨てて娘の未菜とともに冴島にやってきたのです。
蕗子と未菜は池上家と仲が良く、度々おじゃましては一緒に夕食をとっていました。
また、冴島は国土交通省から地域活性デザイナーの谷川ヨシノを招いていました。
ヨシノはその場所が抱える問題を解決する仕事をしており、蕗子と未菜を助けることも仕事に含まれていました。
島外のことからすっかり心を閉ざしていた蕗子でしたが、ヨシノやみんなの説得もあって自分の両親と再会します。
蕗子の心の傷も少しずつですが癒えていくのでした。
冴島は少子高齢化の歯止めをかけるべくIターンを推奨した結果、古くからの住民と新規が共存した離島へと生まれ変わったのです。
ヨシノはIターンやシングルマザーを受け入れ、過疎を食い止めて成果を出したのです。
【転】島はぼくらと のあらすじ③
朱里の母親が社長を務める食品加工会社「さえじま」が、地域おこしのサンプルとしてテレビで取り上げられることになりました。
ヨシノが仲介し従業員含めてみんながやる気になっていましたが、村長がこれに反対し出しました。
その収録を巡って今まで仲良くしていたヨシノと村長が対立してしまうことになります。
ここにきて村おこしに精を出す村長が実は自分や自分の関係者の都合ばかりを優先し、それなりの小物であったことが次々と明らかになっていきます。
冴島に医者がいないのも村長の意向でした。
懇意にしている家の息子が医大生で、彼を島の医者にするために誰も呼ばなかったのです。
結局、朱里の母親とヨシノはテレビの取材を断り、ヨシノは島との契約を更新せず別の場所へ移ることになりました。
そんなときに未菜が血を吐いて倒れてしまいます。
呆然とする朱里と取り乱す蕗子を救ったのは、WEBデザイナーとして3年前にIターンでやってきた本木でした。
実は本木は医者であることを明かし、適切な処置で未菜を助けます。
島の人々は本木が医者であったことに驚きを隠せません。
本木には医学部を卒業するも研修を終えてから命の重さに耐えきれず、医者の道を諦めてしまった過去がありました。
そんな本木が冴島に来たキッカケは、差出人不明の手紙でした。
手紙を出したのは新の母です。
村長が医者を島に呼ばないことに危機感を覚え、本木のような元医者に手紙を出していたのです。
冴島でも正体を明かすつもりのなかった本木でしたが、これをキッカケに島のみんなに受け入れられました。
そしてヨシノとの別れの日が訪れました。
【結】島はぼくらと のあらすじ④
島では、朱里の祖母の同級生が亡くなりました。
村長が形見分けを朱里の祖母に持ってきます。
祖母の島での同級生は、祖母を含めて3人居ましたが、島を出た一人は行方がわからなくなっていました。
そこで行方が分からないもう1人の同級生・千船碧子にも渡してほしいと依頼されます。
過去に連絡を取ろうとしても取れず、わかることは過去に東京にいたことだけです。
朱里たち4人は再来週に修学旅行で東京に行く予定だったため、碧子を探すチャンスとして演劇鑑賞の時間に抜け出すことを決意します。
実行当日、会場を後にしようとする4人にこの演劇の脚本家である赤羽環が声を掛けました。
事情を話すと、実はヨシノの友人とのことで一緒に碧子を探してくれることになりました。
碧子の移住先を訪ねた5人でしたが、碧子はすでに引っ越した後でした。
がっかりする朱里たちでしたが、後日、環が碧子と思われる人物が教師として大阪にいるらしいということを突き止めます。
4人で大阪へ向かいましたが、碧子はすでに亡くなっていました。
しかし碧子の勤めていた学校で、生前の姿が映ったビデオを見ていたとき、幻の脚本の正体に新が気付きます。
島の子どもたちの人数が増えても減っても演劇が続けられるように、子どもの人数に合わせて使い分ける工夫がなされた脚本だったのです。
新はこの脚本を過疎地にいるヨシノに届けたいと思い、現代風にアレンジすることを決意します。
新の書いた脚本は環がヨシノに渡すことになりました。
島に戻った衣花はある決意をします。
他の3人はそれぞれの夢に向けて進学して行きました。
7年後、25歳になった衣花は網元の娘として村長を勤めることになりました。
そして朱里は看護士、新は脚本家、源樹は母親と同じデザイン工学の道へ進みました。
ラストは村長となった衣花が、新しい看護士を迎え入れる場面で話が終わります。
「ただいま」「おかえりなさい。」
島はぼくらと を読んだ読書感想
離島の高校生たちのキラキラした青春の輝きと、現実の重さや人間関係の煩わしさなどが対照的な作品でした。
地方の過疎化など社会的な問題も取り上げられていて、現実問題として深く考えさせられました。
4人の進路には伏線が張り巡らされていて、全員が納得の職業なり未来に繋がっていきました。
物語の中盤は、人間の悪意や汚い部分に多くスポットライトが当たり、読むのが辛くなるような重たい気持ちになりました。
しかしラストの村長・衣花と看護士・朱里の再会はとても感動的で、いろいろな問題が解決したあとの爽やかな締めくくりでした。
青春真っ只中の若い方より、青春を終え紆余曲折あった大人にこそお勧めの小説です。
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